第十五話:オリビアと魔王 VS ジュリア
「ええっ! オリビアじゃない。久しぶりね、まさかあなたもここにいるなんて思わなかったわ」
その威厳ある気配は、周囲のすべてを吹き飛ばさんばかりの圧力を持っていた。
俺は魂の状態で何も感じることができなかったが、普通の人間でさえ、オリビアから放たれる猛烈で恐ろしい殺気を明らかに感じ取ることができるだろう。
俺は、ヴァルラの大鎌の中に囚われているが、それでも外の状況を見ることはできる。こんなに隠していたのに、オリビアに見破られたのは予想外だが、今回は少し遅れて現れたようだ。
俺がかつての部下に救いを求めるなんて、ちょっと情けないな。しかし、現状ではどうしようもなく、ただ見守るしかない。状況がどう転ぶのか、見届けるしかない。
俺の記憶によれば、オリビアは他の者たちを凌駕する力を持つ魔王軍将で、俺からも一部の魔力を授けられ、プリシアを支配するための軍を指揮していた。
そうであれば、勝利はすでに決まったも同然だ。しかし、どうしても感じるのは、ジュリアが以前とは違うということだ。ジュリアの力には、何か違ったものがあるように思える。
「ジュリア、君の行動は我々の偉大な魔王様に対する裏切りと不敬とみなされます。原則に従い、魔王様の代わりに君の処罰を執行するつもりです。覚悟しておいてください」
感情を一切込めずに、オリビアは決然とした口調で言った。
「裏切り? 私が? 逆に言ってみてはどう? あなたもあの男のように私たちを見捨てたんじゃない? 本当は、あなたも処刑されるべきだったのよ」
「ただ魔王様を追い詰めるためだけにやったことです。責めるべきは、自分の無力さであり、魔王様の力に頼るしかないことです。それでいて、魔王軍将だと言えるのでしょうか」
「あなた! これを受け取れ。《力強き死神の大鎌、ヴァルラよ、今ここに神秘の力をもって命じる。愚者の魂を主から引き離せ。魂の分離》」
先ほどと同じように、ジュリアは『魂の分裂』を使い、オリビアにも俺と同じ結末を迎えさせようとしていた。
しかし、何も起こらなかった。
「どういうことなの?」
「無駄だ」
堂々とした姿勢で、オリビアは虚空からカードを一枚取り出した。
「タロットカード、『愚者』。周囲の一定範囲内での魔法の発動を完全に無効化するわ」
そうだ、オリビアの魔法は二十一枚のタロットカードのうちの一枚から発生している。これは運命を導く力を持つ強力なカードで、他者の運命を決定することもできる。これが彼女に、これまでの中で最も恐ろしい魔法を発動させる力を与えている。使用方法によっては、計り知れないほどの力を生み出し、誰にも阻まれることなく、その力で相手を無慈悲に倒すことができる。カードが一度唱えられれば、彼女は躊躇することなく、決然と行動する。
それゆえに、オリビアはプリシアで「冷徹な殺し屋」と呼ばれるようになった。
そして、そのタロットカードの中でも、「愚者」のカードは、他のカードとは比較にならないほど特別な力を持っている。
「さあ、運命のカードたちを唱えてみなさい。メジャーアルカナ」
その瞬間、オリビアは神秘的な雰囲気を醸し出す衣装に身を包んでいた。精緻な模様が上から下まで流れるように施されており、メインカラーは紫と黒のストライプで、まるで古代の魔法使いのように見える。
背中から生えている灰色の翼は壮麗でありながら、普通の天使の翼とは完全に異なる堕落したものだった。
オリビアの周囲には、力強い光を放つタロットカードが舞っており、瞬く間に整然と並んでいた。
「それなら、一緒に誰が最初に死ぬか見守ってあげる。でも、急いで。あの男の時間はもう残されていないから。《さあ、彷徨う魂たちよ、恐怖を撒き散らし、その者の魂をすべて貪り尽くせ。アンデッドを召喚せよ》」
命令を受けると、地面から突如として大量のアンデッドが現れ、ジュリアの魔法によって召喚されたそれらは、一斉に目の前の獲物に向かって突進していった。
