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第十四話:オタク VS ジュリア

数分のランニングの末、ようやく廃屋にたどり着いた。体内から溢れ出す汗がシャツをびしょびしょに濡らし、鼓動は激しく、息は荒い。だが、これしきのことで俺が倒れるわけがない。


今、俺はボロボロで朽ち果てたような家の前に立っている。いや、正確には"外"だ。ドアなんて存在しない。ただ、目の前に広がるのはぽっかりと開いた空間だけだ。


今、俺の頭の中には解決されていない疑問が山ほど渦巻いている。なぜジュリアはカズコを狙ったんだ?  あいつがこの世界に来た目的は何なんだ?


俺とあいつの間に過去の恨みや争いなんてなかったはずなのに、一体なぜなんだ?


まさか、俺がプリシアで仲間を見捨てたからか? そう考えるのも無理はない。今の俺はまるで仲間を置き去りにして、何事もなかったかのように遠くの地で普通の生活を楽しんでいるように見えるだろう。


どうやら、直接あいつと向き合わなければ、何も解決しそうにないな。この誤解を早く解いて、カズコを救わなければならない。


だって、もうすぐ俺の好きなアニメの最終回が放送される時間だからな。何としても見逃せないし、もちろんカズコの命を最優先にしないといけない。


「ジュリア、俺が来たぞ」


俺は拳を強く握りしめ、勇気を胸に冷静に足を踏み出した。


「あら! またお会いしましたね、魔王様」

「ジュリア」


目の前には、まるで十七歳くらいに見える少女が立っていた。二色に分かれた長い髪、麗しい顔立ちに不気味なほど危険な殺気を漂わせている。彼女は白いブラウスに黒いコートを羽織っている。瞳はまるでイクソラの花のような深紅の色で、その手には薄桃色の宝玉が埋め込まれた鋭い大鎌を持っていた。さらに、その宝玉の中には目が潜んでいて、こちらをじっと睨んでいる。鎌の形は、見るからに恐ろしく重そうだった。


そこに立っている危険な笑みを浮かべた少女は、かつて俺の魔王軍将の幹部の一人であり、ネクロマンサーであるジュリアだった。


ジュリアの隣には、柱にしっかりと縛られ、意識を失ったカズコがいる。


「久しぶりだな。とはいえ、最後に会ったのがいつだったかなんて覚えていないがな。昔の記憶はどうにも曖昧でな」

「ひどいです! この再会をどれだけ楽しみにしていたか、わかっていますか?」


ジュリアは可愛らしい仕草をしながら、手を口に当てて体を小さく縮めていた。


「よくも俺の一番大切な友人を捕まえたもんだな。だが、ちょっと油断しすぎじゃないか?  俺が来るのを予想して、結界や罠くらいは仕掛けておくべきだったんじゃないのか?」


そうだ、俺が入ってきた時に、この崩れた建物の周りに結界がないことに気づいたんだ。周りを注意深く観察しても、作動している罠など一つも見当たらない。


ジュリアは自分の能力に自信を持っているから、そんなものは必要ないと思っているんだろうな。

しかし、仮にあいつが結界を使っていたら、俺は残り少ない力を使ってそれを破らなければならなかっただろう。


それでも、その場合は俺の霊力が尽き、魔力も枯渇してしまい、完全に不利な状況に追い込まれることになる。さらに、もし彼女が追加で罠を仕掛けていたなら、俺はまさに万事休すの状態に陥り、何もできなくなるだろう。その時、勝利は間違いなくジュリアの手に渡る。


なぜあいつはそんな完璧な計画を考慮しなかったんだ?  あいつ、馬鹿なのか?  それとも、俺が弱体化していることに気づいていないのか?


どう考えても、あいつが何を考えているのかは分からない。 結局、相手の動きを待つしかないな。ジュリアはどうやって俺に対処するつもりなんだろうか?


