『勝ちました! 第二部、完!』
朝、蒼太はいつもより少し早く目を覚ました。
「ううん……」
頭がぼんやりしている。それになんだか暖かい。
腕の中に、暖かくて柔らかいものがすっぽり収まっている。
薄く目を開けると……さらさらの黒髪、ましろの頭頂部が見えた。
「…………ん?」
ましろが、蒼太の胸元に顔を埋めるようにして眠っている。
しかも腕を蒼太の身体に回して、足まで軽く絡めるようにして、まるでコアラみたいにぴったり抱きついている。
「ましろ……?」
たちまち昨晩の記憶が蘇る。まだ友達でいたいということ、でも恋人になるのも嫌じゃないということ。あとは……そういう目で見てもいいということ。
……とりあえず、蒼太は密着していた腰を引いた。朝の男子はいろいろ危険なのである。
そうやってもぞもぞ動いていると、ましろが「んぅ……」と小さく声を上げてぎゅーっとしがみついてきた。
そのままぐりぐり額を胸に押し付けてきて、少しするとすぅ、すぅ、と再び規則正しい寝息を立て始める。
(か、かわいい……!)
警戒心の強い猫みたいだったましろが、こんなにも無防備に、しかも自分から甘えてくれている。
その喜びと達成感に悶絶しそうだったがひとまず深呼吸。……その深呼吸ですら、ましろの甘い匂いを感じてしまって大変だったが。
「…………」
蒼太は少し体を反らして、あらためてましろの様子を確認する。
自分の胸元に顔を埋めて眠っているましろ。
普段の強気な態度からは想像できない甘えきったような寝顔が可愛すぎて、また胸がきゅーっとなる。
……しかも昨夜は……恋人にこそなれなかったが、ましろは自分と恋人になるのは嫌じゃないと、可能性があると言ってくれたのだ。
男子にとって好きな女子にそんなことを言われるのがどれほどの爆弾か。もう胸が苦しくて仕方ない。
(……好きだなぁ)
しみじみと、そんなことを思う。
もう、どうしようもないくらいましろのことが好きだ。
友達としても、女の子としても、可愛くてたまらなくて……幸せにしてあげたい。なんて思ってしまう。
そうしていると、腕の中のましろがもぞもぞ身じろぎした。
「……んぅ」
「お、おはよう、ましろ」
「…………」
ましろはしばらくぼんやりしていた。
蒼太は内心、身構える。
いつものましろなら、ここで一気に顔を赤くして飛び退いて「な、何してんのよヘンタイ!」とか「寝ぼけてただけだから!」とか言って、布団から逃げ出すはずだ。
そう思っていたのだが。
「……まだねむい~」
そう言って、ぐりぐり額を押し付けてきたのだ。
「ま、ましろ!?」
「なによぉ……今日休みなんだから寝かせてよぉ……」
「いや、その……くっついたままだけど……」
「……いいでしょ、別に」
そう言うと、ましろはさらにぎゅうっと蒼太に抱きつく力を強くする。
「……あんた、私のこと好きなんでしょ? だったら、こういうふうにされたら嬉しいんじゃないの?」
「……~~~~っ」
好きな子にそんなことを言われたら、男子はもう何も言い返せない。
「……ふふ」
ましろは寝惚けてぽわんとした顔のまま、ゴロゴロと猫みたいに甘えてくる。
「今朝、ちょっと寒いし……だからもっと、ぎゅーってして?」
「……い、いいの?」
「ん、いいよ」
ましろは二つ返事でそう返してくれる。
声も表情も、いつものツンツンした感じではなくどこか甘えた感じだった。
蒼太は恐る恐る腕に力を込める。
ましろの背中に回した手で、そっと華奢な体を抱き寄せる。
「……こう?」
「ん…………あったかい」
自分の腕の中にすっぽり収まって甘えてくるましろ。
体のあちこちが当たっていて正直ちょっと生殺しにされてる感はあるけれど、頑張って告白したのがようやく報われた気がした。
そのままぎゅーっと、ましろを抱きしめる力を強くする。でもましろは何も言わず、腕の中に収まってくれている。
蒼太は心から、その幸せを噛みしめるのであった。
†
一方のましろは、まだ半分寝ぼけていた。
