第19話 スキルの不思議
今回のお話しは、前話の後書き
ギルドカードを参照してます
夜の帳が下りた商業区を、俺たちは急ぎ足で進んでいた。道すがら俺は先ほどシェリーから(半ば無理やり手渡された)ギルドカードを月明かりに透かして眺めていた。
「……おい、シェリー。一つ聞いていいか」
「なんです? 私の華麗なステータスに見惚れちゃったですです?」
シェリーが「敏捷B+」を誇るように胸を張るが、俺の指は一番下の項目、上級スキルの欄を指していた。
「この……**『ニンジャ』**ってのは一体なんだ? 投げや隠密とはまた別の、特別な技なのか?」
アサシンに関連するスキルなんだろうけどいかんせん想像程度しかつかない。
そもそも上級スキルなんて半分は意味不明で、その上どれだけ望んでも任意のスキルなんて取得出来ない完全に才能の世界だ。
有名なところで勇者、賢者なんかもあればバリ3、SUMOU 、ゴッドバード、UNOなんて一見何の事かわからない、熟考してもわからない馬鹿げたスキルもあるぐらいだから。
ただ一つ確かな事、先人たちの血と汗と涙の教えがある。
発現さえすれば当たりしかない魔法と違って上級スキルは当たりハズレが激しい。
しかもやり直し不可の貴重なポイントも使う。
俺の問いに、シェリーはあっけらかんとした顔で肩をすくめて見せた。
「さぁ? 私もよく知らないですよぉ」
「……は?」
「アサシンギルドに入ってイジメられてたら急に【ニンジャ】が一覧にのってマスター・シノブがめちゃくちゃプッシュしてきたですよ。私、推し……じゃなくてマスターにはめっぽう弱いですからねぇ。言われるがままに取得したですよ!」
俺はカードに記された数字を二度見した。
そこには**『ニンジャLV3(1+4+9)』**という、暴力的なまでに積み上がった数値が刻まれている。
「お前……効果もよく知らねえモンに、貴重な14ポイントもぶち込んだのかよ!?」
「ひょえぇ! 筋肉だるまが怖い顔したですよぉ!」
「当たり前だろ! 今のシェリーのレベルが50、基礎ポイントが50しかねえのに14点つったらお前の人生の経験値、約四分の一だぞ!? 」
俺が絶叫するとシェリーが慌てふためいて弁明するかのように
「違うですよー!私はいずれ入る手筈な残りのポイントも全部【ニンジャ】に振るつもりですです! マスター・シノブが勧めるなら間違いないですよー!」
ってことは何か?更にこいつはLV4で必要な16点とLV5に必要な25点、合計41点をぶち込むつもりか?
レベルカンスト間近で無能スキルだって発覚したらその後の人生どうするつもりなんだ?
「お前……凄いな……格好いいよ」
俺は素直に感嘆の声を漏らした。するとシェリーの頬が夜だというのにわかりやすく赤くなった。
「そ、それは言い過ぎですよぉ! でも確かに、これを取ってから身体が勝手にシュシュッて動くようになった気はするですよ」
「やっぱり……格好良いな……」
俺は頭を押さえながら月を見上げた
この女、レベル3になってすら謎のスキルに打ち込める豪胆さ。マスター・シノブって人は【ニンジャ】について知っているのに教えない心憎い奴なのだろう。
たぶん内容教えたらポイント注ぎ込まないからだろ?
