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第17話  街の御用聞き



 この大陸には『御用聞き』という、一風変わった職業が存在する。


 いや、俺がいた島でなかっただけだから変わっているのはむしろこっちだ。


 さてどんな仕事かと言うと表向きは「困りごとはありませんか?」と家々を回る御用聞きだが、その実態は、文字の読み書きができない層や、公式なギルドに相談するには「訳あり」だったり「見られたくない」「くだらない」とあしらわれるのを恐れてる連中のための、出張クレーム対応窓口のような何でも相談だ。



 そして最近、俺はこの街の奇妙な力学に気づき始めていた。


「へぇ……。つまり、この街はガキが最強ってことか」

「ジェイさん、言い方が悪いです。最強ではなく、『治外法権』と言ってください」

 ギルドへの帰り道、グリムが眼鏡をクイッと押し上げながら解説してくれた。

 


 この地域では、子どもが何かを見聞きしても「子どもが言ったことだから」という魔法の一言で、大抵のしらを切ることができる。情報源を隠したい大人にとって、これほど都合の良い存在はいない。


 実際にきちんとした情報の伝達などマニュアル化されてない限り大人でも無理なのだから。



 だからこそ、御用聞きの仕事はグリム達のような「子どもの集団」に回ってくることが多いのだという。


 そしてそれを束ねる良識ある大人役ですら子どもと来たものだ。レナは一応ギルドマスターで相応の地位と良識があるのは約束されている。



「だからレナの奴、あんなに幼いのにギルマスやっていけるのか……」


「マスターは真面目ですからね。ちなみに僕が御用聞きしても全然効果がありません」


「ああそうだろうな。グリムは台詞どころか一挙手一投足まで再現してきそうだもんな」




 ギルドに戻ると、レナが机に短い脚を投げ出して、飴玉を転がしていた。


「おかえり、ジェイ君! 今日の御用聞きはどうだったぁ?」


「ああ。隣町の商人が『妻に内緒で買った壺の隠し場所を忘れた』っていう、どうしようもない相談が一件。それと、役所の窓口の奴が『実はカツラがズレてるんじゃないか不安で夜も眠れない』っていう、これまたどうでもいい悩みが一件だ」



「ひっひっふー! 今日も街は平和だねぇ。」



 レナが嬉しそうな笑みを浮かべ再び書類と睨めっこモードに移行する。



「でもさ、レナ。俺みたいな『歩く重機』が御用聞きに行くのは無理があるだろ。どう見ても子どもじゃないし、威圧感の塊だし」


「何を言っているんだいジェイ君。君は今、立派な『レナちゃんファンクラブ』のメンバー、可愛いお友達だよぉ」


「嘘つけ! 街の連中、俺が御用聞きに行くと『筋肉が悩みを解決しに来た!』って拝んでくるんだぞ!」



 俺の悩みを聞き取るスタイルは、もはや相談ではなく「懺悔」に近いらしい。


 俺が腰を落として「見合って見合ってぇ……」と悩みを促すと、大抵の奴は震えながら隠し事から浮気の告白まで全部吐き出す。



「まあ、たまには真面目な人が来てくれないかと思っていたりするものさ。と、そうだジェイ君。これを冒険者ギルドと、商業ギルド、それとアサシンギルドに持って行って」



「 俺に?」


 レナに渡された書類。別に封をされているわけではないから中身を見てみる。



 〜〜昨晩未明、道具屋ベントが干からびた状態で発見された_:(´ཀ`」 ∠):

 遺体は夫人が引き取っており引き渡しを拒否している状態ʅ(◞‿◟)ʃ


 夫人は商業ギルドに所属しているがスキル取得はなし。確認済みなので間違いない。くれぐれも用心して遺体を引き受けること(ノД`)アラゴトダメー


 またベント殺害犯は生きたまま捕縛する事、多数のギルドが入り乱れる可能性がある為人数を限定させ業務を遂行する事を提案する( ´Д`)y━・~~



 著者 レナ・C・ファルシオン



「ムカつく字体だけどレナの文書は見やすいんだよな。最近知ったけどこれって識字関係なく読めるらしいじゃん?」





「うん。わたしもねぇ、なんやかんや苦労して書いてるからねぇ」


「なんやかんやってなに?」




「なんやかんやはなんやかんやなの!!」


「はい。ごめんなさい。」



 


