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魔法の成長

パールトン。

ううん、ヴァーミリオンって呼んだ方がいいかな。


時空魔法を使えば、お父さんとベルトールさん、あとはリンダさんを取り戻せる可能性があるってホーンさんが言っていたんだ。

お父さんとベルトールさんの方は何となく分かるんだけど…。


だって、2人とも儀式のせいでどこかに消えたんだから、それは倉庫と同じ様に僕やヴァーミリオンが取り出せるかもしれないってなるのはね、分かる。


だけど、リンダさんは違うでしょ?

リンダさんは別の、何の関係もない時期に事件に巻き込まれて死んじゃったんでしょ?


それが時空魔法に関係があるなんて思えないんだよね。

パールトンなら分かる?



「よう、ヴァーミリオン。

お前の言う事を聞いてたらえらい目にあった。」


ブラックはヴァーミリオンが収監されている檻へと戻ってきた。

今回は人に聞かれるとマズい話をする事があるだろうと、闇魔法を使い、影に隠れながら内密に入ってきた。


暗闇から声が聞こえると普通の人ならば飛び上がって驚くだろうが、ヴァーミリオンは予想していたのか、目線も上げずに返答する。


「ま、解決したろう?そりゃあね、危険は伴うさ。

相手は人を害す覚悟を持っていたんだから。


それで、こんな月の綺麗な夜に何の用事だい?」


ヴァーミリオンは変わらずノートをめくり続ける。

たまに何かを書き込み、ページを戻り、少し考え事をして、またノートへと書き込む。


そんな様子だった。


「1番の目的は…そうだな、文句を言いたかった。

あのな、シロを巻き込むんじゃねぇよ。

ガキだぞアイツは、まだ。


13歳やそこらだ。


それをお前、人死にが起きる様な事に触れさせんじゃねぇぞ、馬鹿野郎。」


「…それはそうだね、正論だ。

申し訳なかった。

確かにそうだ。

あの時分、私は何をしていたっけかな。

そうそう、確か、魔力はあるのに魔法が使えずに悶々として、荒れていたっけか。」


ブラックだけでなく、警官もマスコミもヴァーミリオンの魔法がどういうものかを知っている。

調べるまでもなく、公的な記録に残されているからだ。

珍しく便利な魔法使いというのは、ある意味公共物に近い。


「あ?お前は時空魔法使いだろうが。


知ってるぞ、檻の中でも色々と引っ張り出したりして生活を整えてんのを。


金も持ってるから、月に何度かお使いまで頼みやがって。」


「固いこと言うなよ。


裁判にだって掛けられてない、ただここに居るだけの人間って扱いのはずだよ、私は。


買い物の自由ぐらいあるさ。


それで、本当な何を聞きにきたんだい。

そんなさ、身を隠してまで。」


ブラックは考える。

ヴァーミリオンという男と何度か対話をして、彼の癖というべき言動の変化に気がついていたからだ。


ヴァーミリオンは超有名犯罪者になり、犯罪系ルポライターやマスコミから嫌になるほどの取材依頼が届いた。

手紙の形態で来るそれらを、退屈な檻の中での暇つぶしなるかと目を通していたが、質問内容のあまりの低俗さに嫌気が差して、今では届いたそばから捨ててしまっている。


まだ目を通していた頃に、偶に有意義そうな中身ならやり取りをしたことはあるが、その内の2人以外は結局ヴァーミリオンのお眼鏡に叶う事はなかった。


そんな日々が何年も続いた結果、くだらない質問には皮肉やおふざけで返すようになった。


「そもそもよ、なんでお前生きてんのよ。」


「呼吸をして、心臓が動いて、美味しいご飯を毎日食べているからかな。」


こんな具合だ。


「ちげぇよ。


シロがホーンに殺されそうになってたのはよ、魔法を奪いたいからだろ。


それは分かるよ。


だって、ホーンはシロが時空魔法使いになりかけだと考えたから生贄にしたかった。

時空魔法の芽生えがいつになるのか分からないから、大人で魔力量もある自分が得た方が早いって理由がある。


お前は使えたじゃないか。

当時、既に。

奪う必要なんてどこにもない。」


ヴァーミリオンはノートを目で追う。

シロはブラックと同じ疑問を持ち、その答えを推測しているようだ。


「ふふ、前提が間違っているよ。


ブラック君はさ、魔法をどうやって上手くなったか覚えているかい。」


ブラックの魔法の目覚めは孤児院に入って少し経った頃。

7歳だったか。

闇という珍しく、悪人に好まれるイメージの悪い属性を得た。

孤児という立場も絡み、風当たりが強かったのを覚えている。


身体がデカく、12歳の早い頃には警官を志し始めていたので、そこまで辛い思い出でもないが。


闇属性のトレーニングだけでなく、魔法の上達は基本的に回数を重ねるしかない。

魔力量は筋肉、魔法の操作は運動に喩えると分かりやすいだろうか。


「そうだろう。


対して、僕ら時空魔法使いの魔法ってのは特殊でね。

一度の魔法で大半の魔力を使い切る。」


「へぇ。

あの倉庫の魔法ってのはそんなに魔力をバカ喰いすんのか。

便利そうで羨ましいと思っていたが、そう上手くはいかねぇなぁ。


回復するまで使えないってなりゃあ、練習も重ねられないから大変だな。」


