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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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はい、いつでも!

 やることが決まったら、あとは行動に移すのみだ。

 ひとまず城塞都市までの移動手段を確保するため、捜索隊の拠点へ向かって俺たちは森を一気に駆け抜ける。

 より正確にいえば、俺を装備したミリアちゃんを抱えたノブナーガと、ネイリィの四人である。

 来る時は幼い子供の歩幅に合わせていたこともあって時間がかかったけど、今回は夫妻の足による移動なので非常に軽快だ。

 しかし速さという点ではネイリィが文字通り一歩先を行く。まるで暗殺者の如く無音のまま、枝葉すら揺らさずにすり抜けていた。

 一見すると動き難そうなドレス風の防具を身に着けているのにである。

 ……こっそり【鑑定】してみよう。




【ネイリィ・グレン・エルドハート】


レベル:114

クラス:嗤う影

ランク:☆☆☆☆☆(ミスリル)


○能力値

 HP:1900/1900

 MP:130/130

攻撃力:C

防御力:D

魔法力:C

魔防力:C

思考力:B

加速力:B

運命力:A


○スキル

 EXランク

 【解体真書・四識】


 Aランク

 【暗殺術・上級】【投擲術・上級】【影走り】


 Bランク

 【威圧】【精神異常耐性・中】【暗視】【認識阻害】


 Cランク

 【異常耐性・毒痺眠薬】【気配探知】


○称号

 【闇の申し子】【殺人者】【殺人鬼】【暗殺者】【闇の英雄】

 【嗤う影】【侯爵夫人】【親バカ】




 夫婦揃って化物か。

 この分だと、実はミリアちゃんも将来有望なのでは?

 それと『EXスキル』の詳細を調べたら……。



【解体真書・四識】

 認識した生命の、あらゆる情報が四つの段階を経て取得できる。

 四つの段階とは即ち身体、文化、精神、魂を差す。

 最終段階へ至った時、このスキルは【五識・森羅万象】に一時的に変化する。

 【五識・森羅万象】は対象のすべてを掌握する。

 だが第三段階より先は人智の及ばぬところなり。

 もし可能とするなら、それは人にあって人にあらず、狂人である。



 過去最長のスキル説明ではないだろうか。

 もはや説明というよりも、フレーバーテキストのようだ。

 だけどやっぱり、具体的な効果までは理解できそうにない。

 たぶん【鑑定】に近いことが可能だと思うんだけど……。

 などと推測している間に拠点へと到着したようだ。


「すぐに戻るから、ここで待っていてくれ」


 そう言い残してノブナーガとネイリィは護衛騎士と捜索隊らに指示を出しに行ったので、俺はミリアちゃんに小休憩を取るよう勧める。

 休める時に、休んでおいたほうがいいだろう。

 せっかくだし、俺も今のうちにできることはないかな?


 そう、例えば新しいスキルの取得とか……。


 そのことばを、まっていたー。


 せ、先生!


 とりあえず、これを、ああして、こうしてー。


 ええっ、あれをこうするんですか!?


 ほうしゅうは、いちおくまんえん、すいすぎんこうに、ふりこんでねー。


 ローンも可ですか?


