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第九章 代わりの温もり

妖怪が、寝たきりになっていた。

いや、正確には——

妖怪は、のり子のそばに倒れていた。

戦いの後、彼は力尽きて床に崩れ落ちたまま、ほとんど動けなくなっていた。

胸から左肩にかけて深い裂傷が走り、そこから蒼い血のような光が、ゆっくりと零れ続けていた。

それは桜の精の命の樹液だった。

淡い青みがかった光が、床板を静かに濡らし、薄く広がっていく。

のり子は目を覚ました瞬間、すべてを理解した。

自分の体から墨色の侵食が消えていること。

そして、代わりに妖怪が瀕死の状態で倒れていること。

「…………!」

彼女は布団から飛び起き、妖怪の傍らに膝をついた。

冷たい体を抱き起こそうとして、蒼い光が自分の手に付くのを見て、息を呑んだ。

「妖怪さん……!」

のり子は必死に看病を始めた。

まず、井戸から冷たい水を汲み、傷口を丁寧に洗った。

蒼い光が混じった血を拭き取り、森で採ってきた薬草をすり潰して塗り込んだ。

彼女は震える手で布を裂き、妖怪の胸と肩を丁寧に縛った。

妖怪の体は、触れるだけで冷たく、

ところどころで光が弱々しく明滅していた。

「起きて……お願い……」

のり子は妖怪の冷たい頰に自分の頰を寄せ、

掠れた声で何度も呼びかけた。

彼女はほとんど眠らず、妖怪のそばを離れなかった。

朝になると、のり子は妖怪のために薄い粥のようなものを煮た。

自分で少しだけ口に運び、残りを妖怪の唇にそっと近づけた。

妖怪が飲めないとわかると、指を湿らせて水を滴らせ、

「飲んで……少しでも、力を取り戻して」と繰り返した。

昼間は、妖怪の体を拭いた。

冷たい体を布で優しく撫で、零れ落ちる蒼い光を拭い、

新しい布を当てて傷を清めた。

夜になると、彼女は妖怪の冷たい胸に自分の体を寄せ、

「寒くない?」と何度も確認しながら、温もりを分け与え続けた。

のり子は、妖怪が自分を守るためにすべてを賭けたことを知っていた。

だからこそ、彼女は必死だった。

熱を出して倒れた自分を看病してくれたように、

今度は自分が妖怪を守る番だと、心に決めていた。

「あなたが、私を生き返らせてくれたんだから……

 今度は私が、あなたを生き返らせる」

のり子は何度も、そう囁いた。

声は震え、涙でかすれていたが、

その瞳には、決して消えない強い光があった。

妖怪は、薄れゆく意識の中で、

彼女の温かい手を、ただ感じていた。

(……俺は、守られたのか)

冷たい体が、少しずつ、ほんの少しずつ、

のり子の献身によって温められていく気がした。

しかし、妖怪の蒼い光は、日に日に弱くなっていた。

のり子はそれを知りながらも、

ただ必死に、看病を続けた。

彼女の愛は、

今、初めて「守る」形となって、妖怪に注がれていた。

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