それでも、オリビアは冷静さを保ち、感情を一切表に出すことなく、この状況から脱出する方法を探していた。
「《子供じみたことだわ。さあ、迷える者たちを導く力を持つカードよ》出てこい、『月』」
二十一枚の輝くタロットカードのうちの一枚が前方のアンデッドに向けられた。すると瞬く間に、すべてのアンデッドは跡形もなく消え去った。
「『月』の機能は光属性の魔法を放ち、アンデッドを使用する君にとっては天敵です」
「それが終わりだなんて思わないで」
オリビアが立っている場所から、足元の地面が突如として無数の腕が生え出し、彼女の動きを完全に封じ込めていた。そして、適度な爆発が発生し、その周囲一帯を破壊した。
どうやら、これがこの状況のために用意されていたものらしい。
しかし、煙が晴れたとき、オリビアが何もできずにそのまま終わると思われたのに、彼女はまるで何も起こらなかったかのように無事だった。彼女の上には別のタロットカードが現れ、防御のバリアを作り出していた。
俺の身体も無傷のままだった。
「カード『星』は、敵の物理攻撃や魔法攻撃をすべて防ぐことができます」
「まさか、あなたがこんなに多くの手段を持っているとは思わなかったわ。あなたの才能を見くびっていたことを謝るわ」
「裏切り者からそのような言葉を聞きたくないわ。次は私が攻撃する番ね。カード『魔術師』は、持ち主にすべての魔法を操る力を授けるわ。さあ、《魔法の爆発》」
オリビアの周囲に五つの黒い球体が現れ、ジュリアに向かって飛んでいった。ジュリアはそのうち二つを避けたが、残りの三つは避けきれず、触れた際の電撃によるダメージを受ける羽目になった。
「キャー! なかなかやるじゃない。でも、次に攻撃が来るときは、絶対に……」
「いいえ、もう君には次の番はないわ。今までのような遊びは十分。これからは本気でとどめを刺すつもりよ」
タロットカードが積み重なり始め、その中から五枚が引き抜かれた。そのうちの一枚がジュリアの頭上に向けられた。
「まずは、『塔』。このカードは、運命に逆らおうとする愚か者を束縛し、閉じ込めるわ」
カードから鎖が現れ、ジュリアの体をぐるりと巻きつけ、彼女の動きを完全に封じ込めた。
「キャー!」
「次に、『太陽』。このカードは、地獄の炎で罪人を焼き尽くす太陽の力を持っているわ」
その後、炎でできた手がジュリアの体をしっかりと掴み、恐ろしい熱を放った。その熱は、普通の人間ならば触れただけで灰すら残らないほどのものだった。ジュリアはネクロマンサーで不死の体を持っているため耐えられるものの、その痛みは死よりもさらに深く体を侵していった。
「そして、『月』はその者に結末を見せるわ」
ジュリアの目の前に円形の鏡が現れ、その中には近い未来に起こる結末の映像が映し出された。それは未来の予兆だった。
「キャー!ありえない、受け入れられない!」
ジュリアは絶望の中で叫び続けた。
「さらに、『戦車』は罪人を苦しめ、その者を痛みに沈めるわ」
暗黒の気がジュリアを包み込み、次第に彼女の心に侵入していった。それはじわじわと苦しめるものだった。
殺戮においても、オリビアは他者の精神を苛むことにおいても非常に巧みで、まさに悪魔の本性を示していた。
「やめて! やめてください!」
「最後に、『審判』が罪人に最終的な裁きを下すわ」
小さな立方体の箱が現れ、淡い紫色の光を放っていた。瞬く間に、ジュリアはその中に閉じ込められてしまった。
「準備は整ったわ。今、魔王様の忠実な従者として、私は君をこの世界から永遠に封印する。《無限の立方体》」
五枚のタロットカードの周りの光線が繋がり、五芒星の形を作り出した。そこに魔法陣が展開され、ジュリアにとっては最も相応しい結末が待っていた。
残念ながら、彼女は永遠にその箱の中に閉じ込められ、一生涯にわたって苦しむことになるだろう。
「キャー! こんなことが起こるなんて絶対に認めないわ。私の願いはもうすぐ叶うの。私の生きる意味を奪われるわけにはいかない。私は……私は……絶対に、道を阻む者は誰であろうと許さないわ」
何だと?
