邂逅と再開と初めまして
シロ君の疑問、もっともだと思う。
私達は実際に時空魔法を使えるから、人を生き返せるだとか言われてもピンとこないよね。
一応理屈だけは知っていて、ブラック君に話してあるから興味があるなら聞いてみたらいいさ。
話は変わるけれど、最近この辺でおすすめのお菓子屋さんを知らないかな。
ほら、ご存知の通り超有名犯罪者だから娑婆には疎くて。
厳密には裁判も受けてないし証拠もないから犯罪者ではないんだけどね。
知っていたかな?
だからさ、お金さえあれば手に入るのだけど、さっき言った通り情報が古くって。
シロ君のオススメがあれば教えてくれないかな。
君の分も買って魔法の中へ入れておくから、一緒に食べようじゃないか。
◆
黎明、ドゴンと轟音が街に響く。
人によっては地震だと思い、人によっては巨大な魔物の襲来だと思った。
しかし、一度鳴ったきり二度とその音は鳴らず、静かさが戻った人々は再び眠りについた。
いつもの時間に目を覚まし、あの音は何だったのだろうと家族と話をして、朝刊を読むが何も載っていない。
そんな事もあるかと仕事や学校へ向かう。
主婦は買い物に出かけ、近所の顔馴染みといつもの話をする。
日常。
普通の日。
大体の人々には。
未明に鳴った轟音の元を辿れば、警察署だった。
建物の半分が崩れ、内部が露出している。
辺りは水浸しで、まるでその辺りだけ小さく天変地異が起きたかのようだった。
自らの職場が半壊し、急ぎ駆けつけた警察官達は何が起こったか理解出来なかったが、1人だけ誰の仕業かを理解しているものがいた。
「あの野郎。」
隠していやがった。
そのつぶやきは誰にも聞こえていない。
ブラックはシロにヴァーミリオンの魔法が宿ったと考えていたが、どうやらこの様子では違うらしい。
お互いの魔法を貸しあっている、というのが近いのだろうか。
よく分からないが、多分そうだ。
そう考えれば、この状況をどうやって引き起こしたのか分かる。
毎日毎日こつこつと、空間魔法に水を溜め続けていたのだろう。
シロには練習中だとか言い訳でもして不審がらせないようにしながら。
それを一度に解放した。
ドカンと。
何リットル溜めていたのかは知らないが、何トンもの衝撃に耐えられるように建物は作られていない。
急に現れた水に押されて壁が決壊。
この始末になったんだろう。
「ははは。」
正直、冤罪だと理解した今となっては、ヴァーミリオンが逃げた事などどうでもいい。
しかしまさか普通に話をして別れ、少し経ったタイミングでこんなことをしでかすとは思っていなかった。
「シロと会う約束…今日の予定だったが、明日にしてもらうか。
多分こりゃあ、徹夜になる。
……はぁ、勘弁してくれよ。」
警察官達は片付けを始めており、とりあえず瓦礫を端に寄せている。
「ブラック!デカい棚を運ぶから手伝ってくれ!」
同僚の声に手を挙げて応え、ため息。
チッ。
舌打ちを一つ。
しかし顔は笑っていた。
◆
シロは朝ポストに投函されたブラックの手紙に気が付き、また次の日に用事が移ったのを知った。
やることがなくなり、屋台でジュースでも買おうと出掛けようとした際に、街の噂で警察署が大変なことになっていると聞いた。
買ったジュースを、ブラックといつかそうした様に、噴水に腰掛け飲みむ。
手伝える事があるかもしれないから、警察署まで行ってみようかな。
そう考えて立ちあがろうとした寸前、隣に男性が座る。
赤毛の長い髪を緩く纏め、痩せた男。
酔っている様子はないのに何故だか酒臭い。
隣に人が座った瞬間に立ち上がるのは少し失礼かな。
2分くらい待とう。
そんなことを考えながら、シロはカップに残ったほんの少しのジュースを啜る。
「もう、空なのかい?」
男性がシロに話しかけた。
「うん、丁度飲み終わったところ…。」
そう返事をしている途中で、2人の間に置いてあるケーキに気がついた。
二つ。
イチゴが乗った白いケーキ。
それを見て、シロは確信する。
「パールトン?」
「あぁ、そうだよ。」
先ほど国の建物をぶっ壊したばかりとは思えない朗らかな態度で、ヴァーミリオンは笑った。
「出られたんだね。
ブラックが何とかしてくれたの?」
「いやぁ、いくら彼が優秀だって、こんなすぐには無理さ。
やらなくてはならいことが出来たからね。
檻を壊して出てきたんだ。
どうせ悪い事はしていなかったしね。
あ、うーん、今回の脱獄の件は正真正銘犯罪か。
しかし、そもそも捕まったのが無実だから…。
卵が先か鶏が先かって話だね。
…うーん、みんなには内緒にしてくれたまえ。
代わりに、どうやって出たか教えてあげるから。
いつか君の役に立つかもしれないしね。
私達は同じ魔法を使う2人なんだから。」
ブラックが推測した事はほぼ正解だった。
ヴァーミリオンは空間魔法に大量の水を溜め、一気に放出。
自身は昔から魔法の中に入れっぱなしになっていたワイン樽の中に入り、水と共に押し流されながら脱獄したらしい。
「そっか、魔法の水もしまっておけるのか…。」
「うん、物質だしね、水魔法は。
ま、色々試してみたらいいさ。
君の魔法でもあるんだから。
ところでシロ君、この後時間はあるかな。」
ヴァーミリオンは懐からカードを取り出すし、ピッとシロの眼前に突き出す。
いつかブラックに見せた、お菓子屋さんの紙袋を加工した手作りのカード。
それにはトイグリモアールと書いてある。
「もうちょっと甘いものが食べたいから付き合っておくれよ。
その後、君のお父さんを助けようね。」
シロは重要度からいえば普通逆なのではと思ったが、多分ヴァーミリオンにそのことを言っても仕方ないと感じ、言うのはやめた。
魔法を試して2人を救出する話もブラックとしていたが、時空魔法に精通している人物の協力の方が確実に思える。
どうせベルトールも父も、もう3ヶ月以上経っている。
今更、数時間を惜しんだって仕方がない。
「パールトン、僕はね、色々あって疲れちゃって、今まさに甘いものブームが来てるから沢山食べるよ?いい?」
「ははは!流石だシロ君。
私だって10年も思い通り食べられない環境にいたんだよ?
君の倍は食べて見せようじゃないか。
10個はイケるだろうね!」
シロはまだそんな事を考えたことがないから。
ヴァーミリオンは起伏のない檻の中で、時間の残酷さを忘れてしまっていた。
ヴァーミリオンの体内の変化。
甘く脂っこいものを好きなだけ食べられるなどという、若い内臓はとうに失われている。
30を越えた粗食を10年も続けたおじさんが、そんなに沢山のケーキを食べられる訳がない。
しかしまぁ、2人が楽しそうならそれで良いのだろう。
ある日、時空の彼方へ消えたはずの2人。
その日、時空の彼方から助け出された2人。
グレイ・バラード。
シロの父親。
ベルトール・ハシェ。
ホーンの息子でテルの兄。
2人が目を覚まして最初に見たのは、ゲェゲェと甘い吐瀉物を滝の様に垂れ流す男と、その男の背中をさする少年の姿だった。




