↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの魔法は繋がっているようです  作者: まつり
ヴァーミリオン
PR
18/19

義足

本日2話目です。

これを見た者が、解決につながると信じて。


私はベルトール・ハシェ。

私の父、ホーン・ハシェが危険な思想を得た。


祈りのヴァーミリオン事件で使われた儀式魔法と同じ物を使うつもりのようだ。


私も恐らく巻き込まれるだろう。


父は時空魔法を得ようとしている。


儀式魔法の研究は進められていないが、私はかなりの資料を持っていて、必要な物を熟知している。

恐らく父もそれを知っているのだろう。

怪しい父の行動を知ろうと跡をつけた時に、ヴァーミリオンの母の遺体を墓から掘り起こしているのを目撃した。


我が親ながらイカれてる。


そこまでしたのだから、もう、いよいよ始める気だろう。


私自身が止めるべきなのは分かっているが、私は巻き込まれなければならない。

何故なら、儀式魔法の成立には、恐らく受け取る側の肉親の生贄が必要だからだ。

これはヴァーミリオン事件の頃は確立されていなかったが、ほぼ間違いない。


詳しく話すと長くなるので省略するが、ヴァーミリオン事件で、ヴァーミリオンが死んでいないのが証拠だ。


よって。

よってだ、私は生贄にならなくてはならない。

そうでなければ、弟が巻き込まれてしまうからだ。


父を止められなくて済まない。

私がやるべきなのは間違いないが、儀式を発動されると抵抗する術がない。

準備が整ってしまった今、倒すならその後しかないのだ。


助けてくれ。



「…なんだい、これは。」


昨日自身の魔法の異変に気がついたヴァーミリオンは、魔法の倉庫内を精査していた。

なにやら自分で入れた記憶のない物品が紛れ込んでいるのだ。


魔法の混線。


そんな事も、長い魔法の歴史の中ではあり得るか。

適当にそう考えていたが、紛れ込んだ品の中に異様な物を見つけた。


取り出してみると人の足。

膝の少し上で切り落とされたように見える。


「ふむ。」


観察をすると、どうやら履いているのは警官の靴らしい。

何故こんなものが。

他に紛れ込んだ物を見る限り、混線したのは12、3歳ぐらいの少年と思われるのに。


ふと何となく気になって靴を脱がせてみると、中から畳まれた紙が出て来た。

ヴァーミリオンはそれを開いて読む。


「これを見た者が、解決につながると信じて…。」


それは、異変を止めようとした何者かの最後の足掻き。


ヴァーミリオンは、見知らぬ懇願の中に自分の名前が何度も出て来たのを見て笑ってしまった。

あの実験の様な事件は後世にまで迷惑をかけているのか。


それに母の遺体を冒涜されるのはちょっと見過ごせない。


今の自分にはどうにもならないか。

もし、このよく分からない物を人の魔法にぶち込み続けている謎の少年と気が合えば手伝いを頼もうか。


小数点以下の確率だろう。

もはや運命と呼んでもいいような。


もしそうなって、母の遺体を取り戻せたなら、こんな無駄な投獄に付き合わず、脱獄でも何でもして弔いに行こう。


ヴァーミリオンは夢想した。



ギ。


ギ。


ギ。


一歩踏み出すたびに、太ももとの義足の間で音が鳴る。

壁に貼られた義足のメンテナンスシート。


ベルトールは事件の後に帰っていた実家を、1年持たずにまた出ることに決めた。


「つってもなぁ…義足の障害持ちを雇う所なんてどこにも無いよなぁ。」


半年と少し前、自身が研究のために持ち込み、父がそれを利用して起こした事件。


ある意味自業自得で父と足を失った。


公にはなっていないが、担当刑事のブラックと解決に尽力したらしいシロという少年から顛末は全て聞いた。


ベルトールとシロの父グレイは、ヴァーミリオンの母親の遺体を使用した儀式に巻き込まれ時空の彼方へと放り出された。


ヴァーミリオンが自身の魔法でそこから引き摺り出してくれ、2人は現世へと帰って来ることが出来たが、ベルトールの足は失われたままだった。


ベルトールは自身が父へと持ち込んだ儀式なので、巻き込んで申し訳ない気持ちがある。


死んだ父への怒りも少し。

だが、姉を生き返らせたかった気持ちはよく分かるので、あまり責める気にもならなかった。


詳しく知らないだろう母と弟は、姉に続き父を亡くし、兄は足を失った。

理不尽が重なっているのに、更に不幸の象徴の様な音が家に鳴り響かせているのは。


せめて働く場所を見つけて、安心させたいと思っていたがらこの足ではなかなか難しい。


頑張る気持ちはあるが、心が折れそうだ。

噴水に座り、つい弱音が漏れそうになる。


「雇ってさえもらえたら、働けるのに。

魔法には詳しいんだ、私は。」


しかし踏ん張り、あえて強がった。


「マジで?採用。」


独り言に返事が来て驚く。

座っていても未だ慣れない義足にバランスを失って噴水に落ちてしまった。


恥ずかしい。

足を失った事ではない。

いまだ失敗に切なくなることが。


「おいおい、大丈夫か?」


差し伸ばされた手を掴み顔を上げると、知っている顔だった。

半年と少し前に、何度か会った顔。


「ブラックさん。」


「うっわ、べっちゃべちゃじゃねぇか。

お前それ、水に濡れて大丈夫なのか?」


ブラックが指し示す指の先は、ベルの義足へと向いていた。


「あー…大丈夫ですよ、防水ですから。

それに私は、ほら、火魔法使い。

服も靴もすぐに乾かせますから。


それよりも…採用って?

