第16話 旧友と今と清めの塩
「よし、ラスト! っっしょぉぉぉい!!」
俺が叫ぶと共に、巨大な建材の束が荷卸し場の定位置にズドンと収まった。
地面が揺れ、周囲の荷役たちから「よっ、まわしマン!」「いい仕事だマワシマン!」と威勢のいい声が飛ぶ。
ここ最近、俺の「重労働」は商業区でちょっとした名物になっていた。
効率が良すぎる上に、煽ててあげれば与えれば文句も言わずに働き続ける。最近では「マワシに触ると腰痛が治る」なんて縁起物扱いまでされ始めている始末だ。
「ふぅ……」
額の汗を拭い、グリムが交渉して勝ち取った「特別手当(おにぎり」を懐にしまって歩き出した時だった。
「おい、さっさと歩けよ。何ボサッとしてんだ?」
もうね。俺ほどになるとわかるんだよ。
こいつは嫌なやつ。
商業ギルドの入り口付近で、派手な装備を纏った一団が、数人の男に荷物を持たせて歩いていた。
その荷物持ちの中に、やつがいた。
「……ペテロ?」
やつは、かつての俺のリーダーであり、俺をクビにしたパーティの顔だった。
だが、今の姿は無惨なものだ。
泥に汚れた革鎧の上から、溢れんばかりの荷物を背負わされ、さらに手にはパーティメンバー全員分の予備武器を抱えている。
「あ、あれ……ジェイク?」
ペテロが顔を上げた。その目は虚でかつての自信に満ちたリーダーの面影はない。
話を聞けば、アリティア達は前いたギルドの『姉妹ギルド』に拾われたらしい。だが、そこは実力至上主義という名の奴隷制に近い場所だった。
「ほら、お喋りしてんじゃねえよ『予備の剣』!」
「うっ……! す、すまない!」
ペテロを怒鳴りつけたのは、姉妹ギルドの若手冒険者だ。
そいつはペテロのことを名前で呼ばず『予備の剣』……つまり、道具として呼んでいた。
ペテロが少しでもよろめくと、後ろから無造作に蹴りを入れる。
「……なんだ、その扱いは」
俺の胸の奥で、ドロリとした不快な感情が渦巻いた。
俺だって今は「なんでも屋」のパシリみたいなもんだ。ゴミを片付け、荷物を運び、幼女に顎で使われている。
客観的に見れば、俺もペテロも似たようなものかもしれない。けれど、決定的に違うことがあった。
俺をパシリにするガキ共は、俺が重いものを持てば「すごい!」と笑い、俺が飯を食えば「おいしそう!」と隣で口を開ける。
最近知ったが俺を煽てたら何処までやるか賭けてたらしい。しかも胴元はグリム。
グリム達も目の前の楽しさ優先なのだろうが目の前の男たちとは違う。
「お前ら、そいつを何だと思ってるんだ?」
「あぁ? なんだよこのマワシ。……あ、お前、噂の『半裸の変態』か。おい、だったらちょうどいい。このゴミ(ペテロ)の代わりに、これ全部運べよ。金なら後で『端金』を投げてやるからさ」
男たちがゲラゲラと笑う。
その足元で、ペテロが俯いている。
情けない。自業自得だ。俺を捨ててまで手に入れたかった『安定』がこれか。
ムカつく。
ペテロの不甲斐なさにも。
そして、それ以上に――人を人とも思わず、道具扱いするこの薄汚い連中のツラが、無性に腹立たしい。
でもよそ様のギルドにクビを突っ込んではいけない。良いことなど欠片もない。それがFランクギルドともあれば尚更だ。
レナにも口を酸っぱくして言われてる。
『大抵の軽犯罪は目をつぶるけど……同業との揉め事はダメだからねえ』
「わかってる。俺はいい子。俺はいい子」
俺は自己暗示を唱えつつペテロの肩を、わざと力強く叩いた。
男たちがチッと舌打ちをしてペテロを引っ張っていく。どうやら俺を挑発したかったようだが俺を怒らせたいのならアリティアでも連れてこいよ。
あの女はリアルで【挑発レベル4】持ってるからな,
去りゆくペテロの背中を見送りながら、俺は掌に残る塩を握りしめた。
……いつか、こいつらが土俵の上(冒険者として)で再会することがあるなら。
「ちっあいつらは。相変わらず横暴だな」
「冒険者ギルドの連中は、自分たちが街を守ってる気でいるから困る。俺たちが流通を支えてるからこそ、あいつらも飯が食えるってのに」
ペテロたちの嫌われギルドの一団が去った後、荷下ろし場には重苦しい沈黙と、商業ギルドの職員たちの忌々しげな独り言が渦巻いていた。
彼らの視線は、ペテロたちが残していった「傲慢の残り香」に向けられている。
俺は、その場に立ち尽くしていた。
ペテロの変わり果てた姿への複雑な感情と、あの嫌味な男たちへの腹立たしさ。
それらが混ざり合い、胃の腑が焼けるような不快感となって俺を支配している。
「馬の扱いは愚か薬草の一つも加工できねぇくせに」
「あいつら文字の読み書きも出来ねえんだぜ」
「所詮冒険者ギルドなんて脳みそピーナッツの馬鹿どもよ」
それはもう不満が出るわ出るわ。
俺だって、一応「冒険者ギルド」の一員なのだから勘弁して欲しい。
たぶん周りの連中は俺は荷運び専門の気前の良い人ぐらいにしか思われてないな?
