17話『……そろそろくっついちゃってもいいのでは?』
――それは紛れもない激戦であった。
敵は世界全ての色彩を我が物にせんと暗躍してきた大魔道士“カラー”。
それに抗うのは最後のお絵かき召喚士“ましろん”と“ソータ”。
『これで最後である!』
カラーは巨大な大津波を引き起こし、ましろんとソータを飲み込もうとする。それに対しましろんはすぐさま地面に絵を描き始めた。
「蒼太! なんでもいいから時間稼いで!」
「う、うん!」
ソータもすぐさま大きな壁を描き、大津波を十秒ほど押しとどめる。その間にましろんの描いていたドラゴンが完成した。
「いっけええええ!」
『ぐわあああああ!?』
ドラゴンのブレスが大魔道士カラーに直撃する。
瞬間、カラーの体力バーがゼロになり、画面が白く光った。
†
「あ~、やっと終わった~」
「め、めちゃくちゃ強かったね~」
一時間近くにわたるゲームのラスボス戦を終えた二人はぐったりと脱力した。
流石のましろも疲労困憊なようで、蒼太の胸にぐったりと身体を預けている。
「あ、蒼太蒼太」
「ん?」
蒼太が見下ろすと、ましろが振り返って軽く手を上げている。
ましろの意図を察すると蒼太もくすりと笑って、パチンと二人でハイタッチした。
そのまま二人でエンディングを見る。
最初はどうなるかと思ってたけど、ましろと二人でゲームするのはすごく楽しかった。
終わってしまうのが感慨深いけどちょっぴり寂しい。前に座っているましろから鼻をすする音が聞こえて、蒼太も胸がキュッとするのを感じた。
そうしてエンディングも終わってしまい、『THE END』と表示された画面を見ながら二人で余韻に浸る。
そんな時だ。
『いや~全クリおめでとうございます。最後はホントにお二人とも『相棒!』って感じでしたね~。これは人生の相棒になる日も近いのでは?』
「……アイ、あんたねぇ。人が余韻に浸ってるんだから空気読みなさいよ」
『まあまあ。ふふ、それにしても最近のお二人、すっかり仲良しですね。ラブラブポイントも順調に上昇中ですし。実際どうですかましろさん? 蒼太さんと一緒に過ごすの楽しいですよね?』
アイの質問に、ましろはちいさく「うぐ……」と唸る。
だが少しすると、観念したようにため息をついた。
「……まあ流石に、ここまで来て楽しくないなんて言うほど偏屈じゃないわよ」
「ましろ……!」
「あーもーあんたもいちいち感激しない! あと一応言っとくけど、恋愛感情とかは一切ないから。その辺勘違いして変なことしてきたらぶん殴るからね」
『うふふ~別にいいですよ~? 最初はまったく意識していなかった相手をふとしたきっかけで異性として意識するようになるのって鉄板ですからね~♪』
「だからないってのそんな展開。……ところでアイ、このゲームクリアしちゃったけど他に似たようなシステムのゲームってない?」
『お。気に入っていただけたみたいで何よりです。いろいろありますよ~、ショップで販売されてますのでお二人で良さそうなのを探してみては?』
「だってさ。んじゃ行こ、蒼太」
「う、うん」
ましろに連れられ、二階にある部屋に向かう。
「……っ」
ましろの部屋に入る直前、蒼太はほんの少し躊躇った。
そんな蒼太の様子に気付いて、ましろはキョトンと首を傾げる。
「どうかした?」
「あ、いや、ちょっとましろの部屋に入るの緊張しちゃったというか……」
「あんた何度も入ってるでしょ」
「それはそうなんだけど、今まではいつも用事ありきだったから。こうやって友達として招かれるの、初めてじゃないかなって」
「あんたホント、小っちゃいことでいちいち感激するのねぇ。ほら、いいから入った入った」
ましろは苦笑いしつつそう言って招き入れてくれる。
その様子はホントに気軽な感じで、あらためて自分はましろと“友達”になれてるんだとちょっと感激してしまった。
