儀式魔法
こんにちはパールトン。
言われた通りに言われた家を調べてきたよ。
でも、多分だけど、違う家と間違えたんじゃないかな。
ここを調べて欲しいって言ってた所は、別のページにまとめてあるから読んでね。
それでね、びっくりしたんだけれど、実は調べたのって、僕の友達の家だったんだ。
色々あってお邪魔させてもらったんだよ。
だから、違うと思う。
番号と、登録されている所が間違えてしまっているんだと思うよ。
だって、友達はいつも通りだったし、なんというか、家が悲しい感じじゃなかったんだ。
別の家を調べるなら、また僕が行ってあげるから、教えてね。
あ、そうそう。
屋台に新しいお菓子屋さんが来ていたんだ。
少しだけど入れておくね。
僕も食べたけれど、丸くてシュワシュワして、アーモンドの香りがして美味しかったよ。
◆
「ポルボロン、ポルボロン、ポル…あ、ダメか。」
ヴァーミリオンはシロからの差し入れを口に含み、呪文のように呟いた。
「ポルボロン?なんだそれは。」
「ん?君は甘いものが好きじゃないのかな?
小さい頃にやらなかったかい?
願掛け、おまじないの類さ。
このお菓子はポルボロンといってね、やたらと崩れやすいんだ。
それを活かした遊びで、口に含んだままポルボロンと3回唱えられたなら、願いが叶うと言われているのさ。」
上機嫌そうに語るヴァーミリオンを睨むように見るブラックは、対照的に不機嫌そうだ。
いや、実際に不機嫌なのだろう。
こうしてわざわざ三度目の面会へとやって来たのに、檻の向こうにいる犯罪者は、無駄な話で時間を浪費しているのだから。
「失礼失礼。」
ヴァーミリオンはそんな目線を気にも止めずに、もう一つのポルボロンを口へ放り込んだ。
もう一度最初から詠唱を始めるヴァーミリオンの声をかき消すようなブラックのため息。
ため息を吐きたくもなるだろう。
なにせ、超有名犯罪者である祈りのヴァーミリオンへ何度も面会すること自体が警察内で無駄に目立つリスクがある。
担当や上を出し抜いて、ヴァーミリオンから証言を引き出そうとしていると考える者もいるだろう。
変な方向に張り切っていると笑う者もいるだろう。
どちらにせよ、本来チームプレーを求められる捜査機関には不必要な悪評だ。
更に、ブラックはヴァーミリオンへと情報を流している。
今回でいうと、警察内部の人間しか知り得ない個人番号の符号先だ。
PJ5003W。
シロが調べに行った、当然ヴァーミリオンが知るはずのないその番号の持ち主の住所や氏名は、ブラックが調べ伝えたものだった。
当たり前に、違法。
普段のブラックならそんな事をしようとは少しも考えないだろうが、自分の事件の解決が、最近友人となった少年の父の行方に関わっているかもしれず、何故か最近起きた事件の鍵を、事件が起きる遥か前、10年前から収監されているこの男の手の中にある、かもしれない。
どうせ出られる事のない犯罪者へ内部情報を漏らす罪と、無事に見つかる可能性がある事件の解決に繋がる可能性を天秤にかけた結果、ブラックはヴァーミリオンの知りたがる事を伝えることにした。
その中の一つ、個人番号を伝えた罪で得られた可能性。
それを聞きに来たのだ。
「暇じゃねぇんだよ、お菓子バカ。
とっとと何か分かったなら言え。」
「おやおや、暇じゃないだなんて、世間は相変わらず物騒だね。
檻の中はこんなにも暇なんだから、平和なものさ。
…一応、先に聞くけど、個人番号、本当に氏名と住所、合っているのかな?」
「間違いない。
何度も調べ直すリスクを取りたくなかったからな、確認は欠かさない。」
シロからの情報と、ブラックからの情報に矛盾がある。
個人番号の持ち主はあっているが、片足を無くしたり、行方不明になったりした様子はないらしい。
「じゃあ、番号の持ち主はさ、ちゃんと出勤しているの?」
「あぁ、している。
俺よりも先輩の警官でな。
元々見知っていた。
本人の制服から番号を確認したから間違いない。」
ヴァーミリオンが少し揶揄う様な顔をして、ブラックを見る。
それに気づいたブラックの機嫌は更に損ねられた。
「なんだよ。」
「いやぁ、女性なんだろう?若い。
ふふふ、そんな堅物そうな顔をしておいて、胸のところにある個人番号を凝視して来たのかなってさ。」
「ちっ。
例えそうだとしても捜査ならそうする。
だが、本来なら女性に割り振られる番号の持ち主はおっさんだったから、そんな不躾な事はしていない。
たまにあるんだ、相棒の番号を引き継いだり、職場結婚した相手の番号に途中で変える事が。」
個人番号は適時変わっていく。
転勤や異動でも変わるし、希望をしたなら割と自由に変更が効くもので、目的は組織内での管理、そこさえ紐付いていれば大きな問題ないのだ。
「へぇ、ロマンチックだね。
えーと?じゃあ番号が被ることは?」
「無い。」
不可思議な状況。
個人番号の持ち主は、五体満足。
なのに家でも異変は起きていない。
しかし、魔法の倉庫内にある靴の番号は、その人が無事なはずはないと示している。
何故なら、足ごと収納されているのだから。
人が足を失うなどというのは大変なことだ。
それこそ事件となるだろう。
なのに、身内であるブラックも家族と交流したシロも、2人ともが異変を感じられなかったという。
一体、どういうことなのか。
「ま、単純に考えるなら…。」
靴の持ち主に足があるというのなら、持ち主とは別の人物が靴を履いていた。
ひねらず考えればそうなる。