「まあ、それらのものは必ずしも使わなくても大丈夫。だって、魔王様がどんな風にでも打破できるって分かってるから。ただ、私一人でもあなたを倒せるから」

「自信満々だな。それにしても、その縛られた少女は俺たちの個人的な問題には全く関係ない。面倒をかけるが、彼女を解放してくれないか?」


まずは交渉だ。相手の反応を待とう。


「あなたは、私に彼女を解放しろとおっしゃいますか?」

「その通りだ」


俺はジュリアを睨みつけながら言った。


「それはダメよ、ダメ。だって彼女はあなたにとってとても大切な人でしょう? だからこそ、彼女は私の計画においてあなたを倒すための絶好の人質なのよ。そんな重要な人を、私が勝手に解放するわけがないじゃない」


あいつ、カズコを捕まえた理由が、俺を殺すための計画の一部だと堂々と言いやがった。


怖いな、本当に。


だが、俺がそんな些細な手段で怯むと思うなよ。そんな程度の策は、ライトノベルの凡庸な悪役がよく使う手だ。


「まさか、逆らうつもりか? これは、尊敬すべき魔王からの命令だぞ」

「そうね。魔王様からの命令は絶対だもんね。もし私が逆らったら、罰を受けることになるのよね?」


ジュリアは困惑と無邪気さが入り混じった表情で言った。


「でも、魔王様、お話ししたいことがあるんですけど、私が……」

「……」


突然、冷や汗が流れるようなぞっとする雰囲気に変わった。


「私は以前の尊敬すべき、偉大で最強魔王様だけに従っていたのです。弱くて裏切り者のようなあなたには従いませんよ」


ジュリアの顔は、最初の無邪気で少し可愛らしい表情から変わり、目の前に立つ者を引き裂かんばかりの憎しみに満ちた顔になった。


「だから、その考えを諦めてくださいね」


ジュリアの顔に、輝かしい笑顔が再び戻ってきた。


交渉が失敗したのなら、次のステップに移るしかないな。


「もしお前が聞かないのなら、俺にはもう一つの選択肢しかない……」


俺は目を閉じ、全ての勇気を振り絞り、深呼吸をしながら、手をまっすぐに伸ばして膝をついた。手は地面に付き、頭を下げてひたすら泣きながら懇願した。


「お願いだから、カズコを解放してくれ。彼女に何かあったら、彼女の両親にどう向き合えばいいか分からないんだ。それに、彼女は大企業の社長の娘なんだ。もし彼女の父親が動けば、俺はホームレスになるかもしれないし、大切に集めた宝物も失うことになる。だから、お願いだからカズコを巻き込まないでくれ」


今すぐ自分を殺したい気分だ。どうしてこんなことをしてしまったんだろう。俺のプライドはどこに消えた?名誉はどこへ行ったんだ?


恥ずかしさに打ちひしがれて、これ以上屈辱を味わうことはない。殺してくれ、今すぐに死なせてくれ。


もう、これ以上生きる資格なんてないんだ。


「あなた……私をからかっているの?」

「おっと! 危ない」


ジュリアは突然、大鎌を引き抜き、俺に向かって突進してきた。幸い、俺の体が反応し、なんとか避けることができた。刃が外れたため、ジュリアの大鎌は地面に深く突き刺さり、耳をつんざくような音を立てた。


「あなたはあの人間と接触してから腐敗してしまったのでしょう? やはり、あなたを排除することで、あなたが見捨てた仲間たちの復讐を果たさなければなりませんね。あ、でも早く殺してしまっては面白みがありません。まずはあなたの肉体と心をじっくりと苦しめて、全ての生きる意志を失わせ、絶望の底に沈めた後で、ようやく命を絶つのが良いでしょう。どうですか?」


ジュリアの口元に邪悪な笑みが浮かんだ。


「俺を倒せると思っているのか? 甘すぎる。たとえ俺を殺せたとしても、何も変わらないさ。その世界での戦いは終わったんだ。受け入れるべきだろう」

「どうして私がそれを受け入れられると思いますか?」


ジュリアは突然、大鎌を振りかざして俺に向かって猛攻してきたが、俺は左へ右へと身をかわし、後退し続けた。そのため、すべての斬撃は空を切った。


「悪くないけど、でも」


ジュリアは突然後退し、全力を込めて空中から真っ直ぐに斬り下ろす攻撃を仕掛けてきた。その瞬間、俺の足がバランスを崩し、避けきれなくなった。仕方なく手で受け止めたため、手のひらに深い傷を負ってしまった。