基本的に魔力は飲み食いや睡眠で回復すると言われている。

空気中、食物に含まれている魔力を取り込んでいるからと、そういう訳らしい。

大抵使い切った感覚があっても、次の日には問題なくなっている事が多い。


「それも違うよ。


最大量の大半を勝手に使って空間を維持しているのさ。

回復することはないんだよ。


一度芽生えると、開け閉めは容易だけどね。」


時空魔法使いは一生に一度しか魔法を使えない。

それが有用な魔法だから気にされることはなかったが、こう考える者もいた。


例えば火が爆発へと、水が氷へと、魔法使いの技量により進歩するように、時空魔法もただ倉庫を作るだけではなくその先があるのではないかと。


ただ、だからといって成長するのは難しい。

一度しか使えないのに、どうやって上手くなれというのか。


「そこで件の儀式魔法さ。

時空魔法使いが他の魔法を使えるようになれば、魔法の上達を促せるかもしれない。」


前提。


祈りのヴァーミリオン事件は、ブラックやホーンが推測していた、時空魔法を他の魔法使いへ奪わせる儀式ではなく、ヴァーミリオンへ他の魔法を奪わせる儀式だった。


「貴重な魔法使いを使い捨てるよりは合理的だろう?」


「生贄とやらがなければな。


それで?犠牲を出してまで大掛かりなことを実行したんだから、お前の魔法の先ってのは推測出来ているんだろ。」


ヴァーミリオンの横、何もない空間からぬるりとお菓子の紙袋が現れる。

うっすらと空間が裂けているようにも見えるが、大袈裟に変化はしていない。


「これは私が檻の中に入る前に買ったものでね、もう閉店してしまったらしいお店のものなんだ。

そう聞くともったいなくて中々食べられなかったんだけど、説明には丁度いい。


時空魔法ってのは、別の空間を作る魔法。

それはいいね。

それでね、その空間には時の流れはないのさ。」


ヴァーミリオンは袋からマドレーヌを取り出し一口かじる。

保存の効かない食べ物なのに、檻の中の住人が取り出したものとは思えない、柔らかで油分を感じる断面だ。


「へぇ…便利だな。

腐らないってことだろ?

主婦の味方だ。」


「まぁ別に大したことはないよ。

本当に倉庫なだけさ。

欲しいなら買えばいいしね、別に。


それでね。

魔法空間の時間の進み具合、私の場合は限りなくゼロに近いんだけど、実は個人差があるらしい。

まぁ、今私たちがいるこの空間とは比べ物にならないほど遅いのは共通しているけどね。


しかし1人だけ、薄らと時間が逆行していた魔法使いがいた。

珍しいだけなのか、それとも、制御力の問題か。


分からない。

さっきも言った通り、私たちは成長することが出来ないのだから。


ならば成長することの出来る魔法で感覚を掴めば、中に入れたものの時を進めたり、逆に、戻したりが出来るのでは、そう考える。


時を戻せるなら、人も生き返せるのではないか、と。」


ヴァーミリオンは間接的に伝わるだろうと、シロからの質問をブラックへと答えた。

ホーンが生き返したかったリンダは時空魔法の成熟後に、時を戻して蘇生する。


そういう計画だったのだろう。


「お前は時空魔法を奪われていない。

…他の時空魔法使いが死んだ話も聞かない。


じゃあ、シロの時空魔法はどこから来たんだ?」


普段、薄らと笑みを浮かべている、ヴァーミリオンの顔が曇る。

推測とはいえ、考えたくない事もある。


「一般常識として、魔法は遺伝する。

私の母は、魔法使いではなかったがね、素養があってもおかしくない。


一定の魔力量まで成長せず、発芽を迎えていない魔法使いだった可能性はある。

かなりの確率でね。


あぁ、いや、ホーンが私の母を殺したとは言わないよ。

しばらく前に死んでいるから。

だけど、墓は暴かれているかもしれない。


あぁ、嫌な気分になる。」


ブラックはそれ以上追求する事はなく、礼だけを伝えて檻の前を去った。


疑問が一つ解決したなら、新たな疑問が生まれる。

それは世の常、キリがない。

新たな疑問は解決する必要のない話だ。

儀式の内容を詳しく知る必要など、詳しい条件など、知らない方がいい。


シロの身に影響があったのは理解しているが、不可逆的な変化だろうし、今更。


今現在、唯一詳しく知っているヴァーミリオンは忌み嫌っており、再度使われる事はないだろう。


気になる事は当然残って入る。


ヴァーミリオンは冤罪。

祈りのヴァーミリオン事件は単なる無理な儀式魔法の失敗が理由らしい。


可哀想だ。


出来ればそれを証明してやりたいが、ブラックには不可能に思えた。


しかし、相棒なら。


シロならいつか、それを証明してヴァーミリオンを檻から出すかもしれないと、ブラックはそう思った。

いつか、3人で酒でも飲む日が来るかもしれないと。


帰り道、そう考えると少しだけ嫌な気分が紛れた。


ヴァーミリオンが脱獄したのは、ブラックが去った2時間後の事だった。


いつの間にかグッドだけじゃなくなっていて、なんて呼んだら分からない、いいね的なやつ、ありがとうございます。


励みになります。

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