『そろそろ告白しませんか?』
それからまた少し時間が流れた。
学校は冬休みに入り、世間はすっかりクリスマスムードになっている。
テレビをつければクリスマス特集。
カップルに人気のデートスポットやら、ケーキ店の特集やら、そんな番組があちこちでやっている。
そしてそんなクリスマスイブの当日。日が沈みこれからイブも本番という時に、仮にも夫婦である蒼太とましろが何をしていたかと言えば……。
こたつに入って、みかんを食べながら二人でぼんやりテレビを眺めていた。
ちなみにさっきまで二人で、以前はまっていたお絵かきゲームの続編を六時間ぶっ通しでプレイしていて今は休憩中。
イブなのに色気も何もない、普段通りな二人なのであった。
テレビで幸せそうなカップルを見ながら、ましろは小さく鼻で笑った。
「イブって言っても、恋人もいない私達にはあんまり関係ないけどね~」
「……そうだね」
「何その顔。もしかしてどこか行きたかったとか?」
「ううん。こうして家でましろと一緒に一日中遊べるのも、すっごく幸せだから」
「……あんたはまたそういう恥ずかしいこと平気で言う……」
「え? なにか言った?」
「なんでもない! よーし、それじゃまた部屋に戻ってゲームするわよ! 今夜は寝かさないんだから!」
「う、うん!」
そうして二人で、ゲームのために部屋に行こうとしたその時だ。
『ちょーっと待ったああああ!!』
アイが必死に止めに入ってきた。
「なによアイ。今日は二人で仲良く遊んでるんだからあんたが口出してくるようなことないでしょ?」
『いや普段ならそうなんですけどね!? 今日クリスマスイブですよ!? なんであんな良い感じの雰囲気出してるのにお二人でデートとかそういう展開にならないんですか!? 二人で同じベッドでゴロゴロしながらゲームするぐらい仲いいのに!』
「外寒いじゃない。家でぬくぬくしてたい」
『う~……蒼太さん、何とか言ってあげてくださいよ~』
「まあいいんじゃないかな? ましろ、寒いの苦手だし。家でケーキ食べるくらいで……」
『駄目ですこの二人! だいぶ仲良くなっては来ましたが恋愛力が小学生レベルです!』
嘆くようにアイは両手で顔を覆ってしまう。
実際、二人は恋愛に進む気配がまったくないのだ。
もう付き合うのも秒読みかな~と思っていたのにまったくそういう感じにならない。
……いや蒼太の方はもう一押しな気がするのだが、元々の性格のせいかどうも実行に移すのをだいぶ躊躇ってるというか……。
『いいですかお二人とも。クリスマスイブですよ? 世間の恋人達がイルミネーションを見たり、プレゼントを交換したり、なんなら『せっかくのイブだし僕たちの関係ももう一歩進めてみようか……』ってなる日ですよ? なんでいつも通りだらだらゲームして過ごしてるんですか!』
「だって私達別に恋人じゃないし」
『仮とはいえ夫婦なんですから! せめてもうちょっと夫婦っぽいことしましょうよ~』
「え~……」
ましろは明らかにめんどくさそうに顔をしかめる
けれどアイも今日ばかりは引かない。
二人の相性がいいのはもうはっきりわかっているし、恋人になってもきっとうまくいくだろう。
けれど、今の関係が安定しすぎててほっといたらいつまでも進まない気がしてきたのだ。
二人の仲良しっぷりはもう十分わかったので、アイ的にもそろそろ関係を進めてほしいのである。
『と、いうわけでですね! この後近くの駅前広場でクリスマス限定のイルミネーションイベントがあります! 家からも遠くありませんし、お二人で見に行ってはどうでしょう? いえ行ってください! ポイントも弾みますから~』
もはやすがりついてくるようなアイの様子に、ましろもため息をつく。
「はあ……蒼太、どうする?」
「僕はましろがいいなら行くけど」
「まあそれなら、お小遣い稼ぎと思えばいいか……んじゃ、ちょっと着替えて準備してくる」
「うん、それじゃあ僕も」
そうしてそれぞれ自分の部屋まで行って準備する。
蒼太も一応はクリスマスデートだし、よそ行きの服を選んでいたその時だ。蒼太の傍らにアイがふわりと現れた。
「アイ? ……今着替えるところだからできれば出て行ってほしいんだけど……」
いくらAIとはいえ、見た目が女の子のアイに着替えを見られるのは恥ずかしい。そう思っていた蒼太だが、アイはいつになく真面目な顔をしていた。
『すいません、少々内密での相談がありまして』
「内密の相談?」
『……このデートで、ましろさんに告白しませんか?』
「!?」
驚いて目を見開く蒼太に、アイも神妙な顔で続ける。
『いや、仮婚支援AIとしてはこうして直接的に告白を促すのもあまり良くないんですけどね? でも蒼太さんこのままだといつまで経っても告白しなさそうですし……』
「そ、それは……」
『というかですね! ましろさんだってそういうのは薄々勘づいてると思いますよ?』
「え」
目をパチクリさせる蒼太に、アイはため息をつく。
『そもそもクラスメイトの方々にはとっくにバレてますし、半分公認カップルみたいな扱いされてるのに勘づかない訳がないでしょう』
「う……」
言われてみればそうである。最初の方こそ千尋なんかがからかうようなことをしてきたことはあったが、最近ではもう当たり前に二人セットにされてるというか。
そもそも文化祭でもずっと一緒だったし、なんなら手を繋いで文化祭を回る姿まで多数の生徒に目撃されているわけだし……。
『なのにましろさんは距離をとったりせず、蒼太さんとあれだけ仲良くしてるんです! これは向こうも満更でもないと判断していいんじゃないですか?』
その言葉に、蒼太の心臓がまたキューッとなる。
……今の関係も十二分に楽しいし幸せだ。
好きな子と一緒に暮らして、学校に通って、遊んで……。
でも、そんな日々が続くほど、もっと先に進みたいという欲求も確かに膨れ上がっていく。
ましろと恋人になりたい。ましろの特別になりたい。他の誰にも渡したくない。
そんな想いも、確かに蒼太の中にあって……。
と、その時だ。
「蒼太~。私は準備できたわよ~? あんたはまだなの~?」
部屋の外から聞こえてきたましろの声に飛び上がりそうになった。
「う、うん! もうちょっとかかりそうかな!?」
「ん~、じゃあリビングで待ってるから早くしなさいよね~」
そうして、ましろの足音が遠ざかっていく。
蒼太は胸に手を当ててほーっと息を吐いた。
『……最終的な判断はお任せします。それでは』
そう言って、アイも姿を消してしまう。
蒼太は胸をドキドキさせたまま、着替えに取りかかるのだった。