蒼太の腕の中は温かくてなんだかホッとしてしまう。こうやってぴっとりくっついてるのが心地いい。
蒼太の胸に額を押しつける。
ドクンドクンと心臓の音がする。こうして自分がくっついているせいか、すごく早い。それがなんだか面白い。
(……蒼太、私のこと好きなんだもんね)
そう思うとなんだか心がふわふわする。
こうやって誰かに身も心も預けるのがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。もっと甘えたい。くっついていたい。
でも、それをそのまま認めるのは恥ずかしい。
だからこれは、蒼太のためということにする。
蒼太が喜ぶから、仕方なくくっついてあげているだけ……ということにしてぎゅっと抱きしめる力を強くする。
……相変わらず蒼太は腰が引けている。
その理由は、ましろにもわかっていた。
(……別に、いいのに)
ついそう思ってしまって、ましろは自分で自分にびっくりした。
でも本当に、蒼太が自分とくっついてそういう反応をしてしまうことは全然嫌じゃなかった。
怖いともキモいとも思わない。むしろ、それだけ自分のことを意識してくれてるのだと思うと……ちょっとうれし……。
(違う違う違う! 今のなし!)
ましろは頭の中で蒼太の頭をぺしーん! と引っぱたいた。
顔が熱くなる。甘えるのはともかく、それは乙女としてダメだろう。
八つ当たりで、蒼太の脇腹を小突く。
「ひゃっ!? ま、ましろ?」
「……うっさい。あんた私のこと好きなんだから黙ってつつかれてなさい」
「えぇ……」
こんなしょうもないやり取りがすごく幸せで、二人でくすりと笑い合う。
それに今は何だか……蒼太も幸せそうにしてくれてるのがすごく嬉しい。
「……蒼太」
「うん?」
ましろは顔を上げる。すぐ目の前に蒼太の顔がある。
(これで、キスとかしたら……喜んでくれるのかな)
そんな考えが、ふと浮かんだ。
普段なら即座に『私なに考えてんの!?』となるような思考。けれど今は、それが驚くほどすんなり受け入れられた。
「……ましろ?」
蒼太が不思議そうに名前を呼ぶ。
視線が絡む。蒼太の目が、少しだけ揺れた。
どちらともなく、顔が近づいていく。
ほんの少しずつ、ゆっくりと。
そうして、鼻先が触れるほどの距離まで近づいた……その瞬間。
(――いやキスまでしちゃったら完全に恋人になっちゃうじゃない!?)
ましろは正気に戻った。すぐさま仰け反るようにして顔を離し蒼太の腕の中から脱出する。。
「な、何しようとしてんのよバカ! ヘンタイ! ケダモノ!」
「え!? いや、え!? 今のはましろのほうから……」
「知らない知らない! 全部あんたが悪いんだからも~~!」
ましろは顔を真っ赤にしたまま、布団から飛び出し逃げるように部屋を飛び出していく。蒼太はそれをポカンとしたまま見送った。
扉を後ろ手に閉めたましろは、その場にしゃがみ込んで顔を覆った。
「~~~~っ!」
とにかく、さっきのは寝ぼけていたということにする。我ながら何してんだと思う。
昨晩、自分で『恋人になるのは怖いからこのままで』と言ったばかりなのだ。何自分からキスしようとしてるのか。
(ち、違うから。私がキスしたかったんじゃなくて、キスしたら蒼太が喜んでくれるかなって……)
「…………いやむしろそっちの方が重症じゃない?」
自分で自分にツッコんで、ましろはさらに顔を赤くして悶絶する。
そしてそんな様子を物陰から見守っていたアイは、もうほぼ勝ち確っぽい状況にこっそりガッツポーズするのだった。
そんなわけで第二部はここまで! しばらく書き溜め期間に入ります。
書籍作業とか会社とかちょーっと忙しいので少々お待ちくださいね~。
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また待ってる間、電撃文庫から発売中の『先生、今日から同い年ですね?』ももうすぐ二巻が出るのでよろしければ!




