第3話 -騎士の1日-
・・・次の日の朝
キャメロット円卓の間に12人の騎士とアーサー王が集結していた
皆が対等に話し合えるように円卓の間にいる間は上下関係を廃止している
…とはいってもやはりそれは建前で王にタメ口を聞いたりする者はいない、ペリノア以外は…
「よし皆そろったな!今日集まってもらったのは他でもない、『槍』を取りに行くぞ!」
!?
「バカかお主は、槍はモルドレットと共に冥界に落ちたのじゃぞ?冥界の扉を開くことが出来るのはマーリンだけじゃ」
賢老ペリノア
前王ユーサーが王になった時から相談役としてキャメロットにいる古株だ
その頃から白髭を生やしたいたらしく、今いったい何歳なのかは誰もしらない。
「そのマーリンがもどったと言ったら?」
「なんじゃと?」
マーリンがアーサーの椅子の後ろから手品のようにスルリと姿を表した
「マリン!?」
ガウェインと同じくアーサーの幼なじみの1人、ルーカンがガタリと立ち上がる。
「久しぶりだね皆」
マーリンとアーサーはガウェインに話した事を皆にも伝えた
信じられない話を前に円卓の騎士達は困惑していた。
「とにかくマーリンはもどった、これで扉を開いて槍を…竜殺しの槍『ロンゴミニアド』を取りにいける、それで『卵』を破壊する」
「確かにこやつが居れば冥界に入ることは可能じゃろう、だが入ったところで槍を持っているモルドレットの所までたどり着けるのか?マーリンは扉の維持で動けぬし、まさかお主が行くと?」
「いや、それは心配ない、そのためにマスターを呼び戻してある」
「なんと…」
ルーカンが再び立ち上がった。
「マリンを…マリンと話はできないのか?」
マーリンがゆっくりと目を閉じる。
「お久しぶりです兄さん」
「あ…ああ…お帰りマリン…」
マリンはルーカンの妹なのだ、あの時のままの姿を見て、あの時のままの声を聞いてとうとう彼は泣き出した
無理もない、死んだと思っていた妹が状況はどうであれ、15年の時を経て無事戻ってきたのだから、いつものペリノアなら騎士が人前で涙を見せるとは何事かと彼を叱責するだろうが、ペリノアは何も言わなかった。
「それと冥界に行く理由は後2つある」
「ヌナカワヒメか…あのガキを連れて行くとなると当然そうなるじゃろうな、もう1つはガキのガキの中身か」
「流石賢老!そうだ、この計画はハイリスクハイリターンだ、ここからは計画の詳細をマーリンに説明してもらう」
彼女は再びマーリンと意識を交代するとツラツラと説明を始めた……
・・・その日昼
今日は昼から見回りの為、朝はゆっくり起きてツマホで騎士専用の掲示板『騎チャンネル』を見ていた。
ヘクター
「今日から新しい女の子騎士が入ったぞ!」
オクタヴィア
「こんな中途半端な時期に入れるものなの?」
ヘクター
「わからん、でもめっちゃ可愛かったぞ!」
リドリー
「仕事しろ」
ヘクター
「はい」
ヘクターは魔力神経に障害があり、騎士の必須である魔法を行使出来ないため第一支署の事務員をしている第14期騎士、つまりヒスイの1つ上の先輩だ
どうでもいいが、騎士の大半は自身の魔力供給でツマホを半永久的に稼働させることができる魔力バッテリー式だが、彼は電気式のバッテリーを使っている、とにかく彼がそう言っているということは、ヒスイが所属する第1支署に新人が配属されたということになる
ガウェインがコネやお金で動かされる事はまずあり得ないので、本当に特殊な事情で入団してきたのだろう。
「もうこんな時間か」
ヒスイはシワのついた制服に着替えると、ダルそうに署に向かって歩き出した
そうして署についた頃には既に見廻りようの車が準備されていた。
