第四章 優しい囁き
あの夜以来、二人は一つの臥所で眠るようになった。
最初はぎこちなかった。
妖怪は自分の冷たい体がのり子を不快にさせるのではないかと、そっと距離を取ろうとした。
しかしのり子は、眠りの中で自然に彼の胸に寄りかかり、細い腕を回して離さなかった。
その温もりが、妖怪の内側に、静かで甘い疼きを生んだ。
朝、のり子は妖怪の胸に頰を寄せたまま、ゆっくりと目を覚ます。
「朝だね……」と小さな声で呟き、彼の冷たい指に自分の指を絡めて、
「今日も一緒にいられるね」と微笑む。
その笑顔は、妖怪にとって、森のどんな光よりも眩しかった。
のり子はますますかいがいしく彼の世話をした。
朝餉の後には彼の着物の襟を整え、
昼間は屋敷の周りを歩きながら「ここに花を植えたいね」と夢を語り、
夜には彼の冷たい肩に自分の体を預け、
「寒くない?」と何度も確認した。
妖怪はそんな彼女の行動一つ一つに、言葉にできない温かさを感じていた。
「俺は……冷たいだろう?」
ある夜、臥所の中で妖怪が珍しくそう尋ねると、
のり子は彼の胸に顔を埋めたまま、くすりと笑った。
「冷たくて、気持ち良いよ。
あなたがそばにいると、安心するの」
その言葉は、妖怪の鏡のような心を、優しく溶かしていった。
彼は、のり子をいつまでも側に置いておきたいと、強く思うようになっていた。
この静かな蜜月が、永遠に続けばいい——
そんな、妖怪には許されないはずの願いが、胸の奥で静かに育っていた。
窓からは、優しい月灯りが差し込んでいたのだった。




