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【GA文庫より書籍化決定!】はじめましてから始まる新婚生活 ~少子化対策で相性抜群(?)の美少女と同棲することになりました~  作者: 岩柄イズカ


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『さすがに今日は寝室の監視はしないでおきます』


 その夜、蒼太はベッドの中で悶々としていた。


「…………」


 眠れる気がまったくしない。

 目を閉じると、浴室での出来事がどうしても頭の中で再生されてしまうのだ。


 ましろが浴室に入ってきて、背中を流され、シャンプーされて。

 それから……


「~~~~っ!」


 蒼太は枕を抱えたままベッドの上をのたうち回る。


(終わった……完全に終わった……)


 あれはもう、流石に挽回不可能かもしれない。というか自分で穴掘って埋まってたい。

 ましろからすれば自分の裸を見られて、その上あんな反応した男子なんて気持ち悪いと思って当然で……。


 だがそこで、ふと引っかかるものがあった。


(いや、そもそもなんでましろ、お風呂に入ってきたの……?)


 蒼太が入っているお風呂に入ってきたのはましろの方からである。当然の話だけど、ましろがお風呂に入ってこなければあんなことになることもなかった。


 それに蒼太も、ましろの性格はよく知っている。

 いくらアイにミッションを出されたからといって、ただでさえ気まずい今みたいなタイミングでいきなりお風呂に入ってくるだろうか?


 普段のましろならまず間違いなくアイと一悶着あるはずで、入るにしても散々文句を言って罵倒して、なんだかんだ渋々……という流れになるはず。

 けれどそんな言い争うような声は聞こえなかった。


 それにアイも変だった。

 いつもなら『混浴ミッションはどうでしたか?』だのなんだの茶々を入れてきたり少なくとも様子ぐらいは聞いてくるのに、お風呂を上がってから一度も姿を見せていない。


 蒼太は頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべる……まさにその時だ。


 ガチャ、とドアノブが回る音がした。


「……っ」


 蒼太は思わず息を呑んだ。誰かなんて見るまでもない。

 遠慮がちに部屋に入って、そーっと扉が閉まる音がする。


「……蒼太、起きてる?」


「…………」


 答えようとしたのだけど、うまく声が出なかった。

 ましろは少し迷うように間を置いてから、遠慮がちな足取りでベッドに近づいてくる。

 そして……布団をめくると、もぞもぞベッドに潜り込んできた


「……~~~~っ」


「……やっぱり起きてるじゃん」


 ちょっぴり拗ねたように言うましろ。暗がりでもわかるぐらい顔が赤くてパジャマ姿。

 さっきお風呂であんなことがあったのもあって、蒼太はもう心臓が破裂しそうなほどドキドキしてしまっていた。


「か、勘違いしないでね。これもミッション。ミッションでやってるだけだから」


「み、ミッション……?」


「そう。ほら、もう何度かやってるでしょ添い寝ミッション。あんな感じのやつだから」


「……そ、そっか」


 そうしてしばし沈黙。

 ベッドの中で向かい合ったまま、視線をどこいやっておけばいいのかわからなくて目を泳がせる。

 一方のましろもしばし口をモゴモゴさせ、そして消え入りそうな声で言った。


「……ねえ、蒼太」


「う、うん」


「あんた……私のこと、好き……なのよね?」


「……うん」


 詰まりそうになりながらも、蒼太は頷いた。


「じゃあ、その……」


 ましろは言いにくそうに言葉を探す。


「キス、とか……そういうこと……とか、したいって、思うの?」


 蒼太の心臓が跳ねた。

 咄嗟に否定しようかとも思ったけれど、お風呂であんな失態を演じた後なのでそれもできず、ただ小さくなることしかできない。


「……ごめんなさい」


 ましろはしばらく黙っていた。

 いつ平手打ちが飛んできて『もう仮婚解消するから!』なんて言い出されるかとビクビクしていたけれど、そういう気配はない。

 ただただ気まずくて、しばらくの間時計の音だけがカチカチと聞こえた。 


「……別に……謝らなくても、いいけど……」


「へ?」


「だって……あんた、私のこと好きなんでしょ? 好きな相手に、そういうこと思うのは……まあ、自然なことだって、思うし」


「で、でも……ましろ、嫌でしょ?」


 蒼太の言葉に、ましろはしばらく黙っていた。


「……いやじゃないけど……」


「え」


「か、勘違いしないでよ!? 別にそういうことしたいとかそういうこと言ってるんじゃないからね!? 変なことしてきたらぶっ殺すからね!? ただまあ……男子ってそういうものらしいし……思うだけなら、とやかく言うつもりないから」


「だ、だけど……」


「あーもうこの話おしまい! こっちだってこういう話するの恥ずかしいんだから空気読んでよね!? 次何か言ったら引っぱたくから!!」


「は、はい……!」


 そう言いつつも、蒼太はあまりの事態に頭が沸騰しそうになっていた。

 ……好きな女の子に『エッチな目で見られても嫌じゃない』なんて言われるのが、男子にとってどれほどの爆弾かわかっていないのだろうか?


