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肉食と聖女の旅  作者: 夜昊


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肉食と聖女の旅 番外編 9


◎浴室は、数日おきに髪を洗うために利用している。体はおまけ 基本はしぼった布で拭いて終了

 毎日浴びるのは汗をかく夏か、汚れ仕事を担当している人くらい 


◎シャワーヘッドは固定式 ボタンスイッチ 温度調節はなし お湯が流れるのは合算しても10分間だけ 10分以降は延長料金がかかる (1分5オース)


◎肌用の石けんは存在しない 買った石けんは洗濯用 肌に使ってもそれほど問題はないが、ふつうは塩を使う 髪は乾かしてから植物系の油でなじませる 


◎外に井戸があり、そのまわりに屋根つきの洗濯場がある 洗濯石けんや桶は個人で持ち込む 貸し出しの桶もある

 洗濯は基本的に休日に行うため、混んでいるときは洗い桶の利用が先着順 干すのは洗濯場か自室

 洗濯婦に代金を支払って頼む人も多い


◎湯たんぽの容器、水差し、洗面器は私物

 必要なら休日に買いに行くこと



 悲しみのあまり、部屋に戻ってすぐに机に向かってしまったよ。

 覚え書きにつけ足すことだけ考えていたから、ドアのティッシュがどうなっていたのかも、確認する余裕はなかった。

 きっとドアを開けたとき、視界の端でヒラヒラ落ちていったのがそれだったと思う。


「シャワーしかないのは知ってたけど!」


 トイレと違って、個室がならんでいるところまで見たから、湯船がないのは承知の上だ。だけど、シャワーのお湯が十分で止まると思わないじゃん! 延長するにはお金が必要だなんて、メイドさんは言わなかったんだよ。


 髪の毛を洗うための施設なんだから、下着などの小物を洗う道具なんてない。そもそもそんな時間がないのだ。

 なにより、石けんで体を洗わないとは思わなかった。ばっちい。こんな国では暮らせない。きっとすぐに病気になる。ノロウィルスとかで絶滅する未来しか見えないんだが?


 この国のみなさんは、塩を石けんとして使うのだ。ちなみに歯みがきも、塩とガーゼみたいな端切れでこする。もしくは自分の指だ。

 私も指用の歯みがきガーゼを持っているけど、あれは非常時用で、日常的に使うものではない。


「あの塩や油が入った陶器、あれが調味料以外の目的で売られてたなんて、初見ではわかんないよ」


 女官長が用意してくれた日用品の中に、湯たんぽがなかったことに関しては、春になったばかりのこの国で、真夏の国からやってきた私たちが薄着だったため、かなりの暑がりさんだと思われたもよう。

 だが、コリエさんが誤召喚した生き物で、人と同じ姿をしているのは初めてだったらしく、対応に戸惑う気持ちもわかる。


「私だって、いくら人と同じ姿だとしても、宇宙人が一年間一緒に暮らすから衣食住のお世話をよろしく、とか言ってきても困るもんなぁ」


 そう考えたら、この国の王様って危機管理能力が終わってないか。いや、牢屋で一年を過ごしたいわけじゃないから、ありがたく恩恵を授かるけれども。

 もしかして、この国の王様にも女神様のこ加護があるのかな。なにかしらの加護をもらっていて、嘘がわかるとか? 鑑定眼とか看破とか、異世界にありがちな能力だよね。女神様も賢王だって褒めてたし、返済能力があるかもわからない他人に、お金を貸してくれたもんなぁ。


 浴室にいた女性たちからは、足りないものがあるなら休みの日に買いに行くしかないと教えられた。

 私たちは、ここから勝手に出ていくことができないから、どうやら新入りの使用人だと思われたもよう。

 洗った髪に手ぬぐいを巻いて乾かしていた色っぽい女性は、体までピカピカに磨きあげていたせいで、一緒にいた仲間っぽい女性たちにからかわれていた。

 ふだんは髪が汚れたときに洗うくらいなのに体の隅々までということは、お姉さんは明日デートなので張り切っていると、まわりの女性たちがはやし立てているのだ。


 ある程度身支度を済ませた女性たちは、空き時間や休みの日に手仕事などをしながら集まるという、それほど広くないという談話室に消えていった。

 そこには暖炉があるので、消灯時間まで恋バナで盛りあがるらしい。


「この部屋には、ストーブを置くとこなんてないもんね」


 横はすぐベッドだし、ドアは内開きだから、付近には物を置けないのだ。

 エアコンもないしファンヒーターもないから冬はみんな湯たんぽを購入して、夕食後の食堂で熱湯をもらい、体と寝具を温めているらしい。

 翌朝には湯たんぽの湯を洗面器にだして、顔や体を拭いたり、小物を洗ったりする。その残り湯は窓から捨てる人もいるから、下の部屋の人は注意が必要だが、基本的にはトイレの手洗い場や浴室の洗面台などに捨てるのだ。