血が蛇口から滴る水のように少しずつ流れ落ち、痛みがじんじんと伝わってくる。すぐに、俺たちの距離を広げた。


「痛い?」

「うん、確かにそうだ。しかし、もうすぐ止めさせる」


正しいかどうかは分からないが、試さなければ結果はわからない。


俺は手を前に伸ばした。


「《悪魔を滅ぼす力を宿す聖剣よ、神々と並ぶ力を秘めた。今、封印を解き放とう。我が手に力を》来い、聖剣ウリエル!」


呼びかけに応じて、周囲に神秘的な光が広がった。その神聖な光の中で、白く輝く力強い剣が徐々に俺の手に現れた。


その光のおかげで、傷は消え去り、傷の問題を気にせずに戦うことができるようになった。


これが二度目の召喚だ。契約を結んだ、悪魔を滅ぼす力を持つ神の武器。聖剣、ウリエル。


「さあ、戦おう」


戦いが始まった。


今回のことは、俺の予想通りだった。


聖剣が昨晩召喚されなかった理由は、魔力や霊力の不足ではない。実際、聖剣が召喚されるための主な要素は、所有者の内なる感情にある。感情が強く、戦う意志が満ちていれば、剣は強力で相手を圧倒する力を発揮する。逆に、所有者が恐怖に満ち、勇気を失うと、剣の力は消え、主人の呼びかけには応じない。


俺がアンデッドに襲われた夜、俺は人間の体にあるため、自分でも気付かないうちに恐怖を露わにしてしまっていた。それが理由で、聖剣が召喚に応じなかったのだと気付いた。


「ありえない。これが聖剣ですか? やっぱり、あなたは以前とは違うのですね」


そう言って、ジュリアは大鎌を振りかざしながら、嵐のように突進してきた。


俺は剣を振り上げ、ジュリアの攻撃を受け止めた。


二つの武器が触れ合った瞬間、凄まじい圧力が放たれ、すべてを吹き飛ばすかのような衝撃波が広がった。


「カズコ!」

「戦いに集中しなさいよ! どこを見ているの?」

「ぐふっ!」


不意を突かれ、俺はあいつの蹴りを食らってしまい、体が後ろの壁に叩きつけられた。


俺は聖剣ウリエルを地面に突き立て、それを支えにしてゆっくりと立ち上がった。


「なかなかやるじゃないか。さすが、俺の魔王軍将だな」

「黙れ! もう、お前なんて魔王様として見なす価値もないわ。まるで下等な生物みたいね」


あいつは言いながら、カズコを指差した。


ジュリアの言葉遣いも、まるで別人のように一変していた。


ジュリアは再び驚異的な速度で突進し、空中から真っ直ぐに斬り下ろす攻撃を繰り出してきた。俺はすぐに体を引いてかわし、床の一部が粉々に砕けた。


「どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうしてなの? 私を置いていくなんて、あの下等な生物がお前にとってそんなに大事なの?」


ジュリアは狂ったように連続して斬りつけ、俺を追い詰めようとした。俺はただひたすら、左右に避け続けながら、攻撃をかわしていた。


「俺……!」

「悪魔の都市ラリウスが、下等な人間たちによって侵略されてしまったわ。今や、そこに住んでいた者たちは奴隷にされ、一部は殺されてしまったのよ。それなのに、お前はまるで何も起こっていないかのように無関心で、共に戦った仲間たちを見捨て、お前を信じていた住人たちを見捨て、私の信頼を踏みにじって、今やこのような嫌悪すべき存在になってしまったの。わかる? すべての事態は、お前が原因なのよ」