「おそいぞ~」
すごく柔らかい声が聞こえてきた
「間に合ってるからいいだろ?」
彼女はヒスイに仕事を教えている先輩騎士でアリスの姉『アイリーン』だ
とにかくゆるい性格でフワフワした雰囲気だが、実は第12期騎士の主席だったりする。
「まぁな~…あ、今日から新しい子と一緒に仕事するぞぉ」
車の影からひょっこりと現れた女を見てヒスイは困惑した。
「な…!?」
「可愛いだろぉ?マリンちゃんだぞぉ~持ってかえりたいわぁ~」
「物みたいに言わないでください!こんにちはヒスイさん、今日からよろしくお願いします!」
「あ、これ漫画でよくあるやつ?実は知り合いだったってやつ?この後「なんでお前が」って…」
「なんでお前が!?ていうか騎士だったのか!?」
「まじかぁ~テンプレやなぁ」
アイリーンは男女問わず周りからとても人気があり、署にいる内のほとんどは誰かに絡まれており、気が弱い者が近づくのは困難であるが、大の漫画好きであるためよく本屋で目撃される為、『アイリーンと話したければ本屋にいけ』という誰が言ったのかもわからない言葉が浸透している。
「『だった』ので問題ないでしょう?」
そう言ってニッコリ微笑むとアイリーンに抱きしめられた。
「可愛いなぁ~!うちの子になれよぉ~ハァハァ」
いったい何がどうなっているのか…騎士になるには騎士学校の卒業が必須だ、あのガウェインが入団を許可したということはこいつは本当に騎士『だった』と言うことになる。
・・・数分後、アイリーンが運転し、ヒスイが助手席、マリンが後部座席に乗って発進
「マーリンがどうとかいう設定は無くなったのか?」
「マーリンはお昼寝中です、起こしましょうか?」
「えぇ?なになに?お姉さんも混ぜ混ぜしてよぉ」
「かの有名な星の語り部さんの生まれ変わりなんだとよ」
「へぇ、マリンちゃん漫画とか好きでしょ~うちも好きなんだぁ」
「漫画…?なんですそ…」
「ザザザー・・付近を巡回中の騎士へ」
無線だ、「しっ…」ヒスイが人差し指を立ててマリンの言葉を遮った。
「『本屋エンピレオ』付近でひったくり事件が発生、犯人は10番道を北へ逃走中」
「近いな、急げアイリーン!」
「本屋さんの前で犯罪とは許すまじ!」
アイリーンが急にアクセルをベタ踏した為、後輪が少し滑ったが持ち前の運転テクで修正し、車は一気に加速する。
「あ…赤信号ですよ!?止まってください!」
「あ、サイレン忘れてた」
パトランプとサイレンを付け、猛スピードで赤信号に突っ込んでいく
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「どけどけぃアイリーン様のお通りでぃ」
ドリフトしながら右折に成功したが直進してきた一般車にぶつかりそうになった、警告しながら気をつけて曲がるのがセオリーなのだがこの二人はいつもこんな感じだ、今まで事故をしなかったのが奇跡だろう。
「ザザー…犯人は今だ北へ逃走中、緑の服に茶色のキャスケット帽を…」
「緑の服に茶色のキャスケット…お、あいつだ!」
緑の服に茶色のキャスケットを被った老人?が歩道を走っている。
「え?でもそっち東ですよ?」
「え~い」
今度は青信号だったが無茶なドリフトで東へ進む
ヒスイは目の前の画面を操作し、空中からライフルの様な物を取り出した、何かの魔法装置なのだろうか。
「そ、そんなので撃って大丈夫なんですか!?」
「こいつは魔力ライフルだ、当たってもちょっと痛いだけだ」
「けっこう痛いぞぉ~」
ヒスイは窓を開け、身を乗り出して対象に狙いを定める。
「ロックオン!」
「うてうて♪」
バンッ!
