『弱ってる時ってガードも甘くなりますよね』
眠ることができればいいのだけど、残念ながら目を閉じても眠れる気配がない。
布団の中でじっとしていると、すごく時間の流れが遅く感じる。
「……ひま」
ましろはもぞもぞ枕元に置いていたスマホに手を伸ばす。
暇だし漫画か何か読んでいよう。……そう思ったのだけど、しばらくページをめくってげんなりした。
熱のせいか、漫画の内容が頭に入ってこない。というか頭を使う作業自体がとても億劫だ。
数分もしないうちに、ましろはスマホを枕元に戻した。
布団を頭までかぶる。
けれどやっぱり眠れない。
カチ、カチと壁に掛かってる時計と、外から車の走る音だけ聞こえる。
(……一人で過ごすのなんて慣れてるし)
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
そうだ。引きこもってた時はこれくらい当たり前だったし、体調崩して寝込んでる時も『暇だな』『しんどいな』以外は感じなかったはずだ。
だがそんなことを呟いた時点で『寂しい』と認めたようなものだと、ましろ自身もわかっていた。
(まあ……友達としては、好きだし……)
いつも一緒にいる友達がいなくて寂しい。ただそれだけのことだとましろは自分に言い聞かせ直す。
蒼太は……まあ、あくまでも友達としてだけど、一番好きな人だ。
それに仮婚が始まってからなんだかんだずっと一緒にいるし、いないとちょっぴり寂しいのは普通普通。
「…………」
ましろは布団の中から再びスマホを掴むと、蒼太とのメッセージ画面を開いた。
『早く帰ってきなさい』
ぼんやりした頭でなんとなくそこまで打って、『流石にこれはないな』と全部消す。
けれどあれこれ考えるのもめんどくさくて、もう率直に打つことにした。
『ひ~ま~』
送信。
一言送るだけなのになんだか妙に疲れてしまってぐったりベッドに体を沈める。
少ししてちょうど学校の休み時間のタイミングで返信が来た。
『今日は学校終わったら早めに帰るね。何か買ってきてほしいものとかある?』
『プリン』
『わかった。帰りに買ってくるね』
『ちょっと豪華目なやつがいい』
『はいはい。ちょっと奮発するね』
休み時間の間そんなやり取りをしてくすりと笑う。
(なんか、やっぱり子ども扱いされてる気がするわね。あんたは私のお母さんか)
心の中で文句を言いながらも、口角はつい上がってしまっていた。
単純な自分に苦笑いしつつ、そのままベッドに体を沈める。
……さっきまで感じていた寂しさがちょっぴり薄れて、いい感じに眠くなってきた。
それからしばらく、ましろは大人しく布団の中で過ごした。
眠ったり、起きたり。アイに水分補給を促されて渋々スポーツドリンクを飲んだり。
暇すぎて『やっぱり絵でも……』と準備し始めたらアイにジトッとした目で注意されたり。
そうこうしているうちに、昼食時になった。
「……お腹空いた」
『お、食欲が戻ってきたのは良い傾向ですね』
アイがましろの顔色などを確認しつつ続ける。
『蒼太さんがキッチンにインスタントのおかゆを用意してくれていますよ。レンジでチンするだけですので、今のましろさんでも作れるかと』
「ん~……」
『食後にはお薬も忘れないように呑んでくださいね?』
「はいはい……」
ましろはふらふらとベッドから出て階段を降りる。
キッチンには、昼食用に蒼太が用意してくれたものが一式置かれていた。
とりあえずましろはインスタントのおかゆをレンジに入れてしばし待つ。
チーンというレンジの音。やや苦戦しつつも包装を外し、元々入っていた容器のままテーブルに置いて一口。
「……うん」
まあ、普通に美味しい。
最近のインスタントは昔と比べてすごく美味しくなったというけど、実際それなりに満足できる味。
……なのだけど。
(蒼太が作ってくれたやつの方が美味しかったな……)
ついそんなことを考えてしまって、ましろは低く呻いた。
(あ~も~! なんでさっきからことある毎にあいつの顔が頭に浮かぶのよ……!)
そうしてましろはおかゆを無事に完食して、テーブルに突っ伏した。
「蒼太……早く帰ってこないかな……」
思わずそんな声が漏れた。
直後、傍らでアイが何とも慈愛に満ちた顔でニッコリ笑っているのに気付いてハッとした。
「い、今のは違うから! ついポロッと漏れただけというか……う、こほっこほっ」
『ほらほらあまり興奮せずに。お薬飲んでベッドに戻りましょ?』
「誰のせいだと思ってんのよ……」
とはいえ今日の自分はダメだ。熱があるせいか余計なことまでポロッと言ってしまっている。
大人しく薬を飲んで部屋に戻る。再び寝入る前に、また蒼太にメッセージを送ってみた。
『ご飯食べた。薬も飲んだ』
それだけ打って送る。
すると少しして、また返事が届いた。
『えらい。帰ったらプリン買ってくるね』
「…………えらい。ってなによ」
やっぱり子供扱いされてる気がする。
こいつの自認、ホントに自分のお母さんなんじゃないだろうか。
(……まあ、それが嫌じゃない私もどうかと思うけど……)
布団に潜り込む。温かいものを入れたせいか、いい感じに眠くなってきている。
「……早く帰ってきてよ、ばか」
そんなことを呟きつつ、ましろは再び眠りに落ちるのだった。