部屋に入ったましろはいつも絵を描くときに使っているデスクトップパソコン……ではなく、枕元に置かれていたノートパソコンの方に手を伸ばした。
「そういえばましろはパソコン二台持ちなんだね」
「うん。こっちはゲーム用。デスクトップは絵用。ゲームとかはベッドで寝そべりながらやりたいしね」
ベッドに腰掛けたましろはノートパソコンを開いて起動させる。
蒼太もその隣に腰掛け、パソコンの画面を覗き込む。
――どうやらましろはスリープ状態にしていたらしい。ましろがパスワードを入力するとすぐにましろが前回見ていた画面が表示され――
……表示されたのは、どう見ても成人向けの同人誌やゲームや音声作品を売ってる大人向けなサイトだった。
「あ」
「!?!?!?」
二人して固まる。数秒の沈黙。ましろはそっとノートパソコンを閉じる。
「あー……その、今のはあれよ。絵の資料的な? そういうあれで……」
『絵の資料という割には音声作品もいっぱい買ってましたけどね』
「アイあんたちょっと黙ってなさい!」
ましろは顔を赤くして「う~……」と唸っていたが、しばらくすると開き直ったように胸を張った。
「あーもう別にいいでしょ女子がエロいの持ってたって! あんただって男なんだし、どうせあんたも人に見せられないようなエロいのの一つや二つ持ってるんでしょ!?」
「も、持ってないよ!! そ、そういうのは僕には早いっていうか、その……!」
蒼太の全力否定に、ましろは「は?」みたいな顔になる。
「あんたねぇ……私が恥かいたんだからあんたも正直に言いなさいよ! ほら、今だけはどんなヤバいの持ってたって引かないで聞いてあげるから」
「だ、だからホントに持ってないってば……!」
蒼太は相変わらず全力否定。ましろも一カ月以上一緒に過ごしてきて蒼太のことを理解してきてるが、こんな頑なに嘘をつくタイプではない。
よっぽどヤバい性癖でもあるのか、それとも……。
「……アイ、実際どうなの?」
ましろが尋ねると、アイは苦笑いしつつ首を横に振る。
『これがホントに持ってないんですよねー。パソコンもスマホもまっさらのド健全です』
「マジで? 男子ってみんなこういうの持ってるもんじゃないの?」
「べ、別にそんなことないっていうか……」
「えー……あんたホントに男子? 性欲ないの? むしろ心配になってくるんだけど。ホントにそういうの興味ないの?」
「そ、それは……その……」
蒼太の視線が泳いだ。
†
ましろは蒼太の反応が鈍くなったことに気付いていた。
持ってる? と聞いた時は全力否定してたのに、興味ないの? と聞いたら途端に歯切れが悪くなって目が泳ぎ始めた。
「……ふーん?」
ましろが再びノートパソコンを開く。大人向けなサイトの画面が表示される。
トップ画面に載っているのはおっぱい丸出しのお姉さん。蒼太は慌てて横を向いて視線を逸らす。
「ま、ましろ!? は、早く消してよ!?」
口ではそう言いつつも、視線がチラチラ画面の方に行っている。恥ずかしいけれど興味はあるのが丸わかりである。
――まるで新しいおもちゃを見つけたように、ましろがニヤァ……と口角を上げた。
「へー? 僕には早いとか言いながらめっちゃチラ見するじゃない。どうせ、ホントは興味あるけど恥ずかしくて手が出せないとかそういうアレでしょ」
「ち、違……!」
「はいはい。なんだかんだ言いつつあんたも男子なのねぇ」
ましろはニマニマ笑みを浮かべている。
他の男子がこういう性欲を見せたら気持ち悪いけど、何故だか蒼太にはそういう嫌悪感を感じない。
それにましろ本人は絶対に認めないが、ちゃんと学校に通っていて家事も万能で人当たりもいい蒼太にましろは密かに劣等感を感じていたのだ。ここぞとばかりにいじり倒してくる。
「で、実際どうなのよ? あんただってそういう好みとかあるんでしょ?」
「か、勘弁してぇ……」
――愉しい。顔を真っ赤にする蒼太に、ましろはすっかり優越感のようなものを感じていた。
