第七話:ヨシダ・ノムラ(1)
小さい頃、あたしには夢があった。世界で一番有名なアイドルになること。自分の歌声には自信があったし、胸の中には音楽への情熱が激しく燃えていた。あたしの歌で、世界中の人たちを笑顔にしたい――本気でそう願っていた。
けれど、当時のあたしには友達が一人もいなかった。来る日も来る日も、たった一人で遊び、たった一人で喋る。狂っていると思うだろう? この広い世界に、自分一人で完結して生きている人間なんて、普通はいないはずだから。
そんなあたしの奇行に、両親はひどく狼狽した。ついには精神科の医師まで呼んで、あたしを診察させたほどだ。原因は単純だった。あたしは他人との接し方が絶望的に下手で、どう会話を合わせればいいのか分からなかった。だから、同級生たちはあたしと話すのを退屈がり、やがて「変わり者」だと遠ざけるようになった。 小学校時代のあたしは、まさに「孤立」という言葉そのものだった。
でも、そんなあたしをあるがままに受け入れてくれた人がいた。彼は、あたしの夢を「凄く素敵だ」と言ってくれた。そして、あたしをいじめる連中にいつもやり返してくれた。
彼の名は、ササキ・ゼルト。アニメを観ること、漫画を読むこと、そしてアニメの主題歌を聴くことが大好きな少年。「自分は正真正銘の『オタク』だ」なんて誇らしげに自称していたけれど、当時のあたしにはその言葉の意味すら分からなかった。
同じ学校の同じクラスだったけれど、最初から親しかったわけじゃない。会話もほとんどなかったし、休み時間の彼はいつも漫画の世界に没頭していた。それなのに、彼はあたしを「友達」として、とても優しく接してくれた。人生で初めての、本当の友達。だからあたしは決めたの。彼がそこまで誇りに思っている「オタク」という言葉の意味を知りたい。彼と同じ景色を見てみたいって。
それからというもの、休み時間になるたびにあたしは彼のもとへ通い、「オタクってどういう意味?」と尋ねるようになった。最初は冷たくあしらわれるかと思っていた。けれど、あたしの予想に反して、彼は目をキラキラと輝かせながら、熱烈に解説してくれた。それどころか、おすすめのアニメや漫画まで次々と紹介してくれた。
おかげであたしは「オタク」の意味を知り、あたしたちは以前よりもずっと親密な関係になった。休み時間や放課後になれば、二人でアニメや漫画の話に花を咲かせた。「今期はどのアニメが熱い」とか、「あの漫画の新刊は何日に出る」とか、「秋葉原のイベントはいつだ」とか。
けれど、幸せな時間は長くは続かなかった。中学に上がる直前、父の仕事の都合で、家族で海外へ移住することが決まった。あたしはひどく悲しんだ。もう二度と、彼には会えないかもしれない。
別れの日。あたしとゼルトくんはある「約束」を交わした。
それは――
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