取り調べ合い
返事をくれてありがとう。
パールトンと呼んでくれるとは嬉しいね。
私も子供の頃読んだものさ、パールトン探偵物語。
私は先に言った通り退屈でね、娯楽に飢えているから、こういった些細な楽しみも逃さないようにしているのさ。
いやあ、そして、更に問題のプレゼント付きとはありがたい。
魔法を共有する魔法使いの逸話…は、あるね。
それこそサージェント伯爵の思考の元となったであろう魔法使いがいるよ。
君もサージェント伯爵の文献を漁ってみたまえ。
自分で探し出した知識は、何者にも勝る財産になるからね。
図書室にはないかもしれないけれど、図書館にはあると思うよ。
足の持ち主だがね、SASブランドは量販されてはいるのだが、この足が履いていた靴は特別なんだ。
夏でも防滑用のラバーが貼り付けられていて、補強も入っている。
そして裏側の刻印。
PJ5003Wと書いてあったんだよ。
これは、ある特定の職業の制服なんだ。
Pと書いてあるから察しはついたかな?
そう、警察の制服なんだよ。
君ならそれも調べられるだろう。
分かったらこうして教えて欲しいな。
そちらの近辺に、警官が襲われた事件が新聞に載ったりしていないか、とかね。
そうそう、もし靴を見たいのならば頭の中で「リスト」と唱えたら何が入っているか見られるよ。
足と靴は分けておいたから、安心してくれたまえ。
それに、リストを見て欲しいものがあれば好きに使ってもいいからね。
お菓子も入っているからね。
食べてくれて構わないけれど、たまにでいいから私にも君が入れたものを頂けると嬉しいな。
おすすめを交換しあったら、新たな知見を得られそうじゃないか。
ちなみに、今日のおすすめはオレンジのチョコレートがけだ。
苦味がある大人の味だが、食べ知ってみるのも楽しいよ。
◆
朝起きて、朝食の前にノートを取り出す。
もちろん学校カバンからではなく、空間魔法からの見知らぬ人との交換ノートの方。
これから足の件に関して駐在がやってきて話をするのだ。
パールトンに授けられた知恵を持って対峙する。
その前提があれば、聞く質問や、駐在の話す情報の受け取り方が違うかもしれない。
良かった、先に見ておいて。
知るべき事、探らなければいけない事をメモしたものをポケットへとねじ込み、リビングへ降りた。
今日探れる事は…。
実際の警官と対面出来るから、刻印の確認が出来る。
話題を自然に切り出せるならば、最近行方不明になった警官の情報も得られるかもしれない。
もし今日会う警官の刻印がPJ5003Wと違えば、個人で番号が違う可能性があるので、足が誰のものか分かるかもしれない。
誰のものか分かれば、事件も追える。
事件を追えれば、その犯人が父の行方を知っている可能性がある。
メモを反芻しながら、ゆっくり朝食を食べて少し経った頃に家のチャイムが鳴った。
心臓がどきりと跳ねる。
任務がシロの平静を揺らがせ、決意を立たせた。
「どうも、すみません、捜査の関係でどうしてもこの日しかダメで。
ごめんな、ボク、平日で学校もあるだろうに。」
母へ謝りながら、シロの対面へと座る見知らぬ男の人。
シロは当てが外れて、少し焦った。
想像していた制服の警察官ではなく、現れたのはトレンチコートにスリーピーススーツの男。
靴もよく磨かれた黒い革靴で、配布されている制服とは思えない高級品に見える。
「初めまして、シロ君。
俺はブラックといいます。
刑事だ。
…刑事っつっても分かりにくいか。
簡単に言うと、君のお父さんの行方と、足が落ちていた件について捜査しているのが、俺。
俺も頑張って探すから、シロ君も協力してくれよな。」
強く黒い目、ツヤで固められた黒髪、大きな体躯。
子供のシロを威圧する様な人物ではなさそうではあるが、そんな恐怖心を煽る雰囲気を漂わせている。
それを気にしているのか、話し方はフレンドリーさを感じ、笑顔を絶やさないようにしているのだろうと伝わってくる。
シロは椅子に座り直して、ブラックの目を見返し、よろしくお願いしますと返答した。
内心、この人から必要な情報を聞き出すのは無理かもしれないと、そう思った。
「よろしくな。
さて、前に聞かれた質問と重なるところもあるかもしれないけれど、色々聞いていくよ。
まず、足を発見した時間なんだけど、20時15分頃で間違いないかな。」
「間違いないです。
あの日…少し遅れている時計塔の鐘の音を聞いて急いで帰ろうと思って、裏路地に入り込んだから。」
「なるほど、鐘の音ね…。
なら時間はある程度確認できたって訳だなぁ…。
路地裏の場所は聞いてたからよ、そこを通りながらここまで来たんだが…大人の足で7分かそこらかかったかな。
君の歳頃なら…10分ほどかかるかな?」
「…足を見て、怖くなって走って帰ったのでもう少し早いと思います。」
それを聞いたブラックさんは手帳へ何かを記入して、ペンをクルクルと回しながら何かを考えている。
その手帳は身分証を兼ねているらしく、家へ訪ねてきた際に提示されたが、それは母に向けられており、シロは中を見る事は出来なかった。
「あの…。
その手帳って警察の人なら誰でも持っているものなんですか?」
「ん?そうそう。
証明にも使うからね、携帯は義務化されているんだ。」
ブラックは手帳に記入する手を止め、身分証のページをシロへと開いて見せる。
そこには目の前の男を写した写真と、ブラック・モントリオールという名前、所属、そして、PD9155Dという番号が書いてあった。
番号…!
「あの、PD9155Dってなんですか?」
「これはね、個人識別番号さ。
俺たちみたいな仕事は危険を伴うだろう?
危ない奴には近づく必要も出てくる場合もあるし、部署によっては危険な場所に入り込まなくちゃいけない。
だから、なにか持ち物が遺された場合にも、そこに落ちているのが一体誰のものかすぐにわかる様に記されていんだよ。
だからこのPD9155Dってのは俺の番号だね。
ほら、スポーツ選手の背番号みたいなものさ。」
やっぱりだ、とシロは思った。
似た番号だが、違う並び。
足に残された靴も間違い無く警察の物で、誰かを指し示しているのだ。
「アルファベットの部分と、数字の部分は、意味があるんですか?」
「おぉ、あるよ、賢いな、君は。
…なんでそう思ったんだい?」
しまった、とシロは思った。
なんでそう思ったかと問われると、比較するものがあったからとしか答えようがない。
「見たんだ、僕、落ちていた足が履いていた靴に、似た様な番号が書いてあったのを。」
しかし、シロは考える。
足が魔法の倉庫の中にあり、誰にも見つからなくなっている。
それを元にパールトンの手を借りながら自分の力で父の行方を探すつもりでいた。
刑事さんに話して追ってもらうのが普通で、その方が確実なのではないかと。
「…本当か…?
もしかして、君、その番号を覚えているのかい?」
「その時は覚えていて、メモをしました。
部屋にあるので取りに行ってもいいですか?」
勿論だ、とブラックに言われ、シロは自分の部屋へと戻って来た。
魔法でノートを取り出し、書き込む。
パールトンに相談する時間が欲しかった。
刑事とのやりとり、そして、刑事に追ってもらうべきか。
その判断の可否を知りたかった。
もしやめた方がいいと、パールトンが言うならば、メモは見つからなかったと言えばいい。
「パールトン、ブラックという刑事が来ました。
怖そうだけど、強そうな人です。
足の番号を教えて、お父さんを追って貰うのがいいと思いますか?」