 湯たんぽはお高い金属製と、お手軽な陶器製があるけれど、これからもっと暖かくなるから、かけ布をもう一枚支給してもらい、節約したらどうかと助言を受けた。


 そして大事なことだが、この国に枕はない。たぶん近隣の国にもないと思う。女神様のギフトがそう教えてくれたのだから、間違いない。

 今夜の寒さに耐えられなかったら、アルミのブランケットを使おう。その上から上掛けをかければ、シャリシャリ音が気になるけれど、寒さはやわらぐはずだ。それでもダメならカイロで暖をとればいい。

 急ごしらえだが、チャック付ポリ袋に布製品をつめて空気を目いっぱいいれたら、枕がわりに使える高さになると思う。


 こんな感じに心が折れかけた状態で、異世界での初日を終えた。明日は早起きして、教えてもらった洗濯場に行こうと決心しながら目を閉じる。

 ちなみに、わずかに残った女子力のカケラをすり減らしながらも、試供品の化粧水を使ってから寝ることは忘れなかった。











 なんだかんだと高橋さんが問題ごとを起こすせいで、まわりの人たちとは親しくなることもなく、わりと遠巻きに見られながら、単調な毎日を送り、あっという間にひと月近くを過ごした。


 私が立ち入ってもいい区間は限られていて、自室のほかはトイレと浴室、下級使用人用の食堂、洗濯場とほぼ毎日通う教室だけだ。

 これだけだと運動不足で不健康なので、建物の裏にある庭は散策を許可されていた。

 しかし自室の窓から見えた森は、コリエさんが召喚した謎植物が蔓延っており、死にたくなかったら近づくなと、庭師のおじいさんから苦み走った表情で注意されたので、絶対に近寄らないようにしている。


 私と遭遇するのは基本的にこの城で働いている人たちなのだが、シフトがどうなっているのか、食堂での顔ぶれも毎回異なるため、顔見知りをつくることが難しい。

 雑談に持ち込めないので、女神様の加護による情報収集はあまり進まなかったが、もともと想定していたギフトではなかったので、おまけだと思うことにした。


 ちなみにこの国では、ひと月が三十五日もある。そして一年は十か月しかない。時間も日本と変わらないのか、スマホのアラームが普通に使えた。たぶん女神様の慈悲だと思う。


「コトブキさんは理解がはやいですね。そろそろ

 自活を考えてもいいでしょう」

(もう外に出しても問題ないでしょう。攻撃性もないので、特別居住区から出してもよさそうです)


 特別居住区とは、私が暮らしている部屋がある棟のことだ。となりは騎士棟で、拘置所も近い。なにか問題があればすぐに隔離できるよう、人があまりいない居住区なのだ。


 このひと月は、基本的に教師を引き受けてくれた女性たちからのみ、情報を聞き出している。

 それで気づいたのは、女神様の加護でわかるのは、相手が知らない事柄でも関係ないということだ。

 とある教師が結婚について説明しているとき、女神様の加護が、彼女の夫が浮気しており、相手の名前や現在妊娠中であることまで暴露してきたのだ。

 来月結婚して五年になるので、記念日が楽しみだと話す彼女に、私はなにができただろう。

 結局、曖昧に頷いて、聞き流すしかできなかった。


「うれしいです。できるだけはやく、お借りしたものを返却したいと考えていますので、住み込みで働ける場所を探したいのですが」


 教師のひとりが太鼓判を押してくれたので、そのままメイド長のもとへ行き、就職相談に移行した。

 文字を書くのはまだまだだけど、読めはするのでさほど困ることはない。だが、残念ながら私の職歴を活かせる仕事は少ないらしく、日本に帰るその時まで食堂の下働きとして過ごすことに決めた。

 自室以外では勉強部屋のつぎに過ごす時間が長かった場所だから、そこそこ慣れているともいえるし、メイド長や教師との会話のなかで、そうするのが一番角が立たないと知ったからだ。

 身元保証人がいない異世界で、王城で働けるなんて私は運がいい。なにか女神様の口添えがあったのだろうか? 


「ちょっと、アンタってあしたから皿洗いなんだって? マジウケる。聖女のあたしは、豪華な暮らしを帰るまで楽しませてもらうけどね」

(寿春菜は日本では正社員だったのに、ここではパートみたいなもの。偉そうだった女が落ちぶれて、ざまぁみろと、高橋杏子は喜んでいます)


 高橋さんは、ひと月過ぎても相変わらずだった。


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