『お互い気持ち良くしてあげましょう!』
「「つかれた~……」」
賑やかだった文化祭も終わり、片付けを終えて帰ってきた二人はリビングのソファにぐったり沈み込んだ。
何せ蒼太は慣れないメイド服で接客した上にずっとましろのフォローをしていたし、ましろも慣れない接客や人混みでずっと緊張していたのだ。
二人とも完全に電池切れ。ぐでーっと二人してソファの背もたれに体重を預けてだらけきっている。
「ましろ~、今日の晩ご飯は冷凍食品でいい~?」
「いいわよ~。片付けとかも明日にしちゃいましょ~。どうせ明日は学校休みだし~~」
溶けたような口調でそう言って二人ともしばらくぐだぐだする。
すごく疲れた……でも、なんとなく心地いい充足感があって、何だか悪くない気分だった。
「……つかれたけど……楽しかったわね?」
ましろが小さく呟く。
蒼太がましろを見ると、同意して欲しそうにこっちを見ていたので蒼太も笑って返した。
「うん、楽しかった。これまでの文化祭で一番楽しかったかも」
「……そっか」
ましろはどこか嬉しそうにそう言って笑う。
……大好きな女の子と、楽しい時間を共有できた。そう思うと蒼太はまた胸が苦しくなってくる。
胸がきゅーっとして、もっとましろと近づきたい……なんてことも考えてしまう。
チラリと、ソファの上に投げ出されるように置かれたましろの手に視線をやった。
……今、手を握ったらましろはどんな反応をするだろう?
絶対やらない方がいいのについそんなことを想像してしまう。
やらない方がいい。でも今はなんだか、ましろと無性に触れあいたい。そんな葛藤をしていたその時だ。
『は~い、お二人とも、本日はお疲れ様でした~♪』
そんな明るい声と共に、アイが二人の前に現れた。
『いや~、文化祭でのご活躍、実に素晴らしかったです。学校ということで私はあまり声をかけられませんでしたがお二人とも頑張っていたようで私もなんだか誇らしいです。……お二人の仲もさらに深まったようですし』
そう言った後、アイがチラリとこちらに目配せした気がして、蒼太はなんだか恥ずかしくて視線を逸らす。
そんな蒼太にアイはクスリと笑って話を続ける。
『さてさて、それではそんなお二人に本日のラブラブミッションを発表します』
「えぇ……今から? 私達疲れてるんだけど……」
『もちろんわかってます。ですので今日は癒やし系ミッション! お互いの肩を揉んでマッサージしてあげましょう!』
「……ようするに肩もみしろってこと?」
『はい。お互い文化祭で疲れているでしょうし、ゆっくり肩を揉んで労ってあげましょう。一仕事終えた本日の締めくくりにふさわしいミッションかと』
そうやってアイの説明を聞きながら、蒼太はまた心臓を高鳴らせてしまっていた。
肩もみ……ということは当然、自分もましろの肩に触れることになる。
小さい頃はよくお父さんやお母さんにやってあげていたけど、それが好きな女の子相手となると話はまったく別になる。
ちらり、と蒼太はましろの方を見る。
……ドキドキしてしまっている蒼太に対し、ましろは「ふーん」と特に何も感じてなさそうな顔で頷いた。
「ま、たしかに肩こってたしちょうどいいかな」
「え」
「ちょっと、何よその反応。私に肩揉まれるの嫌なの?」
「いやそうじゃなくて! その……ましろこそ、いいの?」
「へ? そりゃあ、別にいいけど?」
不思議そうなましろの表情。
ましろは当たり前のように、自分が身体に触れるのを許してくれている。
ドギマギしている蒼太の様子にニマニマしつつ、アイは先を続ける。
『ではまずは、ましろさんから蒼太さんにやってもらいましょうかね』
「はいはい」
ましろはのそのそと立ち上がると、ソファに座った蒼太の後ろに回る。
蒼太も即座に姿勢を正し、ピシッと背筋を伸ばした。
「何緊張してんのよ、マッサージするんだから力抜きなさいって」
「う、うん……」
「ふふ。んじゃ、とりあえず始めるから、いたかったら言ってね?」
