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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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突然すみません

 時間は少しだけ遡る。

 クロシュたちが城塞都市へ向かっていた頃、東の森ではアミスとソフィーが、たき火にあたってカノンの用意したお茶を味わっていた。

 和やかな雰囲気なのに、どこか浮かない顔のまま。


「こんなにのんびりしていて、いいのでしょうか」

「ですが私たちに、できることはなにもありませんわ……」

「元気を出してください、みなさん」


 即席で設けられた粗い木製のイスとテーブルに目を瞑れば、ちょっとした優雅なお茶会にも思えた。

 ただ、ミリアの安否が気がかりでなければ。

 二人は少しでも親友の役に立ちたい一心から、この旅に同行していた。そこには彼女たちの両親があまりに鈍感で、ミリアの心を深く傷付けたという負い目もあったが、根本は間違いなく友情による想いである。

 だというのに。本人が困難に立ち向かっていったのに対し、自分たちだけ安全な場所でお茶を楽しんでいる現状は、なんともやり切れなくて、仕方ないとは理解していても溜息が出てしまうのだ。


 そんな二人の様子にカノンは、この場にクロシュがいたとすれば『お二人は十分ミリアの役に立っていますよ』と慰め、褒めてくれたに違いないと予想した。

 そのクロシュにしても無事に帰るのを待つしかなく、自分が代わりになろうと考えるほど余裕もない。

 実のところカノンもまた、それなりに心配して、落ち着かなくて、なにもできない自分が情けなくて……などなど、とにかく二人に負けず劣らず気が滅入っていたりするのだが、そこは一流のメイドだった。