 だが一方のましろも余裕はまったくないようで、胸に手を当てて深呼吸している。


「……私こそ、ごめん」


「え?」


「告白されたのに逃げて、なかったことにしようとしたこと。……うん、あれは我ながら最低だったと思うから……ごめんなさい」


「ぼ、僕の方こそ、あんなこと急に言い出して……」


「だから、今は私が謝る番だからあんたまで謝って腰折らないで。今話してるのだってめちゃくちゃ勇気出してるんだから」


「ご、ごめん」


 ついまた謝ってしまった蒼太をましろはジト目で睨むが、ため息をつきつつ続ける。


「千尋にも怒られたの。返事しないで宙ぶらりんにするのは不誠実だって」


「谷垣さんが……」


「うん。だから……ちゃんと返事するから、聞いて?」


 そう言って深呼吸。ましろは布団の中で体を縮めながら、ポツリポツリと話してくれる。


「今すぐ恋人になるのは、怖い」


「……うん」


「今の関係が、すごく心地いいの。一緒にご飯食べて、ゲームして、学校行って……そういうのが、私にはすごく大事なの」


「うん」


「恋人になったら、それが変わっちゃうかもしれない。そう思うと……すごく怖いの。だから、今すぐ恋人になるのは……やだって、思ってる」


「……そっか」


 蒼太は小さく息を吐く。

 フラれちゃったけど、そういうことなら仕方ない。

 ましろも自分との今の関係を大切に思ってくれていた。それが聞けただけでも十分だ……と、思っていたのだけど、ましろの返事には続きがあった。


「でも……蒼太と恋人になるのも……嫌じゃ、ないというか……」


「……へ?」


 ましろの声は、どんどん小さくなっていく。


「だ、だから! あくまでも今は、今の関係が続く方がいいって話で! べ、別にあんたと恋人になりたくないってことじゃなくて! だから、その……」


 そう言ってましろは、おずおずと上目遣いに蒼太を見つめる。


「こ……これからも、私のこと大事にしてくれたなら……可能性、あるかも……」


 かつてないぐらい心臓がきゅーっとなるのを感じた。ましろが可愛すぎて、思わず抱きしめそうになったけどそれはぐっと我慢して、感謝の言葉に代える


「……ありがとう、ましろ」


「……いや、あんた的にはこの答えでいいの? 言ってから思ったけど、これって要はあんたのことキープってことだし……」


「うん大丈夫。ましろが僕のこと大切に思ってくれてるってわかっただけで嬉しいから」


「……ほんと、そういうとこだから」


「え?」


「なんでもない」


 しばらく沈黙が落ちる。

 けれどさっきまでの気まずい沈黙とは違って、どこか朗らかなものだった。

 少しして、お互いにクスクスと笑い合う。何だかこの沈黙さえ心地いい。。

 やがて、ましろがぽつりと言う。


「……それで、その」


「うん?」


「お詫び、というか」


「……お詫び?」


「ん……その……今夜一晩……私のこと、抱き枕みたいにぎゅーってして、寝てもいい……よ?」


「……へ? いや、え?」


「な、何よ。女の子が勇気出したんだから、もっと喜んで受け入れなさいよ! あんた私のこと好きなんだからこういうの嬉しいんでしょ!?」


「そ、それはそうなんだけどあんまり面と向かって言われるのは恥ずかしいからやめて!?」


「もう……いいからさっさとぎゅってするの。ほら」


 そう言ってましろは腕を伸ばしてくる。けれども強気な言葉とは裏腹に顔がまっ赤だった。


「ほ、ほんとにいいの?」


「いいからさっさとして、こうしてるのも恥ずかしいから」


「う、うん……」


 蒼太は恐る恐る腕を伸ばした。

 ましろの背中に手を回して、ましろを胸にギュッと抱きしめる。


 華奢で、柔らかくて、温かい。

 抱きしめているともうドンドン愛しさが溢れてきてどうにかなりそうだった。


「……ましろ、嫌じゃない?」


「だからあんたは気にしすぎ。……あんたに触られるの、嫌じゃないから」


「あ、あんまり女の子がそういうこと言うのは……」


「うっさい。……というか、あんたさっきから腰が引けてるけど、なんでそんな変な体勢なの? もっと密着しても別に……」


「い、いや、今は、その……」


「?」


 ましろはしばしきょとんとして、それからなにかを察したのか顔を真っ赤にした。


「ばか。へんたい」


「ごめん……」


「……さっきのは照れ隠しだから。嫌じゃないって言ったでしょ」


 そう言って、ましろは蒼太の胸から顔を上げる。


「だから……その……私のこと、別に……そういう目で見てもいいよ?」


「……~~~~~~っっっ!」


「……ふふっ」


 ましろは蒼太の胸に額を押し付けて、バクンバクンと高鳴っている心臓の音を感じる。

 その音を聞いていると蒼太は本当に自分のことが好きなんだと思えて、つい笑みがこぼれてしまう。


 そうやって、クリスマスの夜は更けていくのだった。

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