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ラブレター

はじめまして。

私はずっとシロ先輩を見つめていました。


シロ先輩は笑顔が可愛くって、素敵だと思います。

あとは、頭の良いところも好きです。

学年トップ層の成績ですね。

張り出されていた成績表でシロ先輩の名前を見つけちゃいました。

何度か一位も取ってましたよね!

いつか勉強も教えてもらいたいなぁ。


でもまずは勉強よりも…。

なんちゃって!


えへへ、またお手紙書きますね。



バタンと強く音を立てながら外履きを下駄箱へと放り込む。

シロとテルは遅刻しそうだった。

朝方からブラックの事務所へ来た依頼を手伝っていたので、登校がギリギリになってしまったのだ。


幸い、依頼の迷い犬はすぐに見つけられたのだが…。


「あ。」


テルが声を上げる。

シロは無言で足元を見ている。


フタを勢い良く閉めた風圧でなのか、シロの下駄箱から封筒が飛び出してきた。

急いでいたからか、中に入っていた封筒に目では気が付かなかった。


「ラ、ラ、ラブレターとは限らないよ。

果たし状とかかもしれないじゃん。」


そう言ってみるものの、シロはこれがラブレターであろう事は分かっている。

可愛らしい柄の封筒を閉じている印が、ハートマーク。

それだけで相手の意図は伝わる。


「おーおー、確かにまだ分からないなぁ。

とっとと開けてみろよ」


テルは揶揄う様に笑う。


「どっちにしろ遅刻だし、人気のない所で読もうか。」


二人は人目を避けて屋上へと向かう。

扉は施錠はされているが、今のシロにとってドアの鍵など無いのと同じだ。


「…今から秘密を見せるから、誰にも言わないでね。」


シロの真剣な顔に、テルは頷く。

元々口の軽い方ではないし、友達の秘密を他所に話すタイプでもない。


簡単に頷いだが、シロが見せた秘密は思っていたよりも重たいものだった。


「…は?ドアノブが…消えた?」


ドアはシリンダーを引っ掛けてドアを閉めているに過ぎない。

ドアの鍵も同様、閂をドアに差し込んでいるだけ。

パーツごとなくしてしまえば、開錠するまでもなく開ける事など容易だ。


ドアノブを魔法でしまっておけるならば。


「魔法、2属性持ちなんだ、僕。」


「ほぁああ?」


テルは驚いてよく分からない声を発した。

世に2属性持ちは珍しい。

伝記に載るような人物ではいるが、授業で習う範囲の知識で考えると、生物として矛盾しているとさえ言える。


しかも、水はまだしも時空魔法との組み合わせ。

歴々の魔法使いを紐解いてみても一人もいないのでは、とテルは思った。


そして、確信を持った。


「まぁいいや。

誰にも言わねぇよ。


…それで、その力で兄貴を助けてくれたんだろ?」


「…あ…。」


テルは始めから目的があってシロに近付いていた。

仲良くなろうとシロに近付いていた訳ではなかった。


兄が行方不明になり、同じクラスのシロの父も行方不明になっている。

そんな偶然はあり得ない。

何かの繋がりを感じ、とりあえず普通に話せる仲になろうと授業のペアに誘った。


自分なりに探り、父の警察手帳を盗み見たその中にシロの家、バラードの家名を見つける。


同じ被害者家族。

そんな仲間意識もあって、話す事が慰めになるかもしれないという打算もあったし、単純に気も合った。


友達だな。

そう思った。


ある夜、ハシェ家に知らせが届く。

父、ホーンが死んだと。


その直後、兄が帰って来た。

片方の足は失っていたが、失意の母を慰められるぐらいには元気で、いつも通りの兄だった。


兄は、公には隠蔽されている父の罪をテルへと語った。

兄は、テルが黙って自分を待っている性格では無いと見抜いており、少しでも追っていたならと真実を話すことにしたのだろう。


テルは父の罪状を聞き、始めはベルを疑った。

ベルは懇々とテルへと語る。


その中で、何度かシロの話が出てきた。

兄はシロに救われたらしい。

ベルはあえて、まるで物語の主人公の話を語るかのように、シロの名前を多く出しているようだ。


テルがシロを恨まない様に。

父が悪く、シロはそれに対応しただけと。


「親父が悪かったな、シロ。」


テルはシロに聞こえない様に小さく呟いた。

屋上から見える鈍色の空、冷たい風に言葉は溶けて消えた。


「兄貴を助けてくれてありがとう、シロ。」


今度は聞こえる様に言った。

目は合わせられなかったが。


「ううん。」


「…うし、とっとと開けようぜ、そのラブレター。」


二人は重くなった空気から逃げる様にラブレターを開いた。

テルは気を使い中身を見なかったが、シロはあまりの差に風邪をひいてしまいそうだ。


「なんか、ごめんな、開く前に。」


「いや、大丈夫。」


何が大丈夫なのか二人には分からない。

分からないが、それ以外になんて言えばよかったのかも分からない。


「ところで、誰からだったんだ?」


テルの普通の質問に、シロは嫌な顔をして封筒を閉じていた蝋の印章を見せる。


「…え、うわ。」


二人は印章を見てすぐにどの家か分かる程、貴族家に詳しい訳ではないが、この封筒の印章は知っていた。


「会長じゃん。」


二人が通う学校の生徒会長。

ホロウムーン家の紋章が押されていたからだ。


「会長…男だよな?」


生徒会長、モーニング・ホロウムーンは男性。

男性が男性にラブレターを渡してはいけないなどという法律などない。

ないが、それは無いと思いたい。


「…会長、ご家族がこの学校にいたっけ?」


「あんまり関わりたい家じゃねぇからなぁ…分かんねぇ。」


二人がこの家の紋章を知るのは、自分たちの学校の生徒会長だからというだけではない。

ホロウムーン家は国の海運を担う海の支配者。

そういう家だ。

荒くれ者の多い海の男を牛耳れるという事は、当然腕力を持っている家系という事でもある。


ホロウムーン家のあだ名は、海賊貴族。

成り立ちを知れば、あながちおふざけでもないそのあだ名を考えれば、当然マフィアとの繋がりも見えてくる。


「返事を欲しがってる文面でもないし…とりあえず忘れるよ。」


シロはラブレターをカバンにねじ込み、頭を掻く。

文面はちょっと気持ち悪いただのラブレターなのに、印章のせいでちょっと嫌な気分になった。


「そうだな。

気にし過ぎても仕方ねぇ。


教室帰るか。」


朝一番とは思えない疲れ。

正直言いうと帰ってしまいたいが、受験直前の時期に必修科目だけはサボる訳にはいかない。


一限目と二限目の間を見計らって二人はこっそり教室へと帰った。

受験期特有の湿った空気の教室で息を目一杯吸い、気持ちを切り替える。


自分の席に座り、隣の席の女の子に挨拶をする。

よく知らない、仲良くもないクラスメイトも、無難に挨拶を返してくれる。


「はぁ。」


ため息ぐらい出る。


よく分からない色恋に巻き込まれるのも、マフィアと繋がりのある貴族家に巻き込まれるのもゴメンだ。


「おはようシロノクロワ君、今朝は遅かったねぇ。

あのさ、会長がシロノクロワ君が来たら、昼休みに生徒会室に来てくれってさ。」


そうはいかないみたいだが。

よく知らない、仲良くもないクラスメイトのことを、シロは理不尽にもほんの少し嫌いになった。

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