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第22話  雷雲かけ巡る




 夜の闇が、青白い雷光に切り裂かれる。


 中心に立つベント夫人の瞳には、もはや何も映っていない。彼女を守るように四方八方をのたうつ雷撃は、目に見えぬ「影」を追い、狂ったように放たれていた。


 だが、その影――シェリーは、すでに常人の理解を超える領域に達していた。



 ――一呼吸。

 ネームドスキル**【一騎駆け】**が起動する。彼女の細い体が、パチリと爆ぜるような音と共に加速した。

 

 ――二呼吸。

 世界が静止したかのように遅くなる。放たれる雷撃の間を、彼女は重力を無視した角度で駆け抜ける。

 

 ――三呼吸。

 敏捷のランクが限界まで跳ね上がり、彼女の姿は完全な「無」と化した。

 たかが数秒の出来事。しかし、翻弄される夫人にとっては、終わりなき無限の時間に思えた。

 

「……そこよ!!」


 夫人が絶叫し、一瞬だけ立ち止まった影に狙いを定める。全魔力を注ぎ込んだ、最大出力の一撃。大気を焼き、小屋の瓦礫を蒸発させるほどの雷柱が、シェリーを飲み込もうと襲いかかる。


 だが、その瞬間。


 物理法則が、あざ笑うかのように捻じ曲がった。

 直撃するはずだった雷撃が、シェリーの目前でグニャリと軌道を逸らしたのだ。


 雷光は主の敵を討つことなく、不自然な急旋回を見せ、あらぬ方向へと突進する。



 ドゴォォォォォン!!

 雷が突き刺さったのは、シェリーが移動中に大地へ突き刺しておいた、数本の短剣だった。


「な……っ!? なぜ!? なぜ私の魔法が当たらないの!!」


「原理はわかんないですけれど……えっと、たぶん、

風遁ふうとん・避雷針のじゅつー!!!】」



 シェリーが、加速の余韻を纏ったまま叫ぶ。


 実際には風の術でもなんでもない。移動速度に任せて鉄製の短剣を周囲に配置し、雷の指向性を無理やり誘導した、極めて物理的な荒業だった。



 雷撃が霧散し、夫人の守りが消失したその刹那。

 

「……これで、お眠んねですよぉ!!」



 三呼吸目の「神速」を維持したまま、シェリーは夫人の懐へと潜り込んだ。


 渾身の力を込めた**鉄肘てっちゅう**が、夫人の鳩尾みぞおちに深々と突き刺さる。



「が、はっ……」


 夫人は魔法を霧散させ、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 シェリーは無感情に、しかし迅速な手付きで夫人に捕縛縄をかける。


 結び目を引き絞り、ようやく「仕事」が終わったことを確認すると……。



「……ふぇぇ。もう、一歩も動けないですよぉ……」


 シェリーは、ぺたんとお尻を地面につけた。

 極限まで張り詰めていた肩の荷が、一気に降りたような、気の抜けた声。

 その顔は煤だらけで、先ほどまでの「死神」の面影はどこにもなかった。



……

………



 静寂が戻った荒野で、シェリーは泥の中に崩れ落ちた。


 ネームドスキル**【一騎駆け】**を限界の三呼吸まで使い切った代償は、あまりに重かった。加速に耐えきれなかった両足の筋は断裂し、夫人の鳩尾を撃ち抜いた肘の骨は、砂のように砕けている。