 二人の不安を助長させないために、平然と振舞えるよう努めている。


「さ、お代わりをどうぞ」

「ありがとうございます。あの、カノンもご一緒してはどうですか?」

「そんな私などがみなさんと同じ席には……」

「カノン、ここは森の中ですわ。誰も咎めたりしませんわよ。だいたいミリアとは二人っきりの時、以前のように親しく接するそうではありませんの」

「それは……」


 生まれた時よりミリアの侍女としての未来を決定付けられ姉妹同然に育ったカノンは、かつてアミスやソフィー、ミルフレンスとも幼馴染の関係にあった。

 だが明確に侍女としての立場となってからは、特に人前では決して以前のように気安く話しかけなくなっていたのである。


「便乗するわけではありませんが、私はカノンを今も親友だと思っていますよ」

「私もですわ。それにずっとミリアを支えて来たのですから、少しくらい休んでもバチは当たりませんわよ」

「お二人とも……」


 素直に彼女たちの言葉は嬉しかった。

 それでも、ここで甘えてしまうと自制心が利かなくなってしまいそうなので丁重に断ろうとカノンは決める。

 ただし、今だけは。


「お嬢様……いえ、ミリアとミルフィに、クロシュ様も揃ってからだったら」

「たしかに、そうですね」

「約束ですわよ」


 だいぶ陽が昇って、冷えていた気温も上がって来たようだった。

 もうすぐ冬季も終わり、暖かな春季を迎える。

 それまでに煩わしい問題など片付けて、みんなでお茶会を開きたいと、カノンはささやかな夢に想いを馳せた……その時だ。


 甲高く澄んだ音色が森に響き、誰の耳にも届く。

 これは即座に異常を知らせるために、見張りの騎士たちが所持する笛の音だ。

 三度に渡って吹かれた笛。それが意味するものは、敵襲であった。


「総長さん、これは!」

「お嬢様方はすぐに小屋の中へ!」


 他の護衛騎士たちと共に待機中だったナミツネは、笛の報告を受け取ると飛び出し、それまで談笑に耽っていたカノンたちに小屋へ入るよう促すが……。


「全てにおいて遅し」


 しわがれた声が制止した。


「ひっ」


 声がした方へ振り返れば、そこには虚ろな目をした人間と、異形の怪物が何十体と円を描くように立ち塞がるのを見て、誰かが小さく悲鳴をあげた。

 同時に、逃げ道はないのだと悟らされる。

 護衛騎士たちもまた、カノンたちを守るように円陣を組むが心許ない。

 闇から生じた黒の巨躯に、人間すら容易に潰せそうな巨椀、二本の捻じれた大角と、血を垂らした真っ赤な瞳、そして皮を剥いだ人面にも似たおぞましい顔。

 この怪物……まるで伝承に登場する悪魔のような存在に恐怖していたのだ。


「……何者だ」


 いつになくナミツネは焦る。

 元々は見張りを四方に立たせ、有事には先んじてカノンやアミスたちを避難させるつもりだった。

 場合によってはオーガの集落へ向かわせれば、自分たちが敵わなくとも彼女たちを守るという使命は果たされるだろうと。

 しかし現実は成す術もなく包囲され、敵は得体の知れない怪物とくれば焦燥感に駆られるのは無理もないだろう。

 だが、決して表には出さない。

 ここで弱みを見せてるのは愚策と己を厳しく戒めたのだ。

 そして冷静さを失わず、少女たちを逃がす突破口を探し続ける。


「む……当主とやらの姿が見えぬな」

「なに、まさか貴様は?」

「拙僧の目的はエルドハート家の当主である。隠すと為にならぬぞ」


 薄々と感付いてはいたが、怪物たちを率いているのは先端に毛を取り付けた奇妙な棒……筆と呼ばれるペンの一種を手にした男だとナミツネは断定した。

 ならば、この者さえ抑えれば……そう思案するも、次の瞬間には身動きが取れなくなる。


「おっと、言い忘れるところであった。迂闊な真似は控えたほうがいい。この者たちの命が惜しければだが」

「卑劣なっ!」

「な、なんてことを、酷い……っ!」


 見張り役だった護衛騎士たちが、怪物に手足を掴まれ宙釣りにされていた。

 不自然な方向へ折れ曲がった腕や脚から、かなりの重症であると窺えたが、まだ小さく呻き声をあげている。

 あまりに残酷な光景に、アミスたちは顔色を悪くしながら元凶を睨みつける。


「さあ、どこにいるのか早々に白状せよ」

「……ここには、いない」

「なんだと? いや、よもや結界を……さては城塞都市に向かったのだな?」


 この怪物を率いる男が悪意を持ってノブナーガを追ったとしたら、取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。

