第19話 虹色の輝き
俺たちは、昨日の残りのおにぎりで朝食を取る。余ったおにぎりは、ケンタ君へのご褒美として、竹筒に入れておいた。
とりあえず、メイデンとファリスには、ソエルが仲間になった事を伝えた。すると、2人は不機嫌な顔をして、ソエルを睨みながら話した。
「デカ乳ソエルが仲間になったっスか。大将の決定なら了解っス」
「タカシ様、私も最強のデカ乳になります! 見捨てないで下さい!」
2人の言葉に、俺はため息をついた。ソエルのデカ乳は、2人にとってはショックだったのだろう。胸を気にするのはわかるが、仲間になったのだから、なるべくなら、仲良くやってほしい。そう思うばかりである。
俺たちは、歩いて山を下り、ふもとで待機してくれていたケンタ君と合流した。
「ご主人様~! 無事でなによりでーす!」
「ああ、ありがとう。それと、お土産だ」
ケンタ君に、おにぎりを渡す。
「あ、ありがとうございます! 一生の宝にします」
「いや、しなくていいから、腐らないうちに早く食え!」
俺は、ケンタ君に無理やりおにぎりを食べさせた。おいしそうに食べている。
ケンタ君の食事が済んでから、俺たちは獣車に乗り込み、ミツユスキーの家へと向かった。
獣車に揺られながら、俺はソエルがくれた手帳の事を思い出した。ジャージのポケットから手帳を出し、目を通してみた。
その手帳には、日記が書かれていた。南方戦役マラーリア討伐後の記録が書かれてある。おいしい米、味噌、醤油の作成の記録。不思議な保存方法の記録。書いてあるのは、この世界で役に立ちそうな事ばかりだった。だが、最後の方に、一つだけ悲しい出来事が書いてあった。
結婚を約束したジュリアの突然の容態の悪化。ジュリアを救うため、北にするドラゴンを捕まえに行ったこと。だが、その先は書かれていなかった。
「なあ、ソエル。どうしてこの先、書かれてないんだ?」
「ああ、それは…………勇者はそこで息絶えたのでーす」
「ああ、そうか……じゃあこのジュリアって人は……」
「お察しのとおりでーす」
その話を聞いていたソエルの表情は、すこし、悲しそうだった。俺は、この話に触れるのやめることにした。
ミツユスキーの家についた。獣車を降り、玄関先へと向かう。家の扉が開き、ミツユスキーが俺たちを出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、ご主人様。その様子だと、薬を入手できたのですね」
「もちろんさ」
俺は、ミツユスキーに薬を手渡した。
「じゃあ、さっそく使ってみます」
「水で溶かして、石化した部分にかけてくださーい」
「もしかして、賢者様ですか? では、そのように……」
ミツユスキーは、桶に水をいれて薬を溶かす。そして、桶をもって娘のミーシャのいる部屋の扉を開けた。ミーシャは車椅子に座り、うつろな目でこちらを見ていた。
「ミーシャ、もう、大丈夫、大丈夫だぞ」
ミーシャは、ミツユスキーの声に、あまり反応していなかった。ミツユスキーは、ミーシャの体に巻いてあるシーツを外し、石化した部分に、水をかけていく。
俺は、少女のすぐ傍で、回復を見届ける事にした。
石化された体にかかった水が、湯気を出し始める。そして、湯気を出しながら、石化した手足は、徐々に肌の色を取り戻し始めた。
ミーシャの絶望した目に、輝きが戻り始める。ふと、石化の解けたミーシャの手の指が、少しだけ動く。
「お父さん、動くよ」
「ああ、当たり前だ、治ったんだよ」
ミーシャは、軽く腕と足を動かす。何の問題もなく、手足は動作していた。
「治ったんだね……治ったんだね……」
「ああ、治ったんだ!」
石化の解けたミーシャは、自分の力で立ち上がり、力のない細い腕で、俺のジャージをしっかりつかんだ。そして、お礼の言葉を投げかけた。
「ありがと……おにいちゃん……ありがと……」
ミーシャは、涙を流しながら、小さな声でお礼を言い続けていた。
俺は今まで、人のために頑張っても、ウザがられてばかりだった。だが、ここでは、そんな俺の気持ちや行動が、まっすぐ反映されている。人からこんなに感謝されたのは、本当に初めてだ。
俺は、照れながら少女の頭を撫でてあげた。本当に良かった。これでミーシャは普通の生活に戻れるだろう。
──俺は……いや、俺たちは、一人の少女を救うことに成功した!
腕のリングは虹色に輝き、任務の達成を祝福する。それはSSSクラス任務を受ける準備が整った事を意味する。俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。




