第六話 犬
浦島には2つの情報源があった。外は新聞記者でもあるケーン、内は赤蟹の妻である。彼女はスナックを経営しており、浦島はそこへ足しげく通うことで、組長である赤蟹の近況と、店の守を兼ねるのだった。
彼女が経営するスナック「すずめ」には、浦島以外の組員も飲みに来る。そこから漏れ聞こえる噂話も、組織内を統制する情報として役立った。
「あの人はね、見た目は老けた金太郎なのに、アソコは一寸法師なのよ」
浦島は今夜も赤蟹の妻から、聞きたくもない無駄な情報を得た。組長がときおり、嫁の舌を切りたいとぼやくのもわからなくはない。とはいえ人望の無い組長に代わって、彼女が組織内での人心を集めていた。
「……親父、最近は薬に手を出してないですか?」
「聞いた聞いた、チ○チ○丸出し事件でしょ?ほんとバカよね、次やったらチ○コ切断するって言ってやったわよ」
浦島は赤蟹組長が同じ失態を繰り返すようだと「始末」する可能性も考慮していた。組織を束ねる若頭として当然である。仁義? 外にバレなければ問題ない。
だが「任侠道」などという戯言を鼻で笑う浦島にも、多少の情はある。組長の妻、つまりスナック「すずめ」のママを悲しませることに抵抗があるのだ。
蟹組はその実、赤蟹の妻によって保たれているのかもしれない。
「そうそう浦島くん聞いてよ、最近、たちの悪いお客さんが来るのよ」
「……姐さん、聞かせてください」
浦島は襟を正した。ヤクザの組長、その妻が、組織の最高幹部である若頭に直接相談してきたのだ。これは相当「たちの悪い」客なのだろう。浦島は詳細を聞いた。
◇◇◇
幾日が過ぎた夜、スナック「すずめ」に「たちの悪い」客が現れた。鍛えられた大柄の男で、誰彼かまわず大声で暴言を吐き散らしている。店内にいた常連客達はいそいそと逃げ帰った。浦島を除いては。
「たちの悪い」客は浦島に目をつけ、因縁を吹っ掛けようと近づいた。浦島は丁重に声をかける。
「……ここで騒がれちゃ迷惑なんで、外に出ませんかね」
「んだテメエ、コラ、ああ?」
「……白狗さんでしたっけね、ゆっくりお話を聞かせてもらいます」
蜂、栗、臼が「すずめ」に入ってきた。振り返る白狗を、浦島は背後からカウンターの椅子で叩きつける。続けて三人が手にするそれぞれの道具、木刀やゴルフクラブで袋叩きにした後、店の入り口で停めていたワンボックスカーに放り込んだ。
車は荒々しい運転で、夜の繁華街を抜け、郊外へ。




