第十話:転機
屋上の扉がゆっくりと開いた。
そこへ姿を現したのは、二つ結びの巻き髪をなびかせ、ゆか高校の制服を着た一人の少女だった。
彼女は驚きに目を見開き、感嘆した様子で周囲を見渡している。そこには十数人の生徒が集まり、特設のステージと二つのスピーカーが用意されていた。歌手がパフォーマンスを行い、音楽で盛り上げるための準備は万全だ。
そして、その中心に立つべき人物こそ、今夜の主役――ヨシダ・ノムラだった。
「ちょっと、これ一体どういうことよ!?」
屋上に足を踏み入れるなり、彼女は俺に詰め寄り、無理やり校舎の中へと引き戻した。
「見ての通りだろ。君がライブを披露するために準備したんだ」
彼女の眉が「ハ」の字に吊り上がり、鋭い視線が俺を射抜く。 これは、あまり良くないことが起きる予感がする。
「あ、あんた……まさか、二人の秘密をみんなにバラしたんじゃないでしょうね?」
彼女の言葉に、俺は思わず吹き出した。
「ハハハ! 俺にそんな度胸があるわけないだろ」
「じゃあ、なんでこんなことしたのよ? 何か企んでるんじゃないの?」
「企み? 心外だな。俺はただ、君に自分自身に素直になってほしいと思っただけだよ。それに俺は君の
マネージャーなんだから、ライブを企画するのは当然だろ」
彼女は顔をしかめ、不可解そうに言葉を返した。
「それはそうかもしれないけど、でも……あたしには無理よ! 準備だってできてないし!」
彼女の声は震え、その瞳には不安がにじんでいた。
いつもは強気な彼女が見せる、初めての弱音。
「心配いらないさ。君ならできる。俺が保証するよ」
俺は精一杯の自信を込めて言ったが、彼女の反応は冷ややかだった。
「黙って……。もういいわ、勝手にして!」
彼女は背を向け、冷たい足取りで立ち去ろうとする。
だが、ここで終わらせるわけにはいかない。ここまで準備したんだ、絶対に諦めるもんか。
「待てよ!」
俺は即座に駆け寄り、彼女の肩を掴んで引き止めた。
「うるさい! 邪魔よ!」
パチンッ!
「……っ」
何が起きたんだ? 彼女が……俺の頬を叩いたのか。これは完全に予想外だった。
「バカっ!!!」
そう叫ぶと、彼女は俺の目の前から走り去っていった。
痛い。言葉では言い表せないほどの痛みが走る。
女の子にビンタされるっていうのは、こういう感覚なのか。ついに俺もこの洗礼を受ける日が来るとはな。……ああ、あ。本気で怒らせちゃったみたいだ。次はどう動くべきか。
「魔王様、彼女をあのまま行かせてよろしいのですか?」
「おっと、サオリか」
いつの間にか、サオリが俺の目の前に立っていた。どうやら放心していて、周囲の状況に気づかなかったらしい。
「全く、今日の貴方は貴方らしくありませんね。追いかけなくてよろしいのですか?」
「……そうだったな。忘れてたよ。ここは頼んだぞ、サオリ!」
くそっ、余計なことを考えている間に時間をロスした。すぐに追いかけないと、彼女は……。
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