瞬く間に、オリビアの強力な魔法は破られ、ジュリアは完全に自由を取り戻した。これは全く予想外の出来事だ。ジュリアがこんな状況で魔法を破る力を持っているとは思えない。誰もが、こんなに閉じ込められ、拷問や苦痛を受けながらでは無理だろう。
待てよ、今見ていると、ジュリアから放たれるその圧倒的な魔力は、最初のものとはまるで異なっている。
この魔力は一体何だ?
いったい誰がジュリアをこんな状態にしたのか?
瞬く間に、ジュリアの体は巨大化し、全身が変貌していった。
その顔はもはや人間のものとは言えず、まるでモンスターのようになっていた。彼女の全身は魔力の流れに包まれ、服は大きく破れていた。ジュリアが制御を失い、今やこんなに恐ろしいモンスターになってしまったのだろう。背後には、二つの頭蓋骨が二本の糸にくっついており、むしろそれが彼女の体から突き出ている部分だった。
手に、ヴァルラの大鎌を握りしめ、口元には勝利の誇りを浮かべた自満の笑みが絶え間なく広がっていた。
「ココデオマエヲコロシテヤル!」
声のトーンが完全に変わっていた。
先ほどの魔法に多くの力を使い果たしたため、オリビアの魔力はおそらく残り少ないだろう。この上にこんなモンスターが現れるとなると、状況はさらに厳しくなるだろう。
目の前にあるのはもはやジュリアではなく、彼女自身の異なる存在、つまり「逆転体」と呼ばれるものだった。
「逆転体」とは、元の人格とは独立して存在するもう一つの人格で、魔力の源が不安定になったり、精神が混乱したりすることで発現する。それによって、自己認識を失い、次第に体が変貌し、力も初めよりも強化される。
何とかしないと、事態がさらに深刻になる前に。
しかし今、俺はこの大鎌の中に閉じ込められ、ただ見ていることしかできない。現在の無力感が俺を激しく怒らせ、手を叩きつけては何度も何度も繰り返したが、全く効果がなかった。
カズコはまだ意識を失っているが、風の圧力によって柱が折れてしまい、あいつは床に倒れていた。
ジュリアの魔力によって周囲の空間が変貌し、まるで墓地のような風景が広がっていた。霧が立ち込め、恐ろしいほどに不気味で、これまでに見たことがないほどの気味の悪さが漂っていた。
その後、ジュリアは音もなく超音速でオリビアに接近し、一瞬のうちに彼女の背後に回り込んだ。
ジュリアは大鎌を振り上げ、オリビアに斬りかかった。
しかし、オリビアの表情は変わることなく、彼女は冷静に体をひねって即座に回避した。その瞬間、地面から無数の腕が突き出し、彼女の動きを完全に封じ込めた。
その隙に、ジュリアはさらに一撃を振り下ろすべく突進した。
「『星』、私を守る」
二人の間に一枚のカードが現れ、見えないバリアを作り出してその一撃を防いだ。
ジュリアはそれにも屈せず、なおも頑固に前進し続けた。
バリアはジュリアの猛烈な攻撃に耐えきれず、ついには崩壊し、ジュリアの斬撃がオリビアの胸部に直撃した。部分的に服が裂け、体が吹き飛ばされた。さらに、体が地面に着く前に、軽い魔法の爆発が加わった。
今やオリビアは地面に倒れ込み、力を失ったように見えた。彼女の目は虚ろで、痛みを感じている様子は全くなかった。
くそっ! オリビアを助けるために何かしなければならない。しかし、最も基本的な魔法すら使えない今、どうすればいいのか?
