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肉食と聖女の旅  作者: 夜昊


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肉食と聖女の旅 番外編 13

 

 この国の王子は伯爵令嬢だった側妃から生まれ、表向きには王妃もその存在を認めている。

 だが、そもそも陛下は学生時代から側妃であるセセリ様の能力を買っていて、はじめから正妃に推していたのだ。そこに割り込んだのが侯爵令嬢であったミスジ様なのである。

 父親の侯爵家の力によってねじ込まれたが、最終的に受け入れたのは、陛下の父親である先王だ。


「だから先王夫妻は観月宮に住むことなく、王領にある屋敷に封じられていると」


 観月宮というのは、先代の国王とその家族のための離宮だ。城の敷地の南西に位置していて日当たりもいいし、落ち着いた佇まいの城である。だが、先王夫妻が不在のため、現在は閉鎖中だ。

 そのくらい陛下は父親の所行に激怒なさり、許してはいないし、恨んでいる。


 陛下はミスジ様を認めておらず、いまだに王妃は王族の証しであるアントルコートの名を与えられていない。

 彼女が産んだ王女にはアントルコートを名乗らせているので、王妃だけが王族の姓であるアントルコートではなく、実家である侯爵家のフランシェのままなのだ。


「正妃より先に側妃が身ごもってるし、陛下もなかなか危険な綱渡りをしてるよね」


 なにを引き換えにして王妃との初夜を遂行させたのかは不明だが、はっきり言って陛下が怖いから知りたくない。

 側妃の子が王子で、自分の娘である正妃の子が王女というのも、アントルコート侯爵にとっては歯がゆいことだったろう。

 だから王子の命が狙われ、身代わりが立てられたと。


「国の中心は伏魔殿ってのは、異世界でも同じなのか」


 王妃が王女の立太子を企んでいるんだから、嫁入り先を選定するわけがない。王女を支える身分と財力、そして賢さをあわせ持った青年を物色中なのだが、条件に当てはまる子息は多くない。

 そして彼らは、すでに本物の王子の側近に選ばれている。王女との茶会に登城しているように見えるが、彼らは未来の王太子のために出仕しているのだ。


「王女であるモミジ様は、御歳十五歳か。ふつうなら婚約者がいてもおかしくないよね」


 目ぼしい貴公子たちがみんな婚約しちゃったら、王女様は国外に嫁に出すしかなくなるんだけど、王妃様は意地でも引かないだろうね。

 侯爵もさっさと諦めたらいいのに。孫が可愛くないのかな。


「王子は移民の女性をそばに置き、さらに周囲からの反感を集めている――か」


 そして、王妃様は静観してるって構図なわけか。王子の身代わりが暮らす白鷺宮に、高橋さんが訪ねることになったきっかけは、王妃様がつくったとわかってるんだけどね。

 思ったよりも高橋さんは、王子のそばで暴れまわっているらしい。


 本物の王子の存在が、これほどまで侯爵側に気取られないのも不思議なことだけど、陛下たちは鉄壁の守りで、愛する妻子を命の危険から遠ざけているのだ。


 仕事をこなしつつ、メモ帳を取りだし書き綴る。いまのところ、王妃陣営には身代わりだとはバレていないし、疑われてすらいない。

 そんなことより、王子を暗殺しなくても廃嫡されそうな雰囲気に、王妃は笑いが止まらないようだ。






「あなた! なぜわたくしの邪魔をなさるの。あの方はわたくしを愛しているのですから、横恋慕はやめてくださる?」

(そのような事実はありません。キドニー・バルロンは、思い込みが激しいのです。彼女は目障りな寿春菜を辞めさせるよう、父親に願い出るつもりです)


 ほんとうに、なんでこの子は学習しないんだろう。

 官吏食堂にシフトに入っているのは、週の半分ほどなのに、彼女のお目当ての男性は毎回私を呼ぶのだ。彼の合図に反応するのが私だけなんだから、そうするしかないよね。

 キドニー嬢を待つにしても、昼休みの時間は決まっているんだし。


「申し訳ありませんが、私から声をかけてはいませんよ」


 だれも注文をとってくれないんだから、そりゃあ暇そうな私に頼むよね。

 私が注文をとるは相手のことが好きだからとか、そんな短絡的な思考でよくいままで生きてこれたな。そんなにイヤなら、入り口で待ち構えとけばいいのに。


「あなたみたいな行き遅れに、あの方が声をかけたとおっしゃるの?」

(キドニー・バルロンは、寿春菜が図々しい上に、身の程知らずだと軽蔑しています。彼女は末子なので、かなり甘やかされて育ちましたし、母親が妾であるとは知りません)


 ツリ目がちな碧目が、こちらを睨んでいる。


「いえ、声をかけたといったのは、注文したという意味ですよ」


 参ったなぁ。この令嬢とはあんまり接触したくない。だって、王子の身代わりをしているシャンクって青年の、異母妹だよ? 彼女がつっかかってくるたびに、知りたくもないプロフィールが完成されていくんだけど。