 ここで食い止める必要があるとナミツネは覚悟を決める。

 そのためにも、まずは後ろの三人を逃がすのが先決だった。

 周囲の護衛騎士たちも、そんな意図を察したくれたのか、さり気なく立ち位置を変えたのを確認すると会話を続けながら機会を窺う。


「さて、どこだったか」

「……まあいい。それはそれで支障なし。それに拙僧には、新たな用事ができてしまったからな」

「なに?」

「ふふふ、貧乏クジを引かされたと嘆いたものだが、天は拙僧を見捨てなんだ」

「いったい、なにを」

「お主らは用済みだが、後ろの娘たちを差し出すのであれば命は見逃そう」


 そう言って指差さしたのは、間違いなくアミスたちだった。

 息を呑む気配が周囲の騎士たちにも伝わる。

 目的は不明だが、よからぬことを企んでいるのは明らかだったからだ。

 さすがに予想外の展開でも、ナミツネは動じない。

 するべきことは変わらないのだから。


「断る。そして、これまで貴様が働いたすべての罪、ここで償って貰おう!」


 一斉に騎士たちが剣を構えて動くと、虚を突かれたらしい怪物たちの何体かが成す術もなく斬り裂かれ、意外なほど呆気なく地面に沈む。


「ば、馬鹿な! 人質がどうなっても構わぬのか!?」

「我らを無礼(なめ)るなっ! 我が身可愛さに主君を売る騎士などおらんわっ!」


 元より、護衛騎士のすべてが覚悟を決めた者たちである。

 いざとなれば見捨てるし、仲間の足を引っ張るくらいなら自害する。

 その程度、できなければ騎士は名乗れない。


「ちっ、愚か者め! ならば望み通りに……」


 人質を引き裂けと命令を出そうとするも、その判断はあまりに遅かった。

 たしかに見捨てる覚悟はあるが、救えるのであれば見捨てない。

 見せつけるために前面へ出していたのもあって、人質を掴んでいた怪物共は優先的に騎士の剣を受けていたのだ。

 死体が塵に変わる光景は不気味だったが、人質の解放にも成功する。

 それは、勝機はあると勢い付くのに十分な戦いの幕開けであった。




 筆のインテリジェンス・アイテム……ムドウは内心で唾を吐く。

 せっかく良い戦利品が手に入ろうとしていたのに、思わぬ邪魔が入ったからだ。

 というのもムドウが召喚した怪物は『蛮魔族(サバンディット)』という魔物であり、その見た目こそ悪魔のようで恐ろしいものの完全に別物で、実力は今一つ。

 言わば、こけおどしの魔物だった。

 人質がいれば抵抗はできないと侮っていたのが災いし、完全に機先を制された。

 残る優位性が、もはや数だけなのは明白だ。


 おのれ、大人しく従っておればよいものを……!


 激しい呪詛を送るも、そんなスキルは持っておらず効果はない。

 得意とするのは【魔法陣形成】で、それも召喚系、ついでにDランクと低レベルだった。

 ただし、これでも彼らの中では、使い捨て可能な兵士を補充できるとして重宝されているスキルだったりする。もっとも、そこに仲間たちによる多大な助力があって初めて認められる程度の有用性だったが。

 結果としてムドウは幹部にまで成り上がれたものの、それを自身の実力であるなどと過信して驕らなければ、騎士を相手に苦戦はしなかっただろう。

 しかし過去を省みない男は、この場においても慢心していた。


 ムドウは蛮魔族におざなりな指示を出しながら、意識は別にあった。

 騎士に守られる美しい少女たちを、まるで品定めをするように、ひとりひとり順番に見つめていたのだ。

 その粘っこい視線には、下劣な欲望が込められている。


 元より、このムドウに国やら魔獣事変など興味はなかった。

 ここへ訪れたのも、ただ仕事をこなすためである。

 ついに発令された最終作戦『第二次魔獣事変』において、ムドウの役割は未だ存命の当主、ノブナーガ殺害にあった。

 当初はルーゲインを始めとする仲間の魔力を借り受け、どうにか召喚できた上級悪魔に命じていたのだが……。

 上級悪魔は結界内に封じ込めたという報告から、あれこれ理由をつけては始末せず、契約期間まで時間を稼ぐつもりなのが明らかだった。

 それでも、英雄クラスであるノブナーガを隔離できているのなら、下手に手を出すべきではないと一度は判断していたものの、そこへ確実に抹殺すべきという同盟国……『武王国』の主張と対立し、傍から見れば滑稽なほど混迷する事態へ発展したのが致命的であった。


 ついに作戦が決行されたのも、やはり武王国側からの圧力によるものだ。

 深く話し合いが行われていれば違った展開も望めたが、そもそも同盟関係といっても思想が大きく異なっており、その時点で相互理解は無理な話だった。

 とはいえ万が一にも、かつての魔獣事変を収めたという手段が行使されれば計画そのものが破綻し、双方に大きな損害が出てしまう。

 確実にノブナーガと、その救出に向かったとされる新当主を葬るべきであり、そこで白羽の矢が立ったのが上級悪魔を召喚したムドウだったのである。


 しかし、これにムドウは猛反対していた。

 なぜなら『第二次魔獣事変』の正体は侵略戦争であり、その中で略奪が起きようとも黙認されることは武王国側に確認済みだったからだ。

 わざわざ都市から離れた森に向かうなど、なんの役得もない。


 初めはこのような役回りを恨んだものだが……よもや、このような場所で、このような逸材に出会うとは。なんたる僥倖! 天が与えてくれた好機に違いない!