 いいよぉー。


 という感じで新しいスキルを取得しておく。

 自力でどうのという決意を覆したワケではないけど、あの話をしてから、何度も視界の端にちらちら入り込んでは頼ってオーラを放たれていたのだ。

 そんなの放っておけないでしょ。

 失念していたけど、幼女神様は俺にチート転生を楽しんで貰いたいだけではなくて、自分自身も楽しみたいのだろう。ヒマそうだし。

 だから、あまり放置して拗ねられても困るワケで。

 これからも適度に構ってあげなければならず……嬉しいやら悩ましいやら。


 少ししてノブナーガたちが戻って来た。意外と早かったな。

 どうやらナミツネが先行して戻らせた捜索隊の男が、ある程度の状況を説明しておいてくれたおかげで円滑に指揮が執れたようだ。

 ここにはミルフレンスちゃんが残っていたはずだけど会うヒマもなく、すぐに発つことになった。

 すべてが片付いたら、ゆっくり話すとしよう。

 こちらの護衛騎士と捜索隊にも、守りを固めるよう指示を出したそうだし、この周辺なら魔獣に襲われる心配もないはずだ。


〈しかし、本当に護衛をひとりも連れて行かないのですか?〉

「酷なことを言うが、彼らでは魔獣に太刀打ちできない。私に同行していたのも目付役という意味合いが強くてな」


 要するに足手纏いになるそうだ。

 それほど魔獣とは強敵なのか。

 唯一知っている姿では、どうも参考にならない。


「一概に魔獣などと呼んでも、実際には様々な種類がいるからな。例え護衛騎士たちに対処可能であっても今回はとにかく数が多い。なにより……」


 言いながら歩くノブナーガが向かう先には馬が繋がれていた。


「大勢で向かうのに耀気動車では時間がかかり過ぎる。急ぐなら、やはり馬だな」


 いわゆる早馬、という奴みたいだ。

 緊急時に一刻も早く情報を伝えるために使用されるもので、俺は時代劇だったかの知識からよく知っていた。

 というか、あの車より馬のほうが速いのか。


「ちょうど二頭いる。ミリアはネイリィと一緒に乗れば日が暮れる前には城塞都市に到着するはずだ」


 言われて気付いたが、城塞都市までは距離がある。

 急がなければ、辿り着いた頃には手遅れになってしまうだろう。

 とすると、本当に少数精鋭での行動が最善手なのか。


 俺とミリアちゃんだけなら新たなスキルを手にしたことで、もっと早い移動方法もあったけど、ここでMPを浪費するのは避けたかった。

 これは予感だけど、向かう先には奴がいるはずだ

 決して油断はできないし、少しでも温存しておきたい。

 新形態ミリアちゃんのお披露目は、もう少しあとに取っておこう。




 蹄が大地を蹴る音を置き去りにして、穏やかな丘陵地帯を疾走する。

 まだ、この辺りに魔獣の影響は見られない。

 なにも知らなければ、のどかで平穏そのものの光景だった。

 俺たちからすれば嵐の前の静けさといった感じだけど。


〈城塞都市は、どれほど持ち堪えられるでしょうか?〉


 並走して馬を走らせるノブナーガに【念話】で問いかける。

 すでに出発してから二時間。

 最初に敵意を感じ取ってからだと、もっと経っていた。


「あそこの備えならば少なくとも半日は確実に耐えられるはずだ。衛兵と冒険者たちと力を合わせれば、そう簡単に落ちたりはしない」