 彼女の父親であるバルロン侯爵は、別にモテモテのイケメンってわけではないが、かなり人望が厚いお人らしい。

 亡くなった正妻から生まれた長男は妻子持ちで、爵位を継ぐのも秒読み状態だし、同腹の長女も国内の資産家である伯爵家へ嫁いでいる。

 その後迎えた後妻とは、次女と三女を授かったものの三年ほどで離婚した。子どもたちは女官として出仕していたときに、将来有望な若者に見初められたそうで、これまたすでに嫁いでいる。

 その後妻との離婚間際に娼婦と懇意になり、愛人に収まったのがシャンクの母親である。彼女は完全にお金目当てで、侯爵をだまして妊娠したため、常連さんとうまく別れられずに刺殺された。


 そしていよいよキドニー嬢の母親だが、すでに嫡子である長男が誕生しており、当主は離婚経験者で愛人が刺殺されたと外聞もあまりよろしくなかったため、妾として受け入れられた寡婦らしい。この女性は男爵の娘で、同位の貴族と結婚したが、子を産む前に夫が亡くなり実家に返されたのだ。

 そしてキドニー嬢が生まれたわけだ。


『侯爵様は避妊するか、思いきって断種したほうが家のためじゃないの?』


 常に女性がそばにいないと生きていけない、寂しがり屋な生物なんだろうね。

 とはいえ子どもに愛情をもたないわけではなく、シャンクには貴族籍を与えたくて王家に預けたし、キドニーには王宮に勤めたという肩書きがつけば、より良い嫁入り先が見つかると思って出仕させたのだ。


 それなのに、肝心の娘は恋だの愛だのを持ちだして、やるべき仕事を放っている。相手が喜んでいるならまだしも、彼は高位貴族のきまぐれに巻き込まれたと思っているし、なんならキドニー嬢のことは嫌っているから目も当てられない。

 時間があるときは、彼女を避けるために、官吏食堂ではなく上級使用人食堂で食事をしているのだ。


 利用者に対して何をしているのか。そんな不満が表情にでたのだろう。キドニー嬢はエプロンのポケットから取りだした扇子で、いきなり私の左頬を打ちつけた。


「なんど注意しても改めないとは、お前は愚かなのね。きちんと反省なさいな」

(キドニー・バルロンは、しつけのなっていない老犬を懲らしめてやったと、達成感で満たされています)


「では、メイド長にシフトの調整をお願いしてみます」


 ゴメンね。たぶんクビになるのは、あなたの方だわ。

 妾腹とはいえ、侯爵家の令嬢が配膳担当のメイドってだけで能力不足なのが透けている。

 姉ふたりは女官だったこともあり、彼女のスキルが不十分なのは、親も承知の上なんだろうな。











 キドニー嬢が王城から去ってからまもなく、私は宰相閣下に呼び出された。


「バルロン卿の娘が面倒をかけたな」

(キドニー・バルロンの想い人である、ランプ伯爵子息の当主より、食堂の使用人について苦情が寄せられています。そのこともあり、キドニー・バルロンは両親ととともに領地へ戻ることが決まりました。キドニー・バルロンはランプ伯からの苦情にショックを受け、領地で暮らさなければならない事実に泣き叫び、現在は部屋に閉じこめられています)


「いえ」


 やっぱり、伯爵の息子が侯爵家に直接文句は言えないよな。それよりもいままで我慢した、子息の忍耐力を称えたいよ。


「バルロン卿より、詫びの品を預かっている」

(ブレスト・タンドロンは、謝罪を受けた際、寿春菜にはドレスや宝石よりも金貨がいいだろうと助言しました)


「ああ、たしかにお金はありがたいですね」


 油断した。うっかり副音声の方に返事をしちゃったよ。

 チラリと宰相閣下をうかがえば、なにも問題はなかったと、表情も変えずに金貨の入った革の巾着を差し出してくる。

 私も動揺を隠して受け取ったが、気をつけないと心を読めるとか、予知ができるとか、間違った能力だと誤解されそうだ。


「さて、コトブキよ。これからの話が本題なのだ」

(いよいよ、王妃を排除する計画が実行されます)


 思ったよりもはやい。

 先日、王妃が王子のための茶会を開いたことは知っている。招待客に高橋さんが含まれていたことも、彼女がそのまま白鷺宮に泊まったことも、身代わり王子のベッドに潜り込んだこともだ。

 これらは上級使用人食堂にいた女官たちの会話から、なにがあったのかを導きだしている。


 王妃が始めた戦なのだ。王子を廃嫡に追い込む一手を打ったからには、いまさらなかったことにはならない。

 高橋さんも女神様との約束を破ってしまったからには、聖女を名乗ることはできないだろう。

 そんなことを考えながら、私は閣下と今後の予定をすり合わせた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました


評価・リアクション・感想などいただけると励みになりますので、よろしくお願いします


誤字報告をしてくださると、とても助かりますので、お気づきになられましたら報告をお願いします

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