 勝手な妄想に執り憑かれた男には、もはや他のなにも考えられない。

 すでに遠く離れたノブナーガのことも、計画すらどうでも良くなった。

 見目麗しい少女たち以外は目にも入らないし、耳にも届かないのだろう。

 だから……遠方より轟く雷鳴にも気付かない。

 すべては一瞬の出来事だった。


「ぐっ!」

「うおぉ!? な、いったいなにが……あ?」


 轟音と閃光の後、すべての蛮魔族は煙を上げて消失していた。

 なにが起こったのか。

 ムドウは元より、ナミツネらも理解できなかった。

 ただ戦闘に参加していなかったアミスたちだけは揃って宙を見つめている。


「師匠の魔力……なのに、どこにもいない」


 抑揚のない声に、ようやくムドウも彼女の存在に気付いた。

 そして、この場にいる誰よりも驚愕することになる。


「なっ、は、【白龍姫】……!?」


 かつての名を呼ばれて一瞥するも瞳に浮かぶ感情は、興味なし。

 一方でムドウは、記憶を手繰って何度も確認する。

 ほんの数度だけ目にしたことのある、美しい白雷の姫。

 長い白髪をなびかせ、純白のドレスの裾をふわりと揺らしながら着地し、手に携えた雷の輝きを放つ優美なレイピア……そのどれもが記憶と相違なかった。


 だが、なぜここにいるのか、という疑問に答えは出ない。

 先ほどのできごとが彼女によるもので、蛮魔族は傍から見れば魔物でしかないため攻撃されたのは理解できたものの、その目的までは不明だった。

 ムドウは下手をすれば、召喚主である自分までもやられるのではと警戒する。


 そんな恐れもつゆ知らず【白龍姫】ことヴァイスは平然と視線を巡らせた。

 なぜ彼女がこの場に現れたのか?

 理由はクロシュとの会話と、某神様にあった。


『特に問題がなければ城塞都市に滞在して冒険者ギルドへ通ってください。こちらも時間を見つけて向かいますので、そこで落ち合いましょう』


 すれ違いを懸念したクロシュの言葉だ。

 実際のところヴァイスは、隣国より僅か一日という脅威の速度で城塞都市まで移動できたため、その気になれば待ち合わせる必要もなく合流できていたのだ。

 しかし彼女は言われた通り、待つことにした。

 もちろん本人は、すぐにでも馳せ参じる心持ちであったが、指示を無視して不都合があれば合わせる顔がないと、唐突に天啓が降りて思い直したのだ。

 天啓というより、やけに具体的な声だったのだが不思議と気にならない。

 そして二日後、今回の魔獣騒動が起きたことでクロシュの言葉を思い返す。


 問題がなければ滞在しろとは、問題があれば滞在しなくとも構わないのでは?


 そう無理やり解釈し、ここぞとばかりに都市を文字通り飛び出したのである。

 幸いヴァイスは、魔力を識別できるスキル【幻想知覚】によって、クロシュの魔力から追跡が可能だった。特に強く長く魔力を行使した地には残留魔力となって、より明確に視えるのだ。

 そうして空を駆けて降り立ったのが、この場所だった。


「師匠の魔力を感じる」


 声をかけたのはクロシュと共に行動していた者たちだ。

 特にアミスとソフィー、カノンたちは結界に包まれていた時間が長かかったこともあってか残留魔力は濃い。

 得体の知れない人物が近付くのに対し騎士たちは構えたが、それをアミスは制すると自ら歩み寄る。

 ヴァイスが三人とクロシュに強い繋がりを感じているのと同時に、真っ白な容姿とレイピアの組み合わせにアミスはひとりの人物に思い至ったのだ。

 つい先日、耳にした心強い味方……その名は。


「もしかしてホワイト……いえ、ヴァイスさんですか?」


 答えはなかった。

 ただ凍てついた表情に、ふっと柔らかい笑みを浮かべる。


「把握しました。あれが我らの敵ですね?」


 鋭利なレイピアの切っ先がヒュッと風を切り、まっすぐムドウへと向けられる。


「ま、待たれよ! 誤解である、拙僧はそのような……」

「あの方がいきなり攻撃して来たのですわ!」


 状況をイマイチ理解していないソフィーだったが、悪者が言い逃れようとしていることだけはわかって言葉を被せる。

 どちらにせよヴァイスの中で行われた独自の敵判定は覆らないのだが、これに慌てたのはムドウである。


 ど、どうすれば……いや、ここは落ち着くのだ!