「……まぁいい。その『気がする』ってのが、現場で役に立つことを祈るぜ」
「任せてほしいですよ! 影さえあれば、どこにでもシュシュッと参上するですよー!」
ニンジャか。俺のSUMOUスキルも他人に説明してもわからないから似たようなものだろう。
予想、というかほぼ確実に同じ上級スキルである
【ゲイシャ】の姉妹スキルだろうけど。
アサシンギルドで宴会芸とか何すんだよ……うん。俺がマスター・シノブでも不憫過ぎて教えられないな。「まさか取得するとは」って頭を悩ませてる姿が目に浮かぶ。
夜の闇に消えるどころか、足元をふらつかせて街灯にぶつかりそうになっている。
俺は深いため息をつき、返却したカードを胸元にしまう彼女の背中を見つめた。
神が与えた「スキル」ってやつは、時として本人の意思を超えた異物を魂に植え付けるらしい。
……道具屋ベント。その扉の向こうに、シェリーの「無自覚な力」が必要な何かがいないことを、俺は切に願う。
……
………
商業区の喧騒から少し離れた路地裏。道具屋『ベント』の看板は、心なしか以前より色褪せて見えた。
店の前まで来て扉の前の呼び鈴を鳴らすと中からやつれた顔の夫人が出てきた。
ギルドにはまだ正式な調査依頼は出されていないはずだ。だが、近隣ではすでに「あの店の親父は呪いで死んだ」だの「干からびて死んだ」だの、物騒な噂が一人歩きしている。……子供であるフィオの耳にまで届いているんだ。大人が隠し通せる段階はとうに過ぎている。
「あの、すみません。少しお話を……」
俺ができるだけ穏やかに、それこそ『いい子』の顔を作って声をかけた。せめて事件当日の様子だけでも聞ければと思ったのだが。
「帰って! 帰ってください!!」
夫人は俺の言葉を遮るように声を荒らげた。その瞳には深い悲しみと、それ以上に何かに怯えるような、刺すような拒絶の色があった。
バタン! と乱暴に扉が閉まる。
……追い払われちまった。
俺は門前払いを食らい、急に手持ち無沙汰になってしまった。
力士(RIKISHI)の交渉術なんて、「言葉」じゃなくて「ぶつかり稽古」が基本だ。言葉で心を開かせるなんて、俺には向いてねえ。
「どうしたもんかな……」
手持ち無沙汰に、足元の小石を軽く蹴っ飛ばす。
カラン、と石が転がった瞬間だった。
――ギィ……ッ。
閉ざされたはずの扉が、音もなく、ゆっくりと内側から開いた。
「……え?」
そこから、ひょっこりと顔を出したのは。
「お待たせしたですよぉ、ジェイクさん!」
「シェリー!?」
俺は思わず裏返った声を上げた。
待て。おかしい。
俺が夫人に声をかけ、追い払われるまで、シェリーは俺のすぐ隣にいたはずだ。どうして今、彼女は家の中から出てきたんだ?
……頼む。『手品スキル』とか、そういう平和な何かであってくれ。アサシン特有の物騒なスキルなど関係ないでくれ!
だが、現実は俺の祈りを、土俵の外へ豪快に投げ飛ばした。
「夫人は気絶させたから、心ゆくまで捜査するでーす! 私、グッジョブですねぇ!」
シェリーは、キラキラとした満面の笑みで、親指を立ててみせた。
「……お前、今なんて言った?」
「ですからぁ、夫人がうるさかったので、首をトントンッてして寝かせたですよ! さあ、中に入るですよ。今のうちに証拠を見つけるのがプロの仕事ですです!」
「……」
俺は天を仰いだ。
不法侵入。プラス、暴行(気絶)。
「……シェリー。相手はスキル振ってない一般人だぞ? お尋ね者になりたいのか!?俺はなりたくないね!」
「えへへへぇ、バレるようなヘマしないです。それに痕跡も残さないですよ! ほーら、ジェイクさんもお手手にお帽子着せましょうでーす」
無理やり腕を引かれ、妙にフィット感、グリップ力のある手袋をはめられ俺は『事件現場』へと足を踏み入れる。
「やめ、やめろーー!俺を巻き込んむじゃねぇ!」
「もー、唾液は証拠になるですよ。それに興奮したら髪の毛も抜けるでーす。マスター・シノブがいたらベロを抜かれてるですよー?」
「だったらそのマスター・シノブにこんな犯罪行為させるなって言っとけ!」
などと悪態をついても仕方ないので夫人の寝息が聞こえるリビングを通り抜け、俺たちは店の奥……店主が干からびて見つかった、あのカウンターへと向かった。
〜アサシンギルドメンバーから家族に宛てた手紙〜
〜加入3日目〜
このクソババア
こんな異常なギルドに俺の拉致を依頼したのはババアだろうが!絶対抜け出してギルド連盟にここのギルドマスターは常軌を逸してると報告してやるからな!
〜一週間後〜
助けて助けて!早く会いに来て!早く会いに来て早く会いに来て!殺される殺される殺される殺されるヤダヤダ!!眠るのが怖い目を閉じるのが怖い!ここの連中は狂ってる!これからはいい子にするから早くここから出して!
〜
拝啓お母様、僕は元気です
アサシンギルドに入ってはや一ヶ月。日々が過ぎさる速さに驚きつつもこのようなギルドを紹介して下さったお母様には感謝の言葉もありません(*^◯^*)
本日はマスター・シノブのご好意でランクが上がった報告をする為に筆を取らせていただきました(*^◯^*)
まだまだ半人前の為に会いに行く事は叶いませんが早く一人前、ランクCのアサシンになってお母様を安心させてあげたいです(*^◯^*)
これ以上は恋しさが勝るので筆を置かせてもらいます。どうかご自愛ください(*^◯^*)