警察は無理でしょう、この足では。」


ベルは身体の前に火の玉を出し、手をかざす。

寒い季節ではないが、濡れ鼠だと心が寒い。

火を見ると安心するのだ、なぜか。


「そもそも俺みたいな若手じゃあ採用権なんてねぇよ。

実はな、警察やめたんだ。


あ、どうも、こういうものです。」


無駄に丁寧に差し出された名刺。

そこにはブラックの名前と、見知らぬ企業名が書かれている。


「…ブラック探偵事務所。」


「おう、ウチには事務がいねぇんだ。


ウケが良いように可愛い子か、イケメンを探してたんだよ。


特技もあればなお良し。

魔法に詳しいんだろ?


イケメンでラッキーだったな、はい、採用!」


「…はぁ?


…はは、そうですか、わざわざ私を?

足と父親を失った私に対する同情ですか?」


迷惑をかけた相手が手を差し伸べてくれている。

それを素直に受け取るには、心が癒えていない。

気まずさに悪態をつくベルに不思議そうな顔を返すブラック。


「いや、マジで人が足りてねぇ。

それに、ウチの副所長からの強い推薦があってな。」


「副所長?」


ベルは少し考え、合点がいった。

恐らくあの時助けてくれた、大量にケーキを吐き出していたあの人だろうと。

あの状況の意味は一つも分からないが、助けられたのは確かだ。


仕事もありがたいが、恩返し出来るなら尚更ありがたい。

ずっと纏わりついて離れない罪悪感の解消に繋がるかもしれない。


「とりあえず、事務所へ行こうぜ。

服も貸してやるよ。

そんな姿で帰ったらお母さんが心配するぞ。」


よく分からないまま着いて行った先の一室で待っていたのは、吐いていた紳士ではなく、さすっていた少年だった。

更に理解が追いつかないベル。

揶揄われているのかと考え始めた。


「副所長のシロだよ。」


元気に挨拶をするシロ。

ベルの困惑はその程度の爽やかさでは止まらない。


「え、あ、シロ君…あの節はどうも。

ええ、はい、あの、よろしくお願いします。」


ベルの疑問は口に出す前に溜まる一方。


「うん、学校があるからずっとはいられないけれど、よろしくね、ベルさん。」


「え、あ、てっきり私は、あの時の紳士が副所長かと。」


なんとか絞り出した疑問は、ブラックによって思いもよらない答えで終わる。


「あ?アイツは祈りのヴァーミリオンだぞ?大犯罪者の。」


「は?」


とんでもない所に来てしまったかもしれない。

っていうかアレ、ヴァーミリオンだったのか。

なんかイメージと違った。

元王城神官で魔法研究の第一人者。

知識人だと思っていた。

いつか魔法談義を交わして見たいと思ってのに…吐いてる姿しか見ていない。


惚けるベルを置いてきぼりに、2人のやりとりは続く。


「それは冤罪だったでしょ。」


「祈りのヴァーミリオン事件は冤罪だったとしても、警察署をぶっ壊したのはマジなんだから大犯罪者には変わりない。


あんなヤツを副所長にしたら事務所が潰れる。」


ポツリとベルが話に割り込む。

普通に考えてそうだ。

深刻な悩みの解決の為に探偵事務所へ依頼して来たのに、子供が副所長を名乗っていたのなら、ふざけていると思われてもおかしくない。


「いや、子供が副所長を名乗ってんのと変わらないでしょ。」


ピタリと会話が止まる。


「それは盲点だった。」


「僕も。」


ヤバいところに迷い込んでしまった。

ベルはさっき保留にしていたこの場所への評価を固めた。

それでもいつの間にか、シロとブラックへ対する罪悪感は薄れているように感じる。


もしかしたら…彼らは気遣いでこんな訳の分からない態度で接してくれているのだろうか。

なんというか、見る限りでは違いそうだけれど。


もうなんだか、どうでも良くなって来た。


「ははは。」


ひとしきり笑って、ふと気がつく。

所長というプレートの置かれた机の上にある、積まれた書類に。


「あの、ブラックさん、いえ、ボス。」


「ん?ボス?俺?はい。」


ピッと指す、ベルの指先に注目が集まる。


「私ね、ああいう書類が出しっぱなしとか一番耐えられないんですよ。

片付けてくれますね、ボス。」


「お、おう。

やろうとは思っていたよ。」


ベルの指は、まだ下がらない。


「すぐやる。」


「ししし、怒られてやんの。」


片付け始めたブラックを茶化すシロ。

しかし今度はシロを見るベル。


「汚れている玄関を掃除するのと、書類の綴じ紐を買いに行くの、どちらか選んで下さい。」


シロは急いで財布を握り締め外へと駆け出して行った。

それをみて笑うブラック。


ベルは思った。


この2人と頑張ろうと。

なんか、頑張れそうだと。


っていうか、自分が面倒を見なきゃ潰れるぞ、この事務所、と。



シロは外に出て、今日はいい天気だったと気が付いた。

この様子なら夜までずっと晴れているだろう。

プロローグ完って感じです。


基本的に土日は更新しないつもりなので、とりあえずキリのいいところまで。


ではまた次章でお会いできましたら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。