水は思いがけずとも凍る
もしかして、熱湯や氷を作り出すのは熟練が必要なのかな。
現象の理解をしたら苦も無く使えるもだと思い込んでいたんだけど、どうにも上手くいかないね。
ほら、私の魔法は珍しいから、中々、こう、理解するのが大変じゃないか。
そのせいか、世にある自然現象を模したような魔法の機微が分からなくて。
決して水魔法を軽んじた訳ではないのだけれど。
私が無知なだけで、悪気はないから、気を悪くしないでおくれよ。
君は簡単に氷とかを作り出せるのだろうか。
そうなら素晴らしい。
もしかして、自分で作り出した氷なら、瞬時に水に戻したり、一部だけ氷のままにしたり、そんな事も可能なのかな。
いつか教えておくれよ。
◆
「あのさー、シロー。
今日の魔法実戦授業、一緒にやんねー?
ほら、火属性は1人じゃ危ねぇからさ。」
大切な家族が行方不明だろうと、僕らを乗せて世界は回る。
鬱屈としていたとしても、休みも終われば、学校が始まるということでもある。
週に一度、座学ではなく、実際に魔法を行使して学ぶ授業がある。
シロに話しかけてきた彼、テルの様に、危険を伴う属性だと使用に厳しく制限が掛けられている。
自由に魔法が使える機会とはいえ、未熟な学生が安全策もなく好き勝手放ち放題打って構わない、とはなっていないのだ。
火の粉が飛べば草木に燃え移るし、熱風なら肌を焼く。
魔法である発火とはいえ、それは物質に燃え移りはするものだ。
現象とはそういうものだろう。
危険の大きな火魔法や雷魔法使いは特に厳しく指導されているので、授業の前にはこうして事故を避けるための相方を探す。
例えば、火魔法なら水魔法、雷魔法なら土魔法と。
「いいよ、テル、一緒にやろう。」
散る火に合わせて水を飛ばすのは練習になるし、集中を要する。
シロは今の精神状況で人と一緒に練習するのは悪い気がして乗り気とはいえなかったが、ぼーっとしているとあまり良くない考えが浮かぶので、没頭できる方が都合がいいと考えた。
クラスメイトはシロの家に起きた事件について、少なからず知っているだろう。
普段は授業が始まってからペアを探すことが多いのに、わざわざ朝からクラスメイトのテルがこう言ってくれたのは、気を遣ってくれているのかもしれない。
「いくぜー!」
授業が始まり、教師から魔法の使用許可が出ると、少し離れた所から声を張り上げる。
それにシロが右手を挙げて合図をすると、少ししてからテルの手から火が放たれた。
的に当たり、バフンと火が舞う。
それに合わせて、シャボン玉の様な泡の膜で包み込めば、周りの草木に火の粉は散らずに済んだ。
「なんかお前、いつもより調子良くねー!?」
シロは自分の手を不思議そうに覗き込みながら、確かにそうかもしれないと思った。
いつも通りにしたはずなのに、何故か泡は明確に分厚く、速かった。
速い、というのは、魔法の発動までスムーズで、その泡の回転も速い。
泡とは回転させて丸く安定させている水の膜なので、その回転が速ければ速いほどより安定し、強固になる。
父がいなくなって、気が落ち込んで何をするにも気が重かったから、逆に自身の魔力に向き合えているのだろうか。
シロはそんな風に仮説を立ててみたが、集中力の差などというそんな些細な差ではない事が、次で明らかとなった。
「次!いくぜー!」
いつもより良いとはいえ、思ったより強いということは、思い描いた制御ではなかったのと同義である。
強い魔法よりも、制御できている魔法をと親からも教師からもその様に教わっている。
その通りにより慎重に丁寧に魔法を発動すると、より大きな異変が起きてしまった。
例えば火の魔法が上達していくと、爆発を起こす事が出来る。
教科書によると、魔力量が多い火がしっかり制御されている状態で目標に当たると、制御が解除される。
その際に周りの空気を多大に吸い込み、一気に吐き出すことで爆発が起きるらしい。
火と爆発は別の現象だが、魔法の威力と制御が強くなれば別の要因が併さって、更に強い魔法になることがある。
土魔法であれば、土や砂の塊があたかも金属の様になるし、風魔法は気圧差で切れ味を生む。
では、水魔法は。
モヤがかかり、透明よりも白に近い、シロの魔法。
「うぉ、やっばー!すげぇな、シロ。」
狙ってやったのなら、本人もそう思って喜んだことだろう。
だが、シロは丁寧に、いつも通りやろうとした。
なのに、結果は、今まで一度もできた事のない、氷。
それも、少し凍っているとか、シャーベット状になるという成長段階をもすっ飛ばし、カチカチに凍りついている。
あぁ、眩暈がする。
最近、色々、変だ。
足は落ちてるし、お父さんは居なくなる。
筆記用具入れに使っていたお気に入りのポーチは無くなるし、手からよく理解できないまま、氷は出てくる。
まるで世界が知らないうちにまるっと変わってしまったかの様で、足元が揺らいで、シロは立っていられなくなった。
しゃがみ込んで、手をついた際に何かが刺さった感触がして、パッと手を見るがそこに石はなかった。
石とかが、手に刺さった感覚があったのに。
なんなんだ、なにが起きているんだ。
変になったのが、世界が自分か分からない。
「おいおい、シロ!どうした?
氷ってそんなに魔力を使うもんなのか?
見事ではあるけど…おい、大丈夫か?」
テルが心配そうに覗き込み、掛けてくれた言葉が少しだけシロに現実味を与えてくれて、立ち直ることが出来た。
「いや、大丈夫。
ビックリしただけだから。
調子が良すぎて驚いたんだ。
続き、やろうよ。」
今は何か、なんでもいいから考えずに出来る作業がしたい。
不可思議に捕まってしまわないように、早く、次を。
シロの必死さに面食らった様子のテル。
その必死さを、コツを得た魔法の手応えを忘れないうちに続けたい魔法使いと認識したらしく、腕を回しながら自身のやる気も満ちさせていた。
「おぉ…そうな。
でもすげーよ、シロ。
すげー…。
俺も早く爆発させられる様になりたいから、もう少し付き合ってくれな。」
受け入れきるには置き場がない気持ちのまま、2人で魔法を続ける。
シロは、さらに慎重に魔法を行使し、水の膜を張り続けた。
好奇心とイタズラ心から、もう一度だけ力一杯魔力を込めて水の膜を張ってはみたものの、それが凍る事はもうなかった。
再現は出来ない。
それでも、普段と違う自分の魔力への戸惑いも、残ったままだった。




