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【GA文庫より書籍化決定!】はじめましてから始まる新婚生活 ~少子化対策で相性抜群(?)の美少女と同棲することになりました~  作者: 岩柄イズカ


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『倫理規範には反してません』


「……とはいえ、そう上手くはいかないよね」


 学校の教室にて。

 朝のホームルームで席替えをすることになったのだが、蒼太が後ろの方、ましろは前の方という結果になった。

 来る前は『隣同士になりたいな』などと期待していたが、やはり現実はそううまくいかないらしい。

 蒼太は深くため息をつく……と。


「鳴上くん、やっぱりましろちゃんと隣同士の方がよかった?」


 そう声をかけてきたのはついさっき蒼太の隣になった活発そうなショートカットの女子――谷垣千尋さん。

 ましろの転入直後から積極的にましろに話しかけてくれた子で、蒼太を除けばましろと一番仲がいいのは彼女だろう。


「あ、いや、けっして谷垣さんの隣ということに不満があるわけでは……」


「だいじょうぶだいじょうぶわかってるって。やっぱり好きな子と隣になりたいよね。よーし私に任せて!」


「え、ちょ、待……」


 蒼太が止める間もなく、千尋はしゅばっと手を上げる。


「せんせー! わたし、後ろの方だと黒板見えにくいです!」


「え? いや谷垣、お前確かこの前の健康診断で視力2.0……」


「最近急に悪くなったんです! と、いうわけでましろちゃんと代わっていいですか!」


 いきなり名前を出されたましろがびっくりして振り返る。

 先生の方はだいたい事情を察したのか苦笑いしていた。


「お前それは……あー、いや、まあ、いいか……」


「さっすが先生話がわかる! というわけでましろちゃん、席代わろー♪」


 千尋がにこにこと手招きする。

 ましろは「え、あ……」と戸惑いつつも、うながされるまま席を立った。

 千尋はルンルンで前の席へ。対してましろは、なんとも肩身が狭そうに蒼太の隣へ移動してくる。


「……あんた、千尋に何か変なこと言った?」


「い、言ってない言ってない」


 席に着くなりジト目で睨んで来るましろに、蒼太はぶんぶん頭を横に振る。

 周りからの視線が居心地悪いのか、ましろは顔を伏せてしまう。

 一方の蒼太は、ましろ以上に混乱していた。


(な、なんか、すごく暖かい視線を送られてる……?)


 前の席に移動した千尋をはじめ、主にましろと仲のいい女子達がチラチラと微笑ましげな視線を送ってきてる気がする。

 極めつけは千尋の先ほどの言葉。


『やっぱり好きな子と隣になりたいよね』

 

(なんで僕がましろのこと好きなのバレてるの!?)


 告白とかはまだなのに、周りにましろのことが好きだと知られている。

 しかも先生まで、ましろが蒼太の隣になるのを割とあっさりオーケーしていた。

 それはまるで……クラスの公認カップルみたいな……。

 そう思うとなんだか恥ずかしすぎて、蒼太は机に顔を突っ伏してしまう。


 †


 一方その頃。


(計画通りです……!)


 蒼太のカバンに入ったスマホの中で、アイはこっそりとほくそ笑んでいた。

 恋愛において、周囲に対する羞恥心というのも意外と侮れない障害だ。

 当人同士が互いに好意を抱いていたとしても『周りにそういう関係だと思われるのは恥ずかしい』というだけで、最後の一歩を踏み出せなくなることは珍しくない。


 でも逆に言えば、周囲が最初から『あの二人はお似合いだ』『早く付き合えばいいのに』という空気になっている場合、それは非常に大きな追い風になる。

 告白の心理的ハードルは下がるし、関係がぎくしゃくしたとしても周囲が仲を取り持つ方向に働いてくれることも少なくない。

 なんなら、周りにはやし立てられる形で関係が進むことも……。


 少子化対策AIであるアイとしては、そういうのは願ったり叶ったりである。

 

 もっとも、アイが二人に関するそういう噂を流したりしたわけではない。そういうのはアイに設定された倫理規範に反する。


 アイがしたのは、まずは担任の先生に対する情報共有から。

 ましろは元々いじめによって不登校になり、引きこもっていた。

 それが蒼太と仮婚することになり、蒼太と過ごす日々を通して徐々に社会復帰しているところ……というのを丁寧に説明した。


 何も嘘は付いていないので倫理規範には反していない。


 結果的に、先生の頭の中では『蒼太とましろの間に愛が芽生え、未来の夫婦として支え合いながら社会復帰を目指している』という感動的なストーリーになっているようだ。


 しかし個人の想像は自由だし大きく間違っていないので訂正の必要もないだろう。倫理規範には反していない。


 さらにアイは、積極的に登下校時に手を繋ぐミッションを提案した。

 本人達の希望でバス停など人が集まる場所では手を離してもいいとしたが、それでも二人が手を繋いでいるところを目撃する人はゼロではない。

 それにそもそも、毎日同じ時間にお喋りしながら同じ時間にバス停まで来ているのだ。

 誰がどう見たって、わざわざ待ち合わせして登校してるようにしか見えないだろう。

 そうなれば

『あの二人って付き合ってるのかな?』

『私、あの二人が手を繋いでるの見たことあるよ』

『きゃーやっぱりそうなんだー』

 と噂が広がるのも時間はかからない。


 もちろん、アイが自分で噂を広げたわけではないので倫理規範には反していないのである。


(まあ、それに……)