ならば、それが可能なのは。
「確か、お兄さんがいるらしいって書いてあったなぁ。」
我が助手に、調べて欲しい項目を箇条書きにして渡した紙には、彼なりに気づいたことが書かれている。
よく気がつく子の様で、普通に調べたなら気にも留めないことまで、細やかに記しているのは才能だろう。
「お父さんは仕事中で会えなかった。
あと、お兄ちゃんはもう一人暮らししてるんだって。
でも、玄関には大きさが違う靴が4種類あったから、頻繁に実家に寄るタイプなんじゃないかな。
靴箱じゃなくて、土間に置いてあるんだもん。」
履き間違えた。
「うん、これが一番単純な話だね。」
「おい、考えがまとまっているなら、もっと口に出して言え。」
「おっとっと。」
ヴァーミリオンはこう考えた。
靴の持ち主は、テルの父。
しかし、足の持ち主はテルの兄。
現状もしかすると、テルの家族は兄が足を失ったこと、または兄を失ったことに気が付いてないのかもしれない。
もしくは、シロが会うことがなかったテルの父のみが気がついているのかもしれない。
そらなら矛盾はしない。
「…なら俺は先輩の後を付けてみるか。
そうすれば異変が分かるかもしれない。」
「そうだね。
ところで、その先輩はどこの部署なんだい。」
「キャリア組だったのに、現場一筋の気質があってな、今は駐在員だ。
…そういえば。」
シロの家に近いところだった。
ブラックが挨拶を装って制服の番号を確認しに行った際に、確かにそう思ったのを覚えている。
そして、一つ思い出した。
「お前、そんだけ本を読んでいるんだから、人より詳しい事が多いよな。」
ヴァーミリオンは少し考え、首を横に振った。
知の貴重さを知る彼は、知識を得たからと、それを自分の知恵だと思い込むことを愚かだと考えている。
「どうかな、本は本だからね。
好きな方向なら、人よりは、程度じゃないかな。
あくまでも知識としては。」
「魔法学は。」
「専攻だったね、大学では。
本当はそっちの道に進みたかったんだけどねぇ。
ほら、私自身の魔法がさ、許してくれなかったよね。」
珍しすぎる魔法を授かったヴァーミリオン。
それで高級職の王城の宝物庫番の職を得ている。
望むと望まざるにかかわらず。
「…足が落ちていた時にそれを見た人物がいるのだが、その彼が警察の個人番号らしき並びを覚えていたからここまで謎な事件が進展しているんだ。」
「うん。」
「…暗がりの中で、だ。」
ヴァーミリオンはそれを聞いて、少しどきりとした。
シロが番号に気が付いたのは、魔法の倉庫内にある足をヴァーミリオンが調べ、伝えたからだ。
シロがブラックへと番号を伝えたのは、父が巻き込まれたであろう捜査を進展させる為。
その矛盾を咄嗟の言い訳で逃れたとも考えられる。
しかし、ブラックが続けた言葉が、更にヴァーミリオンを動揺させる。
「黒いズボンだと言っていたんだ、彼は、足が履いていたのは。
現場に落ちていた繊維から、足がそこにあった場合、緑色のズボンを履いていたはずなんだ。
外回りの警官のズボンの色。
そこに矛盾はない。
しかし、だからこそわからない。
黒い靴に黒く刻印されている見づらい靴の番号が見えるぐらいの明るさなのに、ズボンの色を見間違えるだろうか。
しかし、俺には彼が嘘をついているとは思えない。」
ヴァーミリオンもそう思う。
もし、咄嗟の言い訳が出たとしても、捜査を混乱させる不確かな情報をシロが言うとは思えない。
何故なら、それは父の件を遠回りさせかねないから。
そんなことが分からない子じゃあない。
「…儀式魔法。」
「あ?」
「緑のズボンが黒く見えて、かつ、雨の夜道で刻印が見える程度の明るさを出す魔法を考えたのさ。
魔法は発光する、行使した時に。
暗闇で小さな文字が見えたと考えた時に、君も考えたろう、魔法が発動していたのではないかと。
私もそう思う。
それでね、行使している際の光が、儀式魔法はちょっと特殊なんだ。
赤い。
しかも発動時間も長いから、発動を見ていなくともおかしくはない。
辻褄は合う。
緑に赤を照らせば、目には黒く見えるだろうし。」
「あんな普通の路地裏で…儀式だと?」
人通りが少ないとはいえ開けた道でそんな事をする輩がいるだろうか。
それは儀式魔法をほとんど名前とその悪名しか知らないブラックが浮かべた素直な違和感。
「それがねぇ、儀式魔法って何故だか空が見える必要があるんだってね。
じゃあないと、儀式に使った魔力が逆流して、辺りは血まみれさ。
私が知ったのも、かなり後になってからだけど。」
「…祈りのヴァーミリオンと名付けられた、お前が発見された状況と同じだな。」
「信じてくれとは言わないさ。
けれど、今回、おそらく儀式魔法が絡んでいるのは間違いないね。」
それは確信出来る。
儀式魔法は、生贄を捧げ奇跡を起こすと言われている。
奇跡とは。
例えば、千人力の力を得る。
死者が蘇る。
「不思議な偶然がいくつも重なれば、それは…。」
子煩悩な父親が消え、足が落ちており、魔力が増え、魔法が繋がる。
それら一つ一つなら、あるかもしれない。
しかし、1人の身にそれらが全て降りかかったなら。
「何の話だ?」
「いやぁ、奇跡だよなって話さ。」
祈りのヴァーミリオン。
その二つ名を彼は自身で名乗ることはない。
どちらかといえば嫌っている、蔑称。
しかしその日、新しい友人が巻き込まれたであろう理不尽な奇跡から、これからも無事にいられる様に。
名前の通り、そう祈った。




