16話『いいですねいいですね……』
先日の買い物デート以来、また少しましろと仲良くなれた……ような気がする。
夕食を終えてゲームの準備を始めると、ましろは当然のように蒼太の足の間に座り込む。
カップルスタイルとアイに命名されたあの体勢。ましろは何のためらいもなく蒼太の身体に背中を預け、鼻歌交じりにゲームを起動。「もうすぐラスボスだし頑張るわよ」と張り切っている。
そうして今日も今日とて二人でゲームを遊んでいたのだが……。
「う……んぅ……」
時刻も十一時を回った頃、ましろはこっくりこっくりし始めた。
ペンタブに走らせる線も今はヨレヨレ、かなり眠そうだ。
「……ましろ? 眠そうだしそろそろ寝ない?」
「やだぁ……もうすぐクリアだもんぅ……」
語尾がとろんと伸びている。明らかに寝落ち秒読み状態である。
「でもこんな状態でボスに挑んでも勝てないと思うよ?」
「や~だ~~……」
ねむねむなましろの言動はまるで小さな子供みたいで、蒼太も思わずちょっと笑ってしまった。
「ほら、いい子だから今日はここまでにしようね?」
つい、小さな子供に語りかけるような口調でそう言って頭にポンと手を置いた。柔らかな髪に指先が沈む。
だが直後にハッとした。勝手に頭を撫でて、しかも小さい子みたいな扱いをしてしまった。
プライドの高いましろのことだし、これは怒られても仕方ない……と思っていたのだが、ましろはまったくそんな気配がなかった。
むしろ蒼太の手の方に頭を傾げて、撫でるのを受け入れてくれてる。撫でる力を弱めると、「もっとして」とせがむようにましろの方から頭を押し付けてくる。
しばらくそうしていると、ましろの身体から力が抜けて完全に体重を預けてきた。
すぅ、すぅ、と小さな寝息。蒼太の身体を背もたれにして完全に寝落ちしてしまった。
(かわいい……)
あのましろが、自分に頭を撫でられながら眠ってしまった
横顔を覗いてみると安心しきったような安らかな寝顔で、ものすごく無防備な姿をさらしてくれている。
(ま、まあそれだけ男として見られてないってことだろうけど……!)
そう思うとちょっぴり悲しいが、やっぱり可愛いものは可愛いし、女子にそこまで信頼してもらえてるのは正直嬉しい。
……サラサラの黒髪から、ふわりとシャンプーの甘い香りがした。
無意識に深く息を吸ってしまい、慌てて息を止める。
……蒼太だって男の子だ。
普段から優しくて穏やかだし、ましろからは大っきなぬいぐるみとか唐変木とか言われ、先日は女装までさせられたが立派な男で、思春期の男子高校生なのである。
――当然、人並みに女子には興味があるし、性欲だってある。
(…………)
心臓がバクバク鳴っている。
女子の身体に勝手に触れたりするのは良くないことだ。
ましろと同棲するにあたり蒼太はその辺気を使って来たし、邪な目で見たりしないように気をつけていた。
だがこの一カ月ましろと一緒に過ごしてきて、どんどんましろへの気持ちが膨らんで来て……。
ほんの少し、鉄壁の理性が緩んでしまった。
(……………………)
後ろから、そっとましろのお腹に腕を回す。そのまま軽く抱きしめる。
ましろの柔らかい髪に顔を埋めると凄くいい匂いがした。
ドッドッドッと心臓が爆音を鳴らしている。頭がクラクラする。
(細くて、柔らかくて……暖かい……)
ほんの少し抱きしめる力を強くする。
ましろの体温と身体の柔らかさが、服越しにじんわり伝わってくる。
……最初の頃は、実際いろいろ苦労した。
同年代の女の子との同棲だなんて当然初めてでわからないことだらけだし、ましろはわがままでマイペースだし、アイは変なミッションをふっかけてきたりからかったりするし。
でも一緒に過ごしているうちに、良いところや可愛いところ、絵にかける情熱何かを見てきて。
最初は一目惚れに近いというか……率直に言って外見で好きになったのだけど、どんどん内面も好きになってきて……。
眠っているましろに、勝手にこんなことをしているという罪悪感は確かにある。
けれどそれより何より、ましろのことが愛しくて、この子をいつまでも護ってあげたいなんて気持ちまでわいてきて……。
『うふふ♪ お二人ともずいぶん新婚夫婦らしくなってきましたね~♪』
「っっっ!?」
突然のアイの声に蒼太は飛び上がりそうになった。
慌ててましろから腕を離し、あわあわと両手を宙で泳がせる。
「い、いやっ、あの、これは、その……その……ごめんなさい!」
『しー、あんまり大きな声出すとましろさん起きちゃいますよ?』
「う、うん」
ましろの様子を見ると、幸い小さく「ん~……」と唸っただけで起きる気配はない。
ホッとしたのもつかの間、蒼太はダラダラ汗をかきながらニコニコしているアイの方に視線を向ける。
――もしかしてヤバいのでは?
寝ている女子を勝手に抱きしめていた。
普通に考えたらアウトなのでは?
警察とか、学校、親に連絡されたりとか……。
「僕……捕まっちゃったり、する……?」
『はい?』
泣きそうな顔で質問した蒼太にアイはしばしキョトンとした後、苦笑いしつつ『大丈夫ですよ~』と手を振った。
『さっきのはどう見ても健全なスキンシップの範囲内ですから。まあ、流石に変なところ触ったり揉んだりしてたら話は変わってましたけど』
「そんなことするわけないでしょ!?」
『いや~、そこで『そんなことするわけない』って反射的に言えるあたり蒼太さんって筋金入りですよねー。一般の男子高校生なら流石にもうちょっと、いろいろあると思いますよ?』
「そ、そういうのは悪いことだし! それに……」
『それに?』
「ましろの信頼を裏切りたくないし……嫌な思いしてほしくないし……幸せにしたいし……」
『満点ですっ!!』
いきなりアイが叫ぶと空中に花丸マークが表示される。
「え? な、何が?」
『いや~この時点でそんな回答が出てくるとは。ましろさんの夫として蒼太さんは百点満点です。ラブラブポイントに十ポイント加点しておきますね』
「あ、ありがとう?」
なんだかよくわからないが、アイは先ほどの回答がとても気に入ったようでニコニコしている。
『まあ何にせよ、この状況のハグなら健全なスキンシップの範囲内として問題になることはありません。そもそもましろさんの方から蒼太さんの足の間に座ってますし、ましろさんもある程度のスキンシップには同意していると見る方が自然だと思いますよ?』
「そ、そう? それならいいんだけど……」
『大丈夫ですって、まあましろさんの性格的に恥ずかしがって文句は言うかも知れませんが、本気で触れあうのが嫌な相手ならそもそもこんな無防備な姿晒すわけありませんし』
そう言ってアイはクスリと笑うと、蒼太の耳元で囁く。
『だからこのまま思う存分、ましろさんをぎゅ~~ってして、いいですからね?』
その言葉に蒼太は真っ赤になって、アイはそれをクスクス笑いながら見守るのだった。