 アイはカバンの中で、ヒソヒソ話している二人の声に耳を傾ける。


 アイは仮婚生活のサポート役として調整された超高性能AIだ。恋愛面をサポートするため、その人の声色を分析し、感情を読み取る機能まで付いている。


(本人達も、そんなに嫌がってはいないようですし)


 二人の声を分析しながら、アイは内心でニマニマほくそ笑むのであった。



 †



 席替えがひと段落すると、先生がパンパンと手を叩いた。


「はいはい、お前ら。浮かれるのはそのへんにして次の話するぞ。今年の文化祭についてだ」


 さっきまで席替えでざわついていたクラスメイト達も、『文化祭』という言葉が出た瞬間にちょっと空気が変わった。


「今年は体育館の補修工事の影響で、例年より遅れて十二月頭の開催になる。準備期間が短めだから、さっさと出し物と役割分担を決めるぞ」


 その言葉を聞いていたましろは「うへぇ」と舌を出す。


「えぇ……めんどくさい。どうせなら私が転入してくる前に終わってればよかったのに」


「でも、僕はましろと文化祭できるの楽しみだよ?」


「……あんたはまた平然とそういうこと言う」


「え? そ、そんな変なこと言った? 友達と文化祭回れるのって楽しそうじゃない?」


「……ふん」


 ましろはまたそっぽを向いてしまう。なんだか今朝からずっとご機嫌ななめだ。

 そうこうしてる間に先生が話を進める。


「で、今年の出し物だが――案があるやつ、いるか?」

「お化け屋敷~!」

「え~? 準備期間短いんだしきつくない?」

「展示系~」

「お前それ面倒くさがってるだけだろ」

「やっぱここは王道の飲食系でいいんじゃね?」

「つっても何作るの?」


 そんな感じでガヤガヤと、あちこちから意見が飛び交う。

 ましろはそれをぼんやり聞きながら、机に頬杖をついていた。

 しばらくして、出された意見から多数決で一つに絞られる。


「じゃあ今年はメイド喫茶な」


 先生がそうまとめると、歓声と「え~?」という声が半々ずつくらい。


「メイド喫茶って男子はどうすんの?」

「裏方じゃない?」

「いやここは男子もメイド服着て『お帰りなさいませご主人様~』ってやろうぜ!」

「おい馬鹿止めろ、俺のとこ毎年親とか姉ちゃん来るんだぞ!?」


 クラスのみんながそうやって賑やかにしているのを聞きながら、ましろはちょっぴり苦い顔をして「メイド喫茶……」と呟いていた。


「どうかした?」


「……別に。ただメイド服着たりとか接客したりするの嫌だなって」


「ああ、そっか。それじゃ後でその辺、裏方にしてほしいって先生に相談しとくね」


 ましろが元々不登校なのは先生も知ってるし、無理強いしたりはしないだろう。

 万が一他のクラスメイトから文句が出た場合は、自分が説得してなんとか……。

 と、話しているとましろはジト目で蒼太を見ていた。


「ど、どうしたの?」


「前から思ってたけど、あんた過保護過ぎ」


「え? そ、そうかな? けどさ、ましろにとって久しぶりの文化祭なんだよね? だったらいい思い出にしてほしいし、僕もましろが楽しんでくれたら嬉しいし……」


「……そういうとこだからね」


「え、何が?」


「……なんでもない」


 そう言ってましろはまたそっぽを向いてしまう。



 そうしてる間に教室は文化祭の役割分担の話に移っていた。

 先生が黒板に『接客』『調理』『材料の調達』などの役割を書き込み、立候補式で役割を決めていく……のだが。


「で、次は看板作りをやりたいやつ手を上げろー……って誰もいないのか」


 接客や調理に関してはそこそこの生徒が手を上げていたのだが、看板作りには誰も手を上げなかった。

 さっそくクラス内でも、やりたくない仕事の押し付け合いみたいなことが始まってしまう。

「看板どうする?」

「それっぽく作れるやついるか?」

「美術部に頼めたらいいんだけど……うちのクラス、美術部いないよね」


 困ったような声があちこちから上がっていたその時だった。


「そういえば、雪代さんって絵が趣味って言ってなかったっけ?」


 誰かが呟くように言ったその一言で、クラス中の視線がましろに集まる。


「……へ? 私?」


 そうして、ましろはみんなに見られながらキョトンとした顔を浮かべるのだった。




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