「よ、よろしくお願いします……」
ましろは蒼太の肩に手を置いて親指をぐっと押し込む。
「……って、固っ!?」
軽く揉んだ瞬間、ましろが目を丸くした。
「あんた、肩ガッチガチじゃない」
「……まあ、あんな格好で接客してたからね」
「ぷっ」
「わ、笑わないでよ……」
「ふふ、ごめんごめん。でもやっぱりあんたもあんな格好で接客するの緊張してたんだ?」
「そりゃそうだよ……。僕男なのに、人前でスカートとか……」
「あ、大丈夫大丈夫。超似合ってて可愛かったから」
「そういう問題じゃなくてぇ……」
ましろはくすくす笑いながら、ぐっぐっと肩を押してくる。
少し不慣れな感じだったが、マッサージ自体は真面目そのもの。蒼太の反応を伺いながら丁寧にマッサージしてくれる。。
「どう? こういう感じでいいの?」
「あ、そこそこ。気持ちいい……」
「りょーかい。……んしょ……んしょ……にしても、あんたちょっと凝りすぎじゃない?」
そう言いつつもギュッ、ギュッと力を込めて揉んでくれる。
蒼太のガチガチになった肩をほぐすために、自分も疲れてるだろうに一生懸命力を込めてくれている。
そうしてしばらく揉み続けてから、ましろはふと思い出したように言った。
「そうだ、ねえねえ蒼太。今度絵のモデルやってよ」
「へ?」
「いやね? あの後文化祭で使ったメイド服もらったの。せっかくだからこれからはあんたが着てモデルやってくれたらいろいろ捗るなって」
「さ、流石にやだよ」
「そんなこと言わないでさ~やってよ~」
肩を揉みながら、ましろは少し甘えるような声音になる。
「いや実はね、前にSNSで見て憧れてたのよ。イラストレーターとコスプレイヤーさんのカップルで、絵を描く時はいつも彼女にコスプレしてモデルしてもらうって自慢してる人がいてさ」
その言葉に、蒼太の心臓がどきっと跳ねた。
イラストレーターとコスプレイヤーのカップル。
あくまでそういう人達がいたというだけだとわかっていても、ましろの口からそういう言葉が出るだけで変に意識してしまう。
「実際、絵描きにとって自宅にモデルやってくれる人がいるって最高の環境だしね。ねえねえ、やってよ~」
その声音も、以前より柔らかくてどこか甘えるような響きが混じっている。
ましろが、少なくとも友達としては自分を好いてくれてるとあらためて伝わってくる。ましろの願いに応えてあげたい。でも流石に女装して絵のモデルというのは……。
そんな風に葛藤していたその時だ。
『ましろさんストップです。一方的なお願いは良くありません』
そう言ってアイが口を挟む。
『やはり一般の方に女装してモデルをしてもらうのはハードル高いですしね。あまり一方的にそういうお願いをするのは後々トラブルに繋がりかねないかと』
思わぬ助け船に蒼太もコクコク頷く。
しかし続けて、アイはニヤリと笑った。
『と、いうわけで。やってもらう以上は、蒼太さんに何かお返しやご褒美がないといけません』
「え」
『そこでましろさん! コスプレで一回モデルしてもらうごとにハグや添い寝、膝枕で耳かきとかでどうですか?』
「ちょっとアイ!?」
蒼太は思わず抗議の声を上げる。
だがすぐに、いつもと違うことに気付いた。
こういう時に真っ先に抗議するはずのましろが、顎に手を当てて「んー……」と真面目に考え込んでいるのだ。
「……まあ、それくらいなら……別にいいけど」
「へ!?」
「……なによその反応。男子ってそういうのが好きなんでしょ? 私のそういうお返しじゃ不足なわけ?」
「い、いや、そんなこと全然無いけど……ましろこそ、いいの?」
「まあ……別に嫌ってほどじゃないし」
その言葉に、また蒼太は胸が苦しくなってしまう。
ハグに添い寝、それに膝枕で耳かき。
それをするのが嫌じゃないと、あのましろが言ったのだ。
ましろが良いと言っている以上、蒼太にはもう何も言うことができない。
そしてそんな蒼太の反応を、アイはニマニマしつつ観察するのだった。




