第十話 覚悟
赤蟹組長の墓を前にして、浦島は黙って栗の話を聞いていた。全てを聞き終えると、今度は浦島が問いかけた。
「……お前、この話、俺たち以外の誰かにしたか」
「いえ、誰にも話してません」
「……賢明だ」
浦島は煙草を咥えた。竜宮城での長い禁煙生活で、牛糞のような味しかしないが、それでも口にした。栗がデュポンで火をつける。その手は震えていた。
親父も所詮は悪党、カタギを食い物に薬や野菜を売りさばいていた。そう考えるとヤクザとしては、相応しい最後だったかもしれない。姐さんも、面識はないが若い衆も、悪事と無関係の人生だったとは言えないはずだ。
浦島は考える。
この結末を受け入れるなら、人として社会で生きていけるが、ヤクザとしては死ぬだろう。それはそれで悪くない。だが竜宮城に収監されている間、黙って耐えてきた蜂、栗、臼の三人を前に、そんな筋の通らない物語の幕引きが出来るだろうか。
無理だ。ヤクザとして生きるため、人として死ぬしかない。
墓苑を歩く。近いうちに俺も何処かに埋められるだろう。あるいは冷たい海の底で、鯛やヒラメが舞い踊る姿を永遠に鑑賞するかだ。運よく生き延びたとして、竜宮城で生涯を終えることになる。いずれにせよシャバの空気が吸える時間は、あまり残されていない。
「若頭、お供します」
栗が横に並んだ。続けて蜂、そして臼も。だが浦島は見向きもしない。狸の命を狙う方法を考えていたからだ。事を成すには手段が無さすぎる。
蟹組が既に存在しないため、人員を増やすことが出来ない。少人数でカチコミ (殴り込み) をかけても犬死だ。相手は本部と繋がる直参 (じきさん) 組織の組長、組員もかなりの数がいる。どこかで待ち伏せして暗殺しようにも狸の行動を把握する術がない。
現状打つ手なし、手詰まりだ。失敗が許されない以上、分の悪い賭けには乗れない。だが、殺す。必ず殺す。殺し殺して、仁義を通す。殺すのは狸と、赤蟹組長殺しに加担した連中と、人としての俺。
これぞ鼻で笑った「任侠道」、ヤクザの真っ当な生き方だ。
◇◇◇
夜になり、浦島と三人は繁華街を歩く。浦島は思う。
人生のツケを払う時が来た。竜宮城だけでは利息分が足らなかったらしい。見上げると月、それはあまりに遠い。
すれ違うカタギの人たち。シャバは彼らの世界であり、俺たちには輝いて見える。見上げると星、それはあまりに眩い。
人知れずヤクザが渡世の無理難題に悩んだところで、公の社会には何の価値もない。見上げるとUFO、それはあまりにミステリアス。
……ん?
……はぁ? なんじゃこら??
目を疑った。次に頭を疑った。二度見した。三度見する前に浦島は三人を見た。蜂、栗、臼、それぞれ大きく目を見開き、呆然と空を見上げている。そんな馬鹿な、いやしかし、でもあれは確かに空飛ぶ円盤、UFO。
「若頭? あれは?」
聞かれても困る浦島は周囲を見渡した。だが誰も気にしている様子はない。まさか、見えていないのか、自分達だけが見えているのか。やがてUFOは飛び去って行く。浦島と三人は後を追う。
そして辿り着いたのは、放免祝いをした焼肉屋だった。UFOはその店の屋上へ、音もなく着陸した。




