第七話 尋問
「……白狗、起きてるか」
口と目に貼り付けていたガムテープを引きはがし、浦島は声をかける。ここは人里離れた花咲 (はなさか) 山の、蟹組が所有する私有地だ。浦島はスコップを手に、今だ両手両足を粘着テープで巻かれたままの白狗を尋問する。
「……名前がバレてて、驚いたか?」
白狗は答えず、浦島を睨み付ける。
「……アンタがどこの組か調べてもらったんだが、ヤクザじゃないらしいな」
浦島は煙草を咥えた。蜂、栗、臼の三人は、「すずめ」に戻って店内の片付けをしている。向こうが落ち着けば戻ってくる手はずになっているので、それまでには白狗の件も片付けたい。浦島は自前のジッポで火をつけ、紫煙を吐いた。
「……かといってアンタ、カタギでもねえよな、労働組合や市民団体と称し、企業を恐喝するのがシノギなんだろ」
浦島はスコップで地面を掘り始める。
「……労働トラブルを名目に職場で騒動を起こし、経営者に便宜を図るよう強要する」
ザック、ザック。
「……組織 (組合) の構成員からは会費を徴収、さらに平和運動と称したデモ行進に参加するよう仕向け、社会から孤立させる」
ザック、ザック。
「……選挙では組合員を動員し、あえて泡沫候補や弱小政党を支援、言いなりになる政治家を増やす」
ザック、ザック。
「……アンタらみたいな奴のことを極左と呼ぶらしいな、調査してくれた奴から聞いたぜ」
ザック、ザック。
「……似たようなシノギで極右ってのは知ってるが、まだまだ俺の知らねえ悪党ってのは居るんだな」
浦島は掘り続ける。とはいえ、実は殺して埋めるつもりはない。それとなく匂わせ脅しているのだ。それでも口を割らない時は、首だけ出して体を埋めるつもりだ。しかし、そこまで掘り進めるのは相当な時間と労力がかかるので、内心は早く終わらせたかった。
「……で、白狗さんよ、ヤクザの息がかかった店にアヤつけた、本当の理由を聞かせてくんねえか」
(アヤつける:言いがかりをつける、因縁を吹っ掛ける)
車の灯りが近づいてきた。蜂、栗、臼の三人が帰って来た……いや、違う。数台の車がサイレンを鳴らし、赤色灯を回す。ヘッドライトは浦島をピンポイントで照らし、警察官が車内の拡声器で叫ぶ。
「蟹組の浦島ァ! 殺人未遂の現行犯で逮捕するゥ! 動くなよォ!」
注釈:極左には、革命路線を継承する思想系集団の他にも、作中の白狗が所属する企業恐喝を主目的とした暴力系労働組合が存在する。
後者は個人で加盟できる労働組合を称し、一定数構成員が増えた職場で騒動を起こし会社を脅迫、利益誘導する。
暴力団系の会社とも抗争するほど凶暴である一方で、司法と行政からは親密な関係にあると認定されている。