ジュリアの大鎌が俺の剣を押し込もうとしていた。双方が持っている力を使って、お互いを打ち破ろうとする激しい押し合いが続いていた。


ジュリアの言っていることは完全に間違いではない。確かに、俺は彼ら、ラリウスの住人たち、忠実な部下たちを見捨ててしまった。俺と共に肩を並べて戦った者たちや、様々な状況で俺に従った魔王軍将たちもいた。彼らはいつも俺と共にその世界を征服するために力を合わせてきた。


そして、自分が初めて感じた愛という感情、あの人と永遠に一緒にいたいという思いを抱きながら、その女性を守ることができなかった後悔から、彼女のいない生活を終わらせ、再びこの世界で彼女に会えることを願っていた。


でも、結局……俺は……


「お前が言っていることは間違っていない。俺はあの地の住人たちを見捨て、お前らの信頼を裏切り、今やお前が言う通りにラリウスを失ってしまった。しかし、一つだけお前が間違っていることがある」

「……」

「俺の心の奥底では、そうした命を常に大切に思ってる」

「それなら、どうして帰ってこないの?」

「それは、」

「どうやら、お前が何を言っても無駄みたいね。未完成な魔王であるお前は排除され、新たな魔王が誕生するわ。安心して、あまり痛くないから」


新たな魔王か? それで、あいつは俺を殺そうとしているのか?


確かにそうかもしれないな。敗北した王には、誰かがその地位を引き継いで支配することになる。世界の規則はいつもそうだ。


俺は右足でジュリアを強く蹴り飛ばし、あいつは遠くへ吹き飛ばされた。これで距離が広がった。


「ジュリア、お前が俺を殺したとしても何も変わらない。あの世界はそのままだ」

「黙れ。お前が何を言おうとも、私は気にしない。私の望みはただ一つ、お前の命を取ることだ」


ジュリアは突然、大鎌を地面に突き刺した。いったい何をしようとしているんだ?


「《力強き死神の大鎌、ヴァルラよ、今ここに神秘の力をもって命じる。愚者の魂を主から引き離せ。魂の分離》」


これが、まさか……もう間に合わない、


その宝石の中の目が開き、暗く不吉な鎮魂の旋律が響き渡った。殺気が四方に広がり、俺の体は重く、内部が空っぽのように冷たく感じられる。心臓はいつの間にか止まってしまっており、意識が脳に届くこともなく、何の信号も感じられない。


俺の、体が……


そう、今の俺は『魂の分離』という魔法の影響で、体から魂が離れてしまっている。この技術によって、ジュリアはどんなに強力な魔力を持つ生物であっても、無数の魂を捕らえることができる。分離された魂は、あの大鎌に吸い込まれ、時間と共にじわじわと消えていくのだ。もっと早く気づいていれば避けられたかもしれないが、今となってはもう遅い。


俺の魂は大鎌に付けられた宝石に吸い込まれ、残されたのは動かない空っぽの体だけだ。


「ハハハ! ついに裏切り者が裁かれたわね。安心して、お前の友達もすぐにこちらに来るから、孤独を感じることはないわよ。さぁ、ゆっくりと引き裂かれ、消えていく感覚を楽しんでね」


突如として襲い来る震動が、ジュリアを吹き飛ばしそうにさせた。


「もう十分よ」


そして、俺の体の横から、深い闇とともに雷鳴が辺りに広がり始めた。それらは次第に集まり、人間と同じくらいの大きさを持つ形を作り出す。強い風が吹き荒れ、その夜の幕の中に現れたのは、一対の長い銀髪が腰まで垂れ下がる少女だった。彼女の顔は普通だったが、どこか悲しみに満ちているように見え、圧倒的な魅力を放っていた。空から灰色の羽根がゆっくりと床に落ちてきた。


彼女は、ダークエンジェル、オリビア。


「魔王様を救ってみせる」


最後までお読みいただきありがとうございます!

もし気になった点や「ここを直した方がいい」という箇所がございましたら、ぜひご意見をいただけますと嬉しいです。皆様のフィードバックをお待ちしております。

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