……

………




 レナから預かった三通の書類。それを俺は大切に小脇に抱えてギルドを出た。


 「御用聞き」の延長線上の配達だ。だが、その中身は「道具屋の変死」という、この街を揺るがしかねない物騒な代物。



 「ジェーさん、あっち。アサシンギルドは裏通りの靴屋さんの地下だし」


 隣を歩くフィオが、俺の大きな指を小さな手で握りながらナビゲートしてくれる。


 フィオは今日、心なしかいつもより距離が近い。俺が歩くたびに、彼女の柔らかい髪が俺の腰のあたりにふわふわと当たる。


 「ねえ、ジェイさん。今回のこと、フィオは思うの。これ解決したらきっとすごいお金がもらえるかも」


 「……金か。まあ、干からびた死体なんて案件、普通じゃないからな」


 「うん。マカちゃんがいない間、レナちゃんクラブはいつもピンチでしょ? だから……この書類を届けたあとに二人でこっそり解決しちゃわない?」


 フィオが上目遣いで俺を見てくる。その瞳には、子供特有の無邪気さと、それとは裏腹な決意のようなものが混じっていた。


 だが、俺は首を横に振った。


「気持ちは嬉しいがな。相手は人を干からびさせるような化け物か、呪い使いだぞ。アサシンギルドが駆り出されるような案件に、専門のスキルもねえ俺たちが出張るのは、土俵を間違えてる」



 俺は呪いぐらいなら祓えるけど一方的に恨まれたらたまらん。



 何より、俺は追放された身だ。自分の限界は嫌というほど知っている。

 それとフィオは経験上で『大金が貰える』と言っていたから俺も心の声で言わせてもらおう。



 経験上今回の件で大金はもらえない。

 理由は正式に受諾してもない依頼を勝手にこなす事を連盟は良しとしても、解決したから報酬をせしめるなんて怒られる案件だからだ。



「……無理は禁物だ。俺はお前を危ない目に合わせたくねえんだよ」


 俺がそう言うと、フィオの顔がパッと赤くなった。

 彼女は握っていた俺の手をさらにギュッと強める。


「……別に、解決しなくてもいいの」


「え?」


「ただ……最近フィ達のギルド評判が良くないから、ちゃんとしてるって、役に立ってるって皆んなに知ってほしいだけ」


「フィオ……そんな殊勝な心掛けがあるなら詐欺チラシ配るのやめろよ」


 俺の言葉にフィオは「えへへ〜」と舌を出した。


 なんとこいつらは数々の正式なチラシに混じって自作の詐欺チラシを挟み込んでいたのだ。



 それが巧妙で中々に気付きにくい。

 そしてどのような魔法なのか、この悪ガキ3人達はサインの偽造までやってのけている。


 偽名などは普通に書けないのだ。

 当たり前だが偽名を名乗ったり他人の名前を使う事は神の摂理に反するのだろう。


 これだけは種族など関係ない。


 しかも偽名を使われた相手はレナときたもんだ。


 なにが『とてもすごい れな・ふぁるしおん』だ。


 仮に俺の名前を使われてたら犯人には鯖折りしまくって月まで届かせてやってるよ。

 

 俺がよほど難色を示したように見えたのかフィオは覗き込んだ。


 「道具屋のおじさん、フィオにいつもおまけしてくれたから。……犯人を捕まえるのはアサシンさんたちにお任せして、フィオたちは『お花』を供えに行くだけでもいいんだよ?」



 フィオの言葉に、俺は少しだけ言葉を詰まらせた。

 この子は、お金のためだけじゃなく、純粋にこの街を、そして俺たちの居場所を守りたいと思っているのだ。

 

 そんなフィオの健気な好意(あるいは正義感)を感じて、俺の胸の奥が少しだけ熱くなる。


 前パーティのアリティアなら「効率が悪いわね、死体なんて放っておきなさいよ」と一蹴しただろう。



「……わかった。解決はしねえ。だが、現場の様子を見て、お婆ちゃんや子供たちが夜安心して眠れるように『清めて』くるくらいなら、俺の役目だな」


「本当!? やったぁ! やっぱりジェーさんは王子様だね!」

 フィオがぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。


 王子様。その言葉を聞くたびに恥ずかしくなるが、彼女の笑顔を見ていると不思議と「まあ、悪くないか」と思えてくるから不思議だ。


「よし、まずはこの『不吉な顔文字入りの遺言』を、武力を備えた名探偵共に届けてくるとするか。……フィオ、俺の後ろから離れるなよ」


「うんっ! 絶対離れないよ!」


 俺たちは、影が伸びる夕暮れの裏通りへと足を踏み入れた。


 アサシンギルドの重い扉の向こうで何が待っていようと、この小さな手の温もりがある限り、俺の足が震えることはない。



「でもフィはお外が暗くなる前に帰るからね。あと三十分くらいかな?」


「そりゃそうだ。パパっと済ませたら家まで送るよ」






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