50メートルほど先を走っていた対象が盛大にこけた。
「やったぜ!」
「ナイスぅ」
「えぇ…」
・・・犯人と思われる老人があまりにも暴れる為、トランクにぶちこんで署に向かった。
「おぉアイリーン、また『グリフ』達に先こされちまったな」
「ん~?今回はうちらが捕まえたよぉ」
ガタガタとトランクの中で老人が暴れている。
「え?でも犯人は今取り調べが終わったところだぞ?」
「・・・」
後ろでヒスイがトランクを開けようとした時、アイリーンがその手を掴んだ
。
「あ?なんだよ?」
「だ、だめだヒスイ…それは開けてはならないパンドラの箱だ…開けたら最後、災厄が吹き出すぞぉ」
「は?」
「おぉ、ちょうどよかった」
この声は…
「ガウェインか、なんだ?」
アイリーンが固まってピクリとも動かなくなった。
「今日終わってからマリンと一緒に…どうしたアイリーン?」
マリンは何かを察したようで、頭を手で覆った
ガタガタと揺れ、叫び声がするトランクと固まるアイリーン…団長様も何かを察したようだ。
「あぁこっちもちょうどよかった、こいつ暴れるんだよ、一緒に署に運んでくれよ」
「・・・なぁ、私は今日おきたひったくりの容疑者が捕まったと聞いて事件の書類を作成するためにこちらにやってきたのだが」
「情報が早いんだな」
「その取り調べはさっき終わったそうだ」
「・・・ん?」
・・・それからトランクの中の老人を解放し、アイリーンとヒスイがガウェインの拳骨をくらったあと、応接室で老人に謝罪することになった。
「ぎゃははは!ワシも昔警備ギルドにおっての、派遣先のギルドマスターを侵入者と間違えてボコボコにしてクビなったんじゃが、お前んらも気を付けろよ!ぎゃはははは!」
「なはは~」
アイリーンはもう一発拳骨をくらった。
「本当に申し訳ないございませんでした…!」
深々と頭を下げるガウェインを見てやっと責任を感じたのか、ヒスイも頭をさげた。
「ごめんなさい!」
マリンも頭を下げたがアイリーンはヘラヘラしている
普通なら謝る側がこんな態度をとっていたら謝られる側は頭に来るはずなのだが、何故か憎めない、彼女はそんな魔法じみた魅力を持っている。
「まぁ撃ったのはヒスイだけどなぁ~」
「撃てって言ったのはお前だろ?」
二人はまた拳骨をくらった。
・・・老人を送って帰って来た頃には夕方になっていた。
「今回はご老人が寛容な方で許していただけたが、本来なら訴えられてもおかしくないところだ…よってアイリーン、ヒスイ、マリン、お前たちには3日間の謹慎処分を言い渡す」
「ですよねぇ」
「マリンもか?」
「すまんなマリン、連帯責任だ」
「わ、わかりました…」
「ヒスイとマリンはこの後残れ、アイリーンは帰って大人しくしてろ、本屋にも行くな」
「なぬぅ!?」
ガックリと肩を落としたアイリーンは自宅があるマンションへ帰って行った
。
「マリンとマーリンはわかっていると思うが、今から二人ともキャメロットに着いてきてもらう」
マリンとマーリン…ガウェインはそう言った
それはつまり円卓が彼女らの事を認めているということになる。
「どういうことだ、こいつはいったい何者なんだ?」
「ボクはマーリン、かつて星の語り部と言われた魔法使いさ」
いつの間にかマーリンになっていたその人はトコトコと歩いて行くとソファーにポンッと股を開いて腰かけた、マーリンの本当の性別は別として、外見が綺麗な女の子であるのもあってかオッサンくささが目立つ。
「とにかく着いてきてくれ」
・・・ガウェイン自慢のスポーツカーに乗り込み、巨城キャメロットへ向かった。
『巨城』というだけあって、近くで見ると山の様なその大きさが実感できる
車は城内の駐車場へと入っていき、停車した。
ガウェインに誘導されてしばらく歩き、大きめのエレベーターに乗る
彼は複数の階数ボタンをまるでパスワードを打ち込むように押していった
エレベーターが動いた気配はなかったのに扉が開いた…入って来たところとは違う、天井が高く長い廊下。
「こっちだ」とさらに誘導され、警備兵がたっている巨体な扉の前に付いた
「魔力認証をお願いします」
扉横の装置に手をかざし魔力を送り込む、すると扉がゴゴゴと音をたてながら開いてゆく。
「きたか」
「あんたは…!」
扉の先にあったのは巨大な空間と真ん中にある結界に覆われた『卵』のような物体…そして我らが王、アーサー・ペンドラゴンその人だった。
「貴様、王に向かって『あんた』とはなんだ」
王の隣に立っているのは円卓最強と謳われる騎士『ランスロット』である
「いいって、お前は堅物すぎるんだよ」
「あなたが寛容すぎるのです」
ランスロットは無礼を許さなかったユーサー王の側近だったこともあり礼儀にはうるさい
歳はアーサーより一回りほど上だ。
「教育不足で申し訳ございません…」
そしてもう一人、アーサー達から少し離れた所でフードを被った男が壁にもたれかかっている。
「さてと、ヒスイといったか?単刀直入に言うがお前には今から死んでもらう」
は?
