vol.26(3)
今のわたしは、もう前髪を気にするような歳でもなければ、恋に焦がれる女の子も御卒業
ここにいる私は、なにも求めていないはず・・
それが望みだったはず・・、なのに。
カンナ・・
だから、彼との出会いには、全くと言っていいほどあの恋の予感、
心が浮き足立つ感覚、0.01秒の情熱スパークなんて感じなかった。
そう! 男子へのときめきなんて、わたしの心に入り込む余地は、0%だったはず。
でも、あの春先の朝、ううん冬の終わりを告げる朝もやに現われた彼の姿は、
わたしにとって確実に衝撃でもあった。
わたしと同じ空気・・すっごく心地よかったんだよなぁ。
今思えば、あの瞬間が、わたしの春の訪れだったのかも。
わたしにまた季節が巡り始めたんだって・・
彼が運んできた、忘れかけ忘れようとしていたもう一人ひとりのわたし
その心地よさは、洗濯したてのシーツにくるまるというよりか、
少し自分に馴染んきたシーツに包まれるあの肌ざわり、あの匂い、あの安らぎ
カンナ
貴方は、わたしに、そのもう一人のわたしを取り戻させてくれたのかもしれない。
貴方が醸し出すまだ見ぬものへの期待感、知らない未来への羨望、
そして焦燥感・・諦めをきれない捨てきれない心。
その貴方さえも気づいていない内に秘めた力強さ、若いゆえの瑞々しさ
どれもこれも、誰もがかつては芽生えたはずこの感覚
自分に宿るその薄っぺらい格好悪さ、ありふれた陳腐さゆえに素通りしてしまう。
少し前のわたしにもあったはずのもの、まだ私のどこかに眠っているはずのもの、
諦めきれずしまい込んで、故意に触れず、見ぬふりする何かを・・
カンナも自分で気づいていないその潜む存在感
わたしには見える、純なときめき?を通して。
わたしは潜在する無意識の中で、少なからず焦がれを感じだのかもしれない。
カンナへの焦がれは、ときめきよりもまして、そんなに自分に見るためらい
カンナへの想いは、自分への想い
焦がれ、憧れ、ときめき、ためらい
全てが貴方
カンナ
そんな貴方の波に飲まれて、溺れてみたいと、感じ始めたわたしがいる。
できることなら、貴方に感染し、髪の先まで侵されたい。
できることなら・・
春は朝から舞い降りて、秋は夕方から忍び寄ってくる。
どこからともなく低く冷気のように這い上がってくるヒグラシの時雨啼き(しぐれなき)
キーンキンキンキンキキキキキ・・・・
引いては寄せる波のように、わたしの心を旋回し続ける。
カーテンがはらりとなびくと、オレンジ色を帯びた斜光が一筋、零れ(こぼれ)落ちた。
それを見て理由もなく、はらりとわたしの頬にも一筋・・
今、何を想うのかわたしにも分からない。
今のわたしは、自分の気持ちも言葉にならないお年頃