 あまり猶予もないことは、早駆けしている点からも明らかだな。

 ふと冒険者と聞いて、金髪の軽薄野郎を思い出してしまった。

 まあ実力はあったみたいだし、冒険者の端くれなら肉壁くらいにはなってくれるんじゃないかな。期待はしてないけど。


 ……あれ、なにか忘れている気がするな。

 引っ掛かるとすれば『冒険者』と関連があったような……。

 そんな思考を遮るように、カッと眩い光が視界を包んだ。

 ほんの一瞬だったので目眩にも感じられたが、数秒後に原因がわかった。


「え……ひゃぁっ!?」


 ミリアちゃんが怪訝そうに見上げた瞬間、とてつもない轟音が鳴り響く。

 天より山が崩落でもしたのかと錯覚するほどの、ガラガラという腹の底まで痺れそうな空気の振動にミリアちゃんは身を竦ませた。


〈落ち着いてください。今のは雷のようです〉

「か、かみなりですか?」

〈正確には雷の音、雷鳴ですね。聞いたことはありませんか?〉


 小さく首を振りながらも、不安そうに再び空を見上げる。


「そういえばミリアは見たことなかったわね。でも今のはだいぶ遠かったから心配いらないわよ」


 そう言われても、しばらくミリアちゃんは空を気にしていた。

 釣られて俺も視線を上空へと向ける。

 どんよりとした空模様は、この先の出来事を暗示するかのように不吉である。

 ただ、それ以降は雷どころか雨すら降らなかったのは幸いだ。

 さっきのは一時的なものだったのだろうと、すぐに興味を失った。




 暗雲が垂れ込める曇天の下、走り続けることさらに数時間。

 途中、小川での休憩を挟んだものの行程は順調そのもので、予想より早く城塞都市の様子が一望できる丘にまで到達した。

 位置としては、俺たちは城塞都市の東側にいる。

 そして南方にある魔の森から現れる魔獣と、抵抗する人間たちを横から眺める形となっていた。


〈これは……〉


 一度、馬を止めて観察すると、遠目にも戦況はハッキリとわかる。

 城壁の前には大勢の人間たちが隊列を組み、壁を破ろうと襲いかかる魔獣を各個撃破しているようだ。

 ここで初めてまともな魔獣を目にしたが、外見は巨大な熊や猪、狼といった動物に歪な角やら牙やらが生えているという、いかにもな姿でほっとした。

 いや安堵している場合ではないのだが……しかし、もし毛玉が都市に殺到している狂気を目にしたら正気を保っていられるか自信がなかったのだ。

 それにだ。到着したら辺り一面が血の海で、肉片が散乱している事態すら覚悟していたから拍子抜けしたのもあった、

 思いの外、善戦できているのは壁上から放たれる閃光のおかげだろう。


 断続的にドォンッ、という大砲らしき爆音がこちらにまで響いており、次いで平原のど真ん中で紅色のプラズマを迸らせた爆発が起きると、その周囲にいた魔獣が吹っ飛んで動かなくなっている。

 あちこちに見られるクレーターは、これによって抉られたのだろう。

 なんとも恐ろしい兵器があったものだ。

 もちろん魔獣側も恐怖をまるで感じていないように突撃し続けているのだが、大半が爆撃の餌食となっており、運よく爆撃地帯を突破しても今度は生身の人間たちが対処するので城壁は無傷も同然だった。


