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第終章 目覚め

妖怪は、一度、死にかけた。

悪の妖怪を倒した代償はあまりにも大きかった。

彼の体はほとんど光を失い、蒼い樹液は床に広がり、息さえも止まりかけた。

そのとき、のり子は彼の冷たい体を抱きしめ、

自分の温もりをすべて注ぎ込むように、ずっと寄り添い続けていた。

その温かさが、妖怪の胸の奥に、ゆっくりと染み込んでいった。

一度は冷たさしか知らなかった体に、

人間の、のり子の、柔らかくて優しい熱が、

静かに、静かに、伝わっていった。

妖怪は、薄れゆく意識の中で、夢を見た。

夢の中で、彼はのり子の温かい胸に抱かれていた。

彼女の腕は細く、しかし強く彼を抱きしめ、

耳元で優しく囁いていた。

「もう大丈夫……

 私はここにいるよ」

その声は、春の陽射しのように温かく、

妖怪の凍てついた心を、優しく溶かしていった。

夢の中ののり子は、笑っていた。

あの花畑で見た、今までで一番の笑顔だった。

妖怪は、その温もりに包まれながら、

初めて「生きている」という感覚を知った。

そして——

ゆっくりと、目を開けた。

薄暗い屋敷の部屋に、朝の光が差し込んでいた。

妖怪は、のり子の胸に顔を埋めるようにして横たわっていた。

彼女の腕が、彼の背中を優しく抱きしめている。

のり子の体温が、自分の冷たい体に、確かに染み込んでいる。

「……のり子」

掠れた声で名前を呼ぶと、

のり子はびくりと体を震わせ、すぐに顔を上げた。

「妖怪さん……!」

彼女の瞳に、涙が溢れた。

嬉しさと安堵と、疲れと愛情が、すべて混ざった涙だった。

のり子は妖怪の冷たい頰に自分の頰を押しつけ、

震える声で何度も繰り返した。

「よかった……本当に、よかった……」

妖怪は、ゆっくりと自分の手を上げ、

のり子の背中にそっと回した。

まだ力は弱かったが、確かに、そこに温もりがあった。

二人は、ただ、静かに抱き合っていた。

言葉はいらなかった。

のり子の温かい体温が、妖怪の胸の奥に、

確かに「生きる」ための熱を灯していた。

外では、朝の光が優しく屋敷を照らしていた。

枯れかけた桜の木に、わずかな新しい芽が、

静かに、しかし確かに、膨らみ始めていた。

二人の物語は、

ここから、再び始まる。

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