 指一本動かす気力も残っていない。もはやこのまま、冷たい地面の上で朝を迎えたい。シェリーがそう願った、その時だった。


「……え?」


 パチッ、と全身の細胞が弾けるような感覚。

 先ほどまでの激痛が嘘のように消え去り、断裂した筋も、砕けた肘も、失ったはずの体力が瞬時に次の絶望に備え始める。



 それは火事場力なのか。

 それとも燃え尽きる前の最後の灯火なのか。


 信じられない回復に困惑しつつ、シェリーがふと立ち上がった時――夜の闇を裂いて、その声は聞こえてきた。


「素晴らしい……憎らしい。魔王様の力の残滓を、たかが人間の奇跡が打ち破るとは……ああ、憎らしい」


 そこには、人ならざる影が立っていた。


 背筋を凍らせるような禍々しい魔力を纏い、その風貌を見た瞬間、シェリーの「アサシンとしての本能」が絶望的な答えを叩き出した。


「あ、あ……悪魔あくま……」


「素晴らしい憎らしい。この悪魔サバエルの名は、数百年経とうとも消え失せていないのか?」


 サバエル。シェリーはその名に心当たりがあった。

 御伽話の中で、かつての英雄ヤン・キによって討伐されたはずの悪魔。なぜ、そんな伝説の存在が今ここに……。


「サバエルってもしかして英雄ヤン・キが討伐した悪魔?」


「ヤン・キだとぉ……ッ!? あの男はまだ生きているのか!!今度こそ殺してやる……だが、その前にお前からだ。次こそ万全を用意する。さあ足掻いてみろ!!」


 シェリーが問いを口にする暇さえ与えず、サバエルの放った魔力の礫が彼女の足を深々と貫いた。


「っ、あぁ……!!」


 激痛。だが、シェリーは特殊な呼吸法で痛みを強引にねじ伏せ、再び跳んだ。もう一度、**【一騎駆け】**を発動させて、この怪物から距離を取るために。


 ――だが、発動しない。



(どうして……!? 条件も……条件!!)



 狼狽するシェリーを見て、サバエルは興醒めしたように鼻を鳴らした。

「もういい。期待させた罰としてこの街ごと一撃で終わらせてやろう」




 サバエルは無造作にシェリーの足を掴み上げ、まるでゴミを捨てるように瓦礫へと投げ飛ばした。

 そして、黒い魔力を凝縮させた手刀を形成し、倒れ伏す彼女を見下ろす。


「……躊躇なく首を刎ねてやろう。英雄を待つ時間は、我にはないのだ」



 振り下ろされる、必殺の手刀。


 シェリーが死を覚悟し、目を閉じた瞬間。


 ――カァァァァンッ!!



 硬質な音と共に、サバエルの魔刀が、目に見えた白い「壁」に弾き飛ばされた。


 一匹の虫ケラすらも奪えぬ事を無念とするように霧散する黒い魔力の渦と

 さらさらと舞い落ちる白い結晶


「……何ッ!?……なんだこれは……塩?」


 驚愕に目を見開く悪魔の耳に、聞き慣れた、しかし今は異様に重厚な男の声が届いた。


「おっと。……お前はもう『土俵(フィールド』に入ってるんだ。大一番じゃねえからってよそ見してんじゃねえよ」



 そこには、脇腹にナイフを刺されたまま、白く輝く岩塩を僅かにこぼすジェイクが立っていた。


 彼の足元を中心に、不可視の境界線が大地へと深く刻み込まれている。


「ジェイク、さん……?」


「すまんなシェリー。……お前は十分良いところ見せたから良いだろ?悪魔ぐらい俺にやらせてくれよ」



 ぐらい、その言葉にサバエルは顔を顰めた。


「憎らしくもない。遊ぶ気もない。ただ死ね」


 

 この時点でサバエルの死亡は確定した。

 取り組みが合意となったのだ。







 ギルドカード


 ローア   46歳 ランクF

 レベル1 基礎ポイント1+ランクポイント2


 商業ギルド カーター商会「ランクA」


 ギルドマスター 

 イグニス・K・T ・カーター(ランクS)

 ギルドポイント50点取得


 基礎ステータス、ギルド補正(体力、知力、運)


 力  F

 敏捷 F -

 体力 E

 知力 D

 精神 F -

 運  B


はぐれ討伐数 0


発現魔法  サンダークラウド

 自身の半径50メートルに10前後の雷雲を発生させ、自由自在に雷を射出させる事ができる。オートで防御もするが一斉に全弾攻撃した瞬間は0.2秒、無防備になる。


基礎スキル

 LV1 家族愛1  夜更かし1  信仰1

 3点振り分け済み


 ギルドスキル

LV1  運搬 交渉 値切り

LV2  幸運UP 魔王信仰

LV3以降 ランク不足により取得不可    

  

7点振り分け済み


上級スキル なし


ネームドスキル なし

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