「王よ、冗談でも言っていいことと悪いことが…」
「あ~はいはい、まったく…小うるさいのはペリノアだけで十分だっての、死んでもらうってのは冗談だが特殊な者達が行く死後の世界『冥界』に行ってもらう」
無茶苦茶な話で頭が混乱している
冥界?なんだそれ、そんな世界があったとしても何故自分がいかなければならないのかさっぱりわからない。
「15年前の事件を知っているな?そう、神竜召喚事件だ、あの時俺は仲間と共に『天界』へある槍を取りに行った…『ロンゴミニアド』竜殺しの槍だ、俺はそれで竜と一体化した反逆の騎士モルドレット共々冥界に送ってやったわけなんだが…」
アーサーは卵を指差した。
「あれはその神竜が死ぬ直前に産み落とした卵だ」
!?
「いや待ってくれ、なんでそんな話を俺にする?なんでローナイトの俺が冥界とやらに行かなきゃならないんだ!?」
「あの卵はエクスカリバーでも破壊できなかった、つまり竜の特性をそのまま受け継いでいるわけだ、ならば現状で竜を殺しうるのはミニアドだけだ、そのミニアドが今冥界にあるということは誰かが取りにいかなければならないという事だ」
「エクスカリバーが1000をなぎはらう破滅の武器なら、ロンゴミニアドは1を滅ぼす破壊の武器というわけさ」
「全く説明になってないんだが…」
確かに二人は何もわからないヒスイに対して不親切すぎる説明をしている、円卓ぐらいしか知り得ない話をいきなり聞かされて混乱しないわけがない
それを見兼ねてか、ランスロットが少し息をついて話始めた。
「ヒスイ、貴様は貴様の親についてどれ程しっている?」
「親?俺が4歳の時にその事件で死んじまったからあんまり覚えてねぇな」
「どうやらガウェイン卿からは何も聞いてないみたいだな」
ガウェインが顔をそむける
マントの男がそれを見てため息をついた。
「貴様の母親は人ではない、ワコク(和国)に神代よりつたわる翡翠の女神『ヌナカワヒメ』だ、つまり貴様は人と女神の間に産まれた半神半人…『ギルガメス』と呼ばれる存在だ」
円卓最強にして最高の堅物騎士、ランスロットがぶっ飛んだ話をしている…恐らく本当の事なのだろうがそんなこと急に言われても信じられないし理解もできない
確かにヒスイの記憶の中にある母親の名前は『カワヒメ』だったが普通の人間で、普通の騎士だったはずだ。
「こんな話をいきなりされて理解できないのは仕方ない、だが事実…受け入れろ、そこでもう1つ重大な事実がある…お前の母『ヌナカワヒメ』は死んでいない、冥界に落ちたのだ」
「つまり俺に母さんを連れ戻せと?ローナイトの俺にそんな危なっかしいとこへ行って槍を取って母親を助けて帰ってこいと?」
「いや、お前はそこのマントの男についていくだけでいい、神性というのは互いに引かれ会う性質をもっている故にお前が一緒に居ればヌナカワヒメを見つけやすくなる」
「なるほど、わからん、だいたいその怪しい男は誰なんだよ!?こんなのと二人で冥界に行かなきゃならんのか!?」
「向こうには異物を排除する存在がいる、俺はそいつらを『監守』と呼んでいるが、やつらは音に敏感だ、だから最小限の人数で静かに事を終わらせるのが最善であると判断したわけだ、死という概念が存在しない冥界でそいつらにつかまったが最後…永久に向こうに閉じ込められる事になる、逃げ出す事もできないし、自殺もできない…そいつは俺の剣の師であり昔俺が冥界に落ちた時助けに来てくれた恩人だ」
男はずっと床を見つめている、なぜ姿を隠しているのかはわからないしめちゃくちゃ怪しいがアーサーによるとめちゃくちゃ頼りになる奴らしい
「はぁ…どうせ拒否しても無理やりつれてかれるんだろ?わかったよ、行けばいいんだろ行けば…」
「すまん、たのむ」
「話はすんだかな?じゃあ扉を開くから少し下がって」
マーリンは空間から立派な杖をとりだした、基本的な魔法の1つ、物体を自分の魔力波長に同期させ自分と空間の間にに挟み込む『ホルダー』だ
とりだした、杖を床に突き立て魔力を注ぐと、自動的に 魔方陣が展開した
そして壁に手のひらを向けると扉が出現した、マーリンは物語に出入りできる自称創造神の遣いであるため、こんな離れ業ができるらしい。
「ほらできたよ、ボクはこの扉を維持するためにこの魔方陣の上から出られないから着いていけないんだ。だから二人で頑張ってきてね」
「俺はこいつについていくだけだがな」
扉が開く、暗い場所に通じているようだ、これが冥界なのだろうか
マントの男に続いてヒスイも中へ入って行き、扉が閉まった…