最初の恥ずかしさもどこへやら。「こういうのはどうよ?」とどんどんいじり方が過激になっていく。
そうして何と無しに画面をスクロールさせていくと、ある作品が目にとまった。
購入数は5万件。評価は☆5。レビューには『これをやらないのは人生損してる!』とまで書いてある。他のレビューも絶賛の嵐。
「……これ、二人でやってみる?」
つい悪ノリが過ぎてそんなことを言った。案の定蒼太は顔を真っ赤にして首をぶんぶん横に振る。
「でも興味あるんでしょ?」
「そ、それは、その……」
蒼太は視線を右往左往。……なんというか、蒼太は弄られキャラの才能があると思う。
ましろ自信も踏み込み過ぎだと思っているのに、もっとからかいたくなってしまう
「大丈夫大丈夫、泣きゲーみたいだしそんな過激なことはやらないって」
購入してダウンロード開始。やっぱり蒼太も興味があるのか、モジモジしつつも逃げだそうとはしない。
ダウンロードが完了してさっそくゲーム開始。思いの外クオリティの高いオープニングに感心しつつも初めからゲームを開始する。
それから数時間後。
「うぐ……ひっぐ……うえぇぇぇん……」
「ま、ましろ? 泣かないで?」
「だって、だって二人が……うわぁぁぁん……!」
さらに数時間後。
――めっちゃくちゃ良かった。
ましろはティッシュで涙を拭いチーンと鼻をかむ。
何度でも言うけどめっちゃくちゃ良かった。この作品と出会えて良かった。
セール中だったから割引価格で買ったけどそれを申し訳なく思うレベル。作者のファンサイトとかあったら今度お布施しに行こうとましろは心に誓った。
途中でエッチなシーンももちろんあったのだけど、エロさよりも主人公とヒロインがやっと結ばれたという感動の方が強くて、エッチなシーンを泣きながら見るという奇妙なことになった。
「いやー、すごかったね……」
「ホントねー。最初はあんたをからかう目的で買ったけど、買って良かったわ」
自分で言って、ましろはあらためて『エロいシーンを見せて慌てる蒼太をからかってやろう』と思ってこのゲームを買ったのだと思い出した。
(……思えば、やってる間は泣いててそれどころじゃなかったけど、けっこう過激なことしてたわよねあの主人公とヒロイン……。初めてなのに何度も求め合ったり、ヒロインの方からあんなことしたり……)
思い返すとだんだん恥ずかしくなってきた。
(……それに、恥ずかしいだけじゃなくて、ヒロインがあんなに…………だったから、なんというか、その……)
そうしてましろが身体をモジモジさせていたその時だ。
「僕も、ましろとああいう風になりたいな」
蒼太がそんなことを言って、ましろは声にならない悲鳴を上げた。
(ななな、何言ってんのこいつ!?)
心臓が跳ねる音がする。今まで蒼太のことは、異性という意識すらほとんどなかっただけにこういう風にストレートに欲求をぶつけられるのは完全に不意打ちだった。
頭の中で、どこかで見た『男はケダモノ』というフレーズが蘇る。
(ま、まさか私、煽りすぎた!? 男子との距離感間違えた!?)
よくよく考えれば蒼太だって男なのだ。それも思春期真っ盛りの男子高校生。
それが女子と一緒にエッチなゲームをやったのだから、そういう欲求が出てきても不思議じゃない。
ましろは怯えた様子で、おそるおそる蒼太の方を振り返る。いざとなったら悲鳴を上げてアイに助けてもらう心の準備をする。
……が、蒼太は何とも穏やかな表情をしていた。
「あの主人公とヒロインみたいに、ましろとお互い信頼し合って助け合えるような関係になれたら……」
――瞬間、ましろは枕で蒼太の顔面をボフンと引っぱたいた。
「わぷっ!? ちょ、ましろどうしたの!?」
「うっさい死ねええええええ!!」
勝手にエッチなことに誘われてると勘違いしたのが恥ずかしすぎて。それからしばらくましろは蒼太に八つ当たりを続けるのだった。




