第18話 オープン・ザ・アサシン
「アサシンギルド」と聞けば、誰もが月明かりの下、黒装束の集団が毒を塗り、影から影へと渡り歩く不穏な光景を想像するだろう。
だが、この世界の現実は少し違う。
「不穏なこともする」が正しいのであって、基本的には「顧客第一主義」を掲げるサービス業だ。依頼人のプライバシーを守るためには手段を選ばないが、訪ねてくる客を迷わせないよう、表通りには「迅速・確実・秘密厳守!」と書かれた小綺麗な看板まで出している。
俺とフィオは、そんなもの凄くオープンな靴屋――のフリをしたアサシンギルドの地下へと足を踏み入れた。
ヒュッ、ヒュパッ!!
階段を下りきった瞬間、鋭い風切り音が鼓膜を叩く。数本の投げナイフが、寸分の狂いもなく俺の頬の数ミリ横を通過した。
トトトッ!
背後の柱にナイフが小気味良い音を立てて突き刺さる。
「お仕事ねーかー。お仕事ねーかー!?」
奥から現れたのは、布面積が極端に少ない艶のある東洋衣装服を来た露出度の高いねーちゃんだった。腰には無数のナイフホルダーを巻き、銀色の刃をペロリと舌舐めずりしながら、しなやかな動きで近寄ってくる。
彼女は俺を無視するようにすり抜けると、フィオの背後を一瞬で取り、その小さな体をガバッと持ち上げた。
「ほーら悪魔っ子ゲットー! 離してほしくばお仕事よこすでーす」
「わわっ! シェリーちゃん、苦しいよぉ」
フィオは慣れた様子で、空中で足をバタつかせながら苦笑いしている。どうやら、この殺伐とした挨拶はこのギルドの、いや、この女の「通常運転」らしい。
「お仕事持ってきたよ。シノブさんはいる?」
「ノー! マスターのシノブは、今『西端掘削遠征』とかいう、これまた物騒な宝探しに行ってるですです! 代わりに私、シェリーがお仕事するですよ!」
自称シェリーというその女は、フィオを小脇に抱えたまま、ナイフを一本抜き取って俺の鼻先に向けた。
「……で? そっちの、筋肉質だけどどこか間の抜けた顔をした兄ちゃんは誰ですです? 悪魔っ子の新しいパパ?」
「……『レナちゃんなんとか』の新入り、ジェイクだ。パパじゃねえ、それとナイフを引っ込めろ」
俺は威圧感を込めて言い返した。
シェリーは一瞬、俺の目を見て「おや?」と首を傾げフィオを見つめた。
「マーガレットがよく許可したですね?」
「マッカちゃん今いないってこないだも言ったよ?」
シェリーは思い出したかのように頭を叩いてすぐにケラケラと笑ってナイフを懐にしまうと抱きつきながら無理やり握手してきた。
「あははは! 最高に運が悪いやつめっけですよ! 私の名前はシェリー・灰木でーす! 仲良くしようですです!」
俺はマワシ……ではなく、ポケットから「不吉な顔文字」が踊る書類を取り出した。シェリーが中身を改めてる間にフィオにきく、
「マーガレットって誰?」
「マカロンの前の名前だよ」
「俺が田舎者なんだろうけどこの大陸では改名とか普通に出来るの?」
「わかんない」
……無理じゃないのか?
俺も出会った時にレナの魔法【魂の改変】をくらい、弾き返したから済んだが、そのままだったら……有り得なくないのか?