 必死に頭を働かせたムドウは、ひとつだけ可能性を見出す。

 相手は最強とされる七人のひとり。

 しかし、彼女もまたインテリジェンス・アイテムであることに変わりはなく、人間に装備されなければステータスはガタ落ちする。

 改めて見れば、やはり【白龍姫】の姿は庭園で見かけた【人化】している状態と同一であるとわかった。

 つまり、今のヴァイスは大幅に弱体化しているのだ。


 ま、待てよ、だとすれば……あいつを呼びさえすれば!


 先ほど蛮魔族が瞬殺されたことから、生半可な魔物では太刀打ちできないのは明白だったが……。


 それが上位悪魔であればどうだ?

 もしも、ここで【白龍姫】を倒したらどうなる?

 あれが……拙僧の戦利品ではないか?


 ムドウは、存在しない喉が鳴ったような気がした。

 燻っていた欲望の炎が、再び盛り始める。

 仮に、もしここでムドウが逃げ出していたとしたら、ヴァイスは優先順位から放っておいた可能性もあった。

 だがそうしなかったのは、本来なら高嶺の花だったはずの相手に手が届き、そのすべてが手に入ると錯覚してしまったからだ。

 だから、戦うなどという手段を選択してしまった。


 上級悪魔とはすでに契約しているが、この森のどこかにいるというだけで、この場へ呼ぶには時間が必要だ。

 契約していれば思念を飛ばしての命令も可能だったが、もっと早く強制的に呼びよせる魔法陣を描く方法を取ることにする。

 それには時間を稼ぐ必要があり、まず手持ちの蛮魔族をすべて召喚する。

 五秒もあれば上級悪魔が現れ、召喚主を守るために戦うだろう。


 ――おっと、殺してしまっては意味がない。身動きできぬ程度まで痛めつけ、あとは拙僧が新しく手に入れたスキルで隷属させれば、あとは思いのままに……それだけではない! あの美しい少女たちも、拙僧の所有物だ! ふ、ふはは、ふはははははははははは!!


 ムドウにとって唯一の幸福は、己の死を自覚できなかったことだろう。

 まさに電光石火の速さだった。

 目にしていたはずのナミツネですら、完全には見切れないほどに。


 ヴァイスは敵が魔力を行使する気配を察すると、瞬時に動いた。

 まず最も近くにいたアミスの手を取ると、【人化】を解除すると共に、もうひとつのスキルを発動させる。

 それは【精霊化・雷】という、自身と装備者の肉体を対応した属性エネルギーへと変換させて、その特性を意のままに操るものだ。

 さらに連動スキル【雲耀】により『相手の行動より必ず一手前に攻撃できる』という結果を生み出す、この世界で『確定事象』と呼ばれる性質を持つ因果の隔絶を引き起こした。


 結果、稲光の速さにて雷撃の刺突を叩き込まれたムドウは、さながら白き雷龍に呑み込まれたかのように、操り人形となっていた罪人もろとも消炭へと成り果てたのである。


「突然すみません。事後承諾になりますが、御身をお借りしました」

「い、いえ、お構いなく……」


 一連の行動はヴァイスの意志によって半ば操られるように行われたのだが、ある程度の剣術を修めているアミスは、その極致を垣間見た気がした。

 改めて握られているレイピアに視線を落とすと、白というより白銀で、流麗な装飾を施された柄は戦闘用ではなく観賞用の、宝剣の一種ではないかと疑いそうになるほど美しいと感嘆する。

 もう少し見ていたかったアミスだったが、ヴァイスは再び【人化】すると。


「ところで、お聞きしたいのですが師匠……クロシュ様はどちらに?」


 まるで何事もなかったかのように、そう切り出した。

思ったより長くなり

目標だった年内での二章終了が叶わなくなりましたが

そのぶん、じっくり納得がいくように書いてみます。

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