このままではオリビアもカズコも殺されてしまう。
俺は一体何をしているんだ、全然自分らしくない。なんとかこの悪夢のような場所から抜け出さなければならない。きっと方法があるはずだ。
俺は本当に、誰も失いたくないんだ。
《ゼル、いったい何をしているの? あなたらしくないわね。普段のあなたはいつも決断力があって、行動が早く、状況をすぐに解決するものだと思っていたのに。ちょっと失望してるわ。でも、大丈夫よ。冷静になればすぐにうまくいくわ。きっと、あなたならできると信じているわ。だって、あなたは私の偉大で最強魔王なのだから》
何だ、これは幻覚か?あの温かい声が、どこからともなく、少しずつ、少しずつ聞こえてくる。
俺はあの甘い声を決して忘れることはない。
君の姿を見たい、
君の笑顔が唇に浮かぶのをもう一度見たい、
君に会いたい、
その甘い声が、俺をはっきりと目覚めさせた。
「そうだな、レイ。すまない、俺は無力さをさらけ出してしまった」
俺は偉大で最強魔王だ。
こんな弱いものに屈するわけがない。
ジュリアを討つ。
「《解放》」
その瞬間、俺の力が戻ってきた。しかし、今回は異常なほど強力で、全身を包み込み、光り輝きながら殻を破って前進し、再び体に戻ってきた。
「死ぬ前に何か言いたいことがある? オリビア」
「たとえ命をかけることになっても、魔王様を必ず救う」
「そう、死んでしまえ。えっ! これって一体、ありえない」
ヴァルラの大鎌から奇妙な光が放たれた。その中に流れる巨大な力が湧き上がり、激しく流れながらササキ・ゼルトという人間の体に注ぎ込まれていった。
その瞬間、空間を揺るがす衝撃が走った。時間がゆっくりと流れ、すべてが凍りついたかのように感じられる中、ただ一人だけがそこに立ち、何事もなかったかのように普通に動き続けていた。
その者から放たれる魔力が、全てを侵食し、止まることなく増大していった。
しばらくして、空間は元の状態に戻った。その世界に立っていた者、ササキ・ゼルトは、人間を超越する存在へと変貌し、直面した者たちを畏怖させるものとなった。
筋肉質で逞しい体は、衣服を耐えきれず、わずかに裂けてしまった。頭の頂に鋭い角が生え、血のように赤く燃える鬼のような目が輝いていた。
これが本当の我だ。支配の魔王、ゼルド。万物を支配する者。
「ようやく元の力を取り戻した。ありがたい、ジュリア。お前の感情もなかなか悪くないな」
我の今の存在感の前に、ジュリアは少し震え、恐怖を露わにしていた。
「どうして? その力はいったいどこから来たの?」
「お前は忘れたのか? 我は人間の負の感情から魔力を取り出し、それを自らの力に変えているんだ」
「まさか、お前が……」
「そうだ、我は自分自身の負の感情、そしてお前の感情も取り込んだ。それだけでなく、お前の欲望や渇
望も利用して、今のような姿に体を回復させたんだ」
「ありえない、そんな強力な魔力をお前の体が耐えられるはずがない。とっくに死んでいるはずなのに、こんなことは前代未聞だわ」
「まだ気づかないのか? お前が目の前に立っている者はもはや弱く卑しい人間ではない。我こそが、万物を支配する偉大で最強魔王ゼルドだ」
「その口調で私に話しかけないで」
手に握った大鎌をしっかりと保持し、ジュリアは先ほどと同じ恐ろしい速さで突進してきた。今度はその大鎌を我の頭に向けて振り下ろそうとしている。
だが今や、我はどんな動きも完璧に捉えることができるので、あまり力を使わずに対処できる。手を伸ばしてジュリアの首を掴み、力強く地面に押し付けたため、その場所には深い凹みができた。
我の唇は冷笑を浮かべていた。
「どうした、まだ強気でいられるか?」
ジュリアの体にある二つの頭蓋骨が近づいてきて、我を束縛しようとしている。そして、無数の腕が床の下から生え、頭上や背後には多くのアンデッドが近づいてくるのを感じた。
それを見て、我はもう一方の手のひらに魔力を集中させ、それを解放した。その結果、すべてが跡形もなく消え去り、虚無へと消えた。
さらに、我はジュリアの首を掴んでいる手に少しの雷電を加えた。その結果、彼女は痛みに叫び声を上げた。
「いいぞ、もっと叫べ。痛みを増すほど、その苦しみが我の力になる」
今、ジュリアはまるで我に弄ばれる操り人形のようだった。
「どうした、我を殺すと言っていたな。抵抗すらできないのか? 愚か者め、これが魔王の力を侮った者の末路だ。我に背き、我を暗殺しようとした者には容赦しない。この処罰を受け入れろ、それを名誉だと思え、魔王軍将として」
我は右腕を真上に掲げ、力の一部を解放してジュリアに向けて打ち込んだ。
ジュリアの体が輝き、激しい痛みが広がる。その痛みは「それ」が切り離されるまで止まることはなかった。
「魔王様!」
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