だとしたらFランク程度のギルマスがそこまでの力を持ってるなんてこの大陸の猛者は本当にヤバい奴らしかいない事になる。
そんな事を考えているとシェリーは持っていた紙を燃やした。
「お前何やってんだよ!」
「もう必要ないでーす。私ぜーんぶ覚えましたー!」
なに!? コイツはあんな短文を暗記したぐらいでドヤ顔してるのか?そもそも
「お前はそれがないと正式な依頼書作れないの知ってるのかよ!?」
「はひょ!?」
俺の一言がよほど想定外だったのがシェリーが固まってしまった。
「ふみゅみゅ〜。筋肉ダルマ〜なにかいい方法考えてほしいでーす」
かと思えば泣きつく始末、
たぶんコイツはポンコツだよ。
……
「お願いですです筋肉だるま……いや、ジェイク様! この書類の件、マスター・シノブにはバレないようにもみ消してほしいですよぉ!」
シェリーは俺のズボンに縋り付き、なりふり構わず懇願してきた。
聞けばマスター・シノブというおかた。規律に厳しく、以前書類を失くした団員の腕を切り飛ばして謝罪に向かわせたそうだ。
仕事の失敗に関してはめちゃくちゃ甘く親身になって相談を受ける代わりに規律だけは厳しく、どこぞの王国を彷彿とさせる。
「いや、もみ消すって言ってもなぁ……」
「お礼ならするですよ! もし手伝ってくれたら、特別に私を**『一発やらせてあげる』**ですよぉ!」
「ぶっ……!?」
俺は盛大に咽せた。
いくら俺が追放された身で、マワシ一丁で街を練り歩く変質者扱い(心外だが)だとしても、思春期を冒険というむさ苦しい世界で過ごした初心なRIKISHIだぞ。
「お、おい! フィオの前でなんて破廉恥なことを……! 断る、俺はそんな不届きな目的で冒険をしてるんじゃねえ!」
「えええ!? 一発で足りないですか? じゃあ三発! 大サービスで三発ぶち込んでいいですよぉ!」
「おかわりするな! 回数の問題じゃないだろうが!」
「ああーもーー!!!私のギルカも見せますから後生の極みでーす!」
「会って間もない他人にギルドカードなんて見せるな!」
シェリーは涙目で必死だ。どうやら本当にシノブという男が恐ろしいらしい。その必死すぎる形相に、俺の気が揺らぐ。
……まあ、命に関わるようなお仕置き(?)を受けるくらいなら口裏を合わせるくらいはしてやるか。
すると、隣で黙って聞いていたフィオが、俺の裾をくいっと引っ張った。
軽蔑の眼差しを向けられるかと思いきや、彼女の瞳はいつも以上にキラキラと輝いている。
「ねえ、ジェイさん。フィオにも……一発ちょーだい?」
「フィオォォォ!! お前まで何を言ってるんだ! レナはどんな教育をしてるんだよ!」
「えへへ、だってアレ楽しいんだもん」
混乱する俺を余所に、シェリーは「交渉成立ですね!」と顔を輝かせると、一本の鋭いナイフを俺に手渡した。
そして彼女は自ら壁際の太い柱に歩み寄り、腰の縄で自分の体を柱に固定し始めたではないか。
「……? おい、何やってんだ?」
「さぁ! 約束通り、私の体に三発ぶち込んでいいですよーー! これがマスター・シノブ直伝『ドゲザ』ですです!」
「…………は?」
俺は手元のナイフと、柱に括り付けられたシェリーを交互に見た。
アサシンギルドにおける「一発」とは、標的になってナイフを投げられること。つまり、死ぬ思いをすることでミスを帳消しにするという、狂った体育会系のノリだったのだ。
「……紛らわしい言い方すんじゃねえよ! 俺の純情を返せ!」
「何言ってるですか? 早く投げるですよ! ジェイク様のその筋肉なら、きっと最高の風切り音が楽しめるはずですです! 下手っぴなら近付いて突き刺してもいいでーーす!!」
俺がしどろもどろになっていると、フィオは机に乗ってジャンプ一番、空中に舞い上がり全体重をかけてシェリーに体当たりをした。
当然ナイフの刃を突き立てて……だ。
ぐはぁ……シェリーの呻き声を代弁しとしてやった。
「手応えありぃい!」
何故かフィオは人を殺しといてイキイキしてるし。
「わぁお!悪魔っ子は血も涙もないですね! ささ、次は筋肉ダルマの番ですよ。私はもう一度縛られ直すです」
コイツはなんか知らんが無傷で脱出してるし。
フィオが突き刺したのはいつの間にか丸太に変わってるし。
もうわけわからん。
〜ギルドカード〜
シェリー・灰木 22歳 ランクB
レベル50+ランクポイント15を取得
アサシンギルド カ国支部(ランクS)
ギルドマスター 音無シノブ(ランクD)
合計ギルドポイント30を取得
基礎ステータス ギルド補正 敏捷・精神
力 E
敏捷 B+
体力 E
知力 E
精神 B
運 D
発現魔法なし
はぐれ討伐数0
基礎スキル
LV1 整理整頓(1)グロ耐性(1)
LV2 基礎言語(4)手品(4)
LV3 投擲(9)
LV4 悪食 (16)
LV5 なし
計35ポイント振り分け済み
ギルドスキル
LV1 鍵開け(1)拷問術(1)
LV2 不意打ち(4)
LV3 拷問術(耐)(9)
LV4以降 ランク不足により習得不可
計15ポイント振り分け済み
ギルドポイント未使用
上級スキル
LV1 変わり身1
LV3 ニンジャ1+4+9
計15ポイント振り分け済み
ネームドスキル
灰木=【一騎駆け】単独で対峙した場合、一呼吸のたびに敏捷を1ランク上昇させる。なお肉体強度は変わらない。力、体力Eの場合、三呼吸が限界、四度目の息を吸った瞬間に死亡が確定する。




