EPISODE XI – MOVE BEYOND NIHILISM
浦島と、蜂、栗、臼の三人は、UFOが着陸した焼肉屋に駆け込んだ。店内には星条旗柄のエプロンを身につけた、金髪の女店長カーグヤがいた。
「おう、お待ちしてましたーよ」
「……おい、今、この店の屋上にUFOが」
「はい、キャトルミューティレーションで新鮮なお肉を仕入れてまーす」
「……キャトル……いや、なんだそれは?」
「おう、そんなことはどうでもいいのです、それより知りたいでしょ?」
「……何をだ」
「返し (報復、復讐の攻撃) をやり遂げる方法でーす」
浦島は動揺した。どういうことだ、なぜ知っている、いや、そもそも何が起きているのだ。あのUFOはなんだ、なぜ俺たちにしか見えなかった、そしてカーグヤ、この女は何者だ。
「そろそろお気づきじゃないですか? この世界は『おとぎ話』によって構築されていることに」
「……どういうことだ」
「個人でも、集団ならなおさら、人が人らしく思考し、行動するためにはフィクションが必要なのです」
「……言っていることがわからない」
「現実を見ることも大切ですが、それは動物も同じです。フィクションは人類だけが創造し、共有できる特権なのです」
「……創造? 特権? 」
「ちなみにUFOはアメリカのフィクション、近年に定着した『おとぎ話』です」
「……だから何を言ってるんだ」
「あなたが、あなた自身の『おとぎ話』を読み解くことが出来るなら、望む未来を選べるかもしれません」
国、民族、神、思想、倫理、金銭、そして任侠。これらは実体を持たない虚構、つまりフィクションだ。そんなことは誰でも知っている。知ってなお人は、いや人だけが、フィクションの実在を証明するために命すら投げ打つ。
価値観を共有する集団がフィクションを創作し、文化と科学すなわち文明を発展させた。それはニヒリズム (虚無) の現実を生き抜く根源的な力だ。たとえそれが、殺人や戦争の原因になったとしても、その功績は計り知れない。人類最大の発明である。
フィクションのノベライズ (小説化) 、それが『おとぎ話』の本質である。
とはいえ浦島は、カーグヤの話す内容が理解できない。だが、裏社会に身を置いて、命がけの選択を重ねてきたヤクザとしての直感で、選ぶべき回答を間違えなかった。
「……わかった、理解はしていないが、わかった」
「グッド」
「……具体的にどうすればいい」
「おう、もう少し語らせてください、アメリカの『おとぎ話』はUFOだけじゃありませーん」
「……何が言いたい」
「草薙剣、エクスカリバー、国や民族の象徴たる『おとぎ話』の神聖な武器は、アメリカにもあるのです」
パチン。
カーグヤは指を鳴らす。焼肉屋の壁が開き、現れたのはウィンチェスターライフルやピースメーカー(リボルバー)、M1ガーランドに M249軽機関銃……ずらりと並ぶ多種多様の銃器たち。
「銃はアメリカ建国という現在進行形の『おとぎ話』で使用される神器 (じんぎ) です」
浦島は思う。知った事じゃない。俺の『おとぎ話』に必要なのは仁義 (じんぎ) だ。
カーグヤは静かに笑う。彼女も『おとぎ話』の中で生きている。男たちに貢がせる遊びにはもう飽きた。それより彼らに難題を課し、宝物を与え、殺し合わせた方が面白い。
直接手を下さずとも、裏社会を観察し、わずかにテコ入れすることで流れは成立する。失敗してもかまわない、成功するまで待てばいい。不死のカーグヤが永遠を忘れる貴重な時間だ。ゆえに彼女は丁重に、そして執拗に浦島を煽る。
「銃は強大な敵も、慈悲深き聖人も、火力に応じて平等に殺せます。さあ、銃 (じんぎ) を手に取り、あなたの『おとぎ話』を取り戻しましょう」
蜂、栗、臼の三人は、店内を物色した。浦島は組にいた頃に使い慣れた銃を見つけ、懐に入れる。それぞれ得物を手にし、男たちは店を出た。カーグヤもいずれアメリカに帰るだろう。その時は浦島のことなど、忘れているかもしれない。それでも……
「力への意志を捨てなかった君を、あはれと思ひ出でける」
◇◇◇
『昔ばなし』のストーリーが終わり、『おとぎ話』のナラティブが始まる。
注釈:フィクションが「人類最大の発明」だとする作中の主張は、ユヴァル・ノア・ハラリの著書「サピエンス全史」が元ネタ。面白い本なのでお勧めする。岡田斗司夫による解説動画などもあるので、ぜひ視聴してほしい。