〈なんだか、ずいぶんと余裕があるように思えるのですが〉

「言っただろう、半日は確実に耐えると。これぐらいできなければ対魔獣城塞都市などとは呼べん」


 備えているってのは、こういうことか。


〈しかし、あれはどれほど予備があるのでしょうか〉

「うむ、問題はそこだ」


 どれだけ強大な兵器でも、限りはある。

 弾薬は元より、砲身だって撃ち続けていれば破損したっておかしくない。

 だというのに魔獣の群れは後を絶たずに迫り来る。

 ……というより、これはもしや。


〈恐らくですが、魔獣を操っている者は弾切れを待っているようです〉

「どういうことだ?」

〈目視はできませんが、魔の森方面から未だに多くの敵意を感じます。ですが、それらが動く様子がありません〉

「……つまり敢えて小勢による攻撃で相手を消耗させ、勢いが弱まった頃に総攻撃を仕掛けるつもりか」

「えっと、これで小勢なのですか?」


 ミリアちゃんの言う通り、現状でも結構な数が押し寄せている。

 具体的な数値は不明だけど、たぶん数百体はいるはずだ。

 だけど俺の【察知】によれば、後方にはその十倍以上が残っているのだ。

 単純に計算して数千……およそ一万の魔獣軍といったところか。

 ちなみに城塞都市の人口は数万ほどで、戦える者だけでも一万近くいるそうだけど、魔獣一体の討伐に平均的な冒険者四人が必要という絶望的な差があった。


「だが、私たちにとってはむしろ好都合だ。手筈通り、ここで二手に別れるわけだが……本当に大丈夫なんだな?」

「もちろん、ですよねクロシュさん」

〈ええ、先に言われてしまいましたが任せてください〉


 救援などと言っても、たった四人では打てる手も限られている。

 正面から魔獣とやり合ってもキリがないし、先ほどの予想が正しければ総攻撃を抑えられずに数で押されてしまうだろう。

 それに対するノブナーガの打開策は、近辺にいるであろう魔獣を操っている者を見つけ出し、阻止して統率を乱す、というものだ。

 それまで城塞都市が耐えられたら俺たちの勝ちで、間に合わなければ負け。

 至極単純かつ困難な作戦である。


 道中でこれを説明された時、俺はミリアちゃんの了承を得てから立候補した。

 つまり俺とミリアちゃんで魔獣の指揮者を止めるのだ。

 当初はノブナーガがこれを担当し、俺たちには城塞都市の防衛に力を貸すよう頼むつもりだったようだけど相手はインテリジェンス・アイテムである。

 新たなスキルについて詳しく説明しつつ、これなら指揮者を探すのは難しくないと説得すれば、気が進まない様子で最後には納得してくれた。


 住人の避難も並行して行うべきではと提案するが、これは却下された。

 例え今から耀気動車で逃げても魔獣に追い付かれて逆に危ないし、耀気機関車なら振り切れるが一度に全員は乗れない。

 そもそも、その辺りはすでに検討されており、壁内に立て篭ったほうが安全との見解が出ているそうだ。

 無論、そのまま皆殺しにされるリスクもあるのだが……それでも避難中、魔獣に襲われる可能性を考慮すれば妥当か。

 実際、都市から離れてうろうろしている、はぐれ魔獣が散見された。

 どうやら付け焼刃の知識では役に立たなさそうだ。

 そういうのは任せて、俺は目の前のことだけに集中しよう。


 唯一、この騒動を解決できるらしい守護者とやらは依然として姿を見せない。

 正直なところ、そんなものが存在するのか疑わしいけど、ミラちゃんが後世に残した手記に書かれていたのなら間違いないはずだ。

 肝心なのはいつ、どこから来るのか。

 下手をすれば、多くの犠牲が出てから機能するような仕組みかもしれない。

 だとすれば最悪の展開だけは避けられるけど、ミリアちゃんが望むのは最良の展開だけなので期待しないことに決める。


 ともあれ、難しく考える必要はない。

 要点はたったひとつ、敵の親玉を瞬殺するだけだ。


〈行きますよ、ミリア〉

「はい、いつでも!」


 元気のいい返事を受けて俺は【合体】を発動させた。

 瞬時にミリアちゃんに纏われていただけの俺は、その肌に張り付いてひとつとなり、全身をくまなく包み込む。

 それと同時に、なぜか俺自身が強く発光し始めていた。

 これには覚えがある。

 あれは忘れもしない選定の儀。つい選んだ【進化】によって輝く俺。

 ということは……。


 考えている間にも光量は増して、やがて収束すると大きな変化が起きていた。

 以前ならば変わらず纏っていた白コート部分は失われ、それだけに留まらずミリアちゃんが元から着用していた衣服までも変貌してしまっていた。

 ブーツはサイハイブーツとなってふとももまで覆い、ミニフレアスカートが風に揺れた。袖口の広いジャケットの上に、肩から足下の辺りまでと、肘まで垂れる二重のマントをなびかせ、髪の上にリボンが二つ結ばれてツーサイドアップの形に固定されている。

 全体的に黒や濃紺という配色で暗いけど、各部位に走る金色のラインによる細かい意匠が、ちょっと近未来的なデザインとなって垢抜けた印象を抱かせた。

 一言で表現すれば、SF系魔法少女のブラックカラーである。

 螺旋刻印杖も、まさに魔法の杖として使えそうだ。

 どうしてこうなった。


 やはり長く伸びた黒髪を確認がてら指で弄りつつ、背中に視線を感じて焦る。

 いきなり娘を魔法少女にしておいて、任せてください、とは説得力がない。

 なんと言い訳するか悩んでいると。


「ずいぶんと可愛くなったわねミリア。ああ、今はクロシュちゃんだったわね」

「ううむ、これが前に言っていた変身なのか」


 あれ、思ったより大丈夫そう?

 誰かから聞かされていたようで、それほど驚いていないようだ。

 まあ今回の【合体】は、以前とは完全に別物なワケだけど。


「で、では、そちらも気をつけてください!」


 あまり話しているとボロが出そうなので、さっさと移動しよう。

 ミリアちゃんの背中に漆黒の翼が出現すると、体がふわりと浮かびあがった。

 そのまま姿勢制御が安定すれば、あとは翼から放出される魔力波を推進力として一気に加速する。

 ちらりと肩越しに見れば、ノブナーガの驚いている表情が遠ざかって行くのを最後に確認できた。


「あれ……スカートが短すぎやしないか?」

「最近はあれくらい普通よ」


 そんなやり取りがあったのを知ったのは、ずっと後になってからである。

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