「おい、マワシマン。この前渡した塩、まだ持ってるよな?」
「ああ。いつ何処で宴会が開かれるかわからないからな」
職員は顎でペテロたちが去っていった方向を指し示した。その表情には深い嫌悪が混じっている
「だったら、ちょうどいい。あいつらが通った道に、その塩……撒いとけ」
撒いとけ。
それは、RIKISHIに対する侮辱だった。
塩は、土俵を清め、神事に捧げ、戦いの合図となる神聖なものだ。決して、嫌いな奴を追い払うための「魔除け」なんかじゃない。
「……いや、俺は宴会で使いたいから。そもそも勿体無いし」
今更【SUMOU】スキルについて説明しても理解されないから、それとない理由を用意する。
島国じゃないんだから塩を無駄遣いするんじゃありせん!
「オレは頭に来てんだよ! 塩撒いたら今日の給料二倍にしてやる!!」
「任せときな!!」
どんだけ鬱憤溜まってるのか知らないけど俺は情に弱いので商業ギルドの従業員達の意を汲んであげる事にした。
この街は海も遠くないから塩はそこまで貴重ではないだろ。それでも俺が元いた島より十倍ぐらいの値段だけど。
俺は黙って、掌の中の塩を見つめた。
歓迎会でのリベンジのために手に入れた、白く輝く結晶。本当は粗塩が理想だけどべらぼうに高いから諦めてたお塩ちゃん。
俺の胸の中で別の感情が沸き起こった。
岩塩だって立派な塩だよな?
それは怒りではない。静かな、しかし確固たるRIKISHIとしての本能だ。
「見てろよ。この俺の宴会芸は腰抜かすぞ!」
俺は腰を深く落とし、塵一つない荷下ろし場の中央へ、一歩、二歩と踏み出した。
周囲の職員たちが「おい、たかが塩撒き程度で何をする気だ?」とざわめき始める。
俺は、掌の塩をギュッと握りしめ、大きく息を吸い込んだ。
その瞬間、空気が変わった。
ザァッ、と。
荷下ろし場を吹き抜けていた風が止まり、頭上の太陽が、まるで俺一人を照らすかのように一段と輝きを増した。
俺は、塩を掴んだ右手を、大地と天を繋ぐかのように、大きく円を描いて振り上げた。
RIKISHIにとって、塩を撒く行為は、土俵という名の小宇宙を清める儀式だ。
「……ぬんっ!!」
俺が放った塩は、単なる結晶の塊ではなかった。
それは、俺の魔力と、RIKISHIとしての誇りが込められた、純白の意思だった。
撒かれた塩は、空中で巨大な円を描くと、大地から天へと突き抜けるような、烈風となった。
ヒュオォォォォォ!!
純白の塩を孕んだ烈風は、去っていった冒険者たちを追いかけるように、商業区の通りを駆け抜けた。
その風は去りゆく嫌味な冒険者の背中を、塩の烈風が襲いかかった。
彼らの傲慢な心と、薄汚れた装備が、一瞬にして真っ白に「清め」られていく。
「な、なんだこの風は!?」
「う、嘘だろ!? 俺の装備が一瞬で錆びついて」
「こっちもだ! な、なんだこれ……塩?」
「やだーー!!俺のおニューの武器があ!!!」
「ママに怒られるよーー!!」
男たちが情けない声を上げながら、真っ白とは程遠い錆びまみれになって狼狽する姿が、遠目に見えた。
荷下ろし場の職員たちは、呆然と俺を見つめていた。
ただの嫌がらせだと思っていた塩撒きが、これほどまでに荘厳で、かつ強力な「魔法(神事)」になるとは、誰一人として想像していなかったのだ。
ちなみにこんなの魔法ではない。
力士なら当然の事だし、あらゆる事象を封じ込める土俵フィールドを展開していないので、この塩撒きが大惨事になる事は想像に難くない。
が!!
常識的にたかが塩を撒いた程度で街一つが混乱するなどあり得ないので俺に捜査の目が向くことはないのだ。
〜共通掲示板-〜
〜冒険者ギルドより〜
街を襲った謎の塩害は田畑には問題なく冒険者の装備だけを狙い撃ちした極めて悪質なものである(*•̀ㅂ•́)و
〜錬成ギルドより〜
これをよい機会と思って鍛冶屋での研ぎを依頼してみては?時間とお金はかかるけど元通りだよ٩(^‿^)۶
新しい武器を新調してもいいかも٩(^‿^)۶
〜商業ギルドより〜
【サビトレール】と【モウサビナーイ】は現在品切れ中、店への苦情はご遠慮下さい(T ^ T)
緊急募集〜懇意にしている冒険者が塩害により依頼を受けられなくなりました。本日中に物資を運搬しなくては信頼を失いかねません。どなたか護衛を引き受けてくれる冒険者募集します( ;∀;)
野盗が出る山道を通る予定ですのでCランク以上の冒険者を希望します(><)
〜その他〜
訳あり在庫を抱えた冒険者ギルド
【レナちゃんファンクラブ】が上記二品を無償で提供致します(╹◡╹)ヒンシツニモンダイナシ
数に限りがございますので、皆様でわけあってご使用下さい。またその他にも訳あり品、見切り品を多数ご用意していますので、皆々様にはお持ち帰り、そしてお気持ちなどをお支払いいただけたら幸いです( ´Д`)y━・~~ボランティダヨー




