第7話 ちいさな宝物の箱
数日後の午後、オティリエが再び王宮へ遊びに来てくれた。
今回の部屋には、前回の積み木のほかに、小さな木の人形や布の端切れが用意されている。初対面のときのように入り口で立ち尽くすことはなく、私たちは「こんにちは」「また、あえたね」と、少しだけ慣れた声で挨拶を交わした。
お茶の席で温かいミルクを飲んだあと、オティリエが付き添いの大人の方を振り返った。
「あの……きょうは、おうちから、もってきたものがあります」
付き添いの侍女が、控えの卓に置いてあった荷物のひとつを、絨毯の上へ運んでくれた。
付き添いの侍女は、絨毯へ荷物を運ぶ前に、もうひとつの小箱を王宮の侍女へ預けていた。髪飾りを入れてきた飾り箱だ。そちらは部屋の隅の高い棚へ置かれ、母もその場所を確かめていた。
絨毯の上に置かれたのは、それとは別の、子どもの両手に乗るくらいの丸みを帯びた木の箱だった。蓋には可愛らしい小花の模様が描かれている。
「これ、なに?」
私が覗き込むと、オティリエは少し照れたように背筋を伸ばし、蓋をそっと開けた。
「わたしの、たからものの、はこです。おにわの、おはなしをするときに、おみせしたくて」
箱の中には、乾かした白い押し花が挟まれた小さな紙や、人形用の小さなエプロン、それに色とりどりの綺麗な小石やリボンが、丁寧に並べて収められていた。どれも高価な宝石ではないけれど、一つ一つが傷つかないよう、柔らかい布の上に置かれている。
「この、しろいの。まえに、はなしてくれた、おはな?」
「はい。おうちの、おにわにさいていたのを、はさんだんです」
オティリエは押し花の紙を両手で持ち上げた。薄い端が揺れると、私は慌てて下から手を添えた。花びらの先が折れそうで、二人とも口数が少なくなる。
「きれい。……こっちの、ちいさいふくは?」
「おにんぎょうの、おようふくです。あちらの、きの、おにんぎょうにも、はいりますか?」
私たちは宝物の箱から小さなエプロンを取り出し、王宮に用意されていた木の人形に着せてみた。少し丈が長かったけれど、紐を結ぶところは乳母に手伝ってもらうと、可愛らしく収まった。
ただ、そうして遊んでいる間、私はオティリエが時々、自分の頭の右側へ小さな手をやるのに気づいていた。
今日の彼女の髪には、銀の細工に小さな青い石がついた、立派な髪飾りが留められている。さっきお茶会の最初に、公爵家の付き添いの人が「本日のお茶会のために贈られた品を、さっそく着けて参りました」と母に紹介していたものだ。
とても綺麗だけれど、彼女が首を傾けるたびに、金具が細い髪を引っ張っているように見えた。
人形の服を着せ終えたとき、オティリエがまた、右耳の上あたりを指先でそっと押さえた。眉がほんの少しだけ寄っている。
「オティリエ。そこ、いたい?」
私が尋ねると、彼女ははっとしたように手を下ろし、慌てて首を横に振った。
「いいえ。とても、たいせつな、いただきものですから」
私は彼女の髪飾りと、下ろされた手を見比べた。大切かどうかではなく、痛いかどうかを聞いたつもりだったのだけれど。
「きれいだけど、いたかったら、いってね」
私がそう言うと、オティリエは髪飾りに目を向けてから、小さくうなずいた。
そのとき、隣の控えの間から侍女がやってきて、母と公爵家の付き添いに「別室に新しいお茶菓子のご用意が整いました。よろしければ、お庭の見える回廊へお持ちいたしましょうか」と声をかけた。
母が私たちを見て微笑む。
「アシェル、オティリエさん。お庭の見える席へ移りましょうか。その前に、お手洗いやお支度の直しは大丈夫?」
乳母が私を手招きし、私は一度、部屋の隅で手を拭いてもらうことになった。
乳母は私を自分のほうへ向かせ、袖口を支えて、濡れた布で指を一本ずつ拭いてくれた。絨毯のほうは背中側になり、私も爪の間に残った汚れを見ていた。
手を拭いてもらって戻ると、オティリエは宝物の箱の蓋を閉じたところだった。何をしまったのかまでは見えなかった。
「おはな、つぶれなかった?」
「はい。ちゃんと、しまいました」
彼女は蓋へ両手を乗せた。私も人形の服を直し、乳母に手渡した。
「おまたせいたしました。さあ、回廊のお席へ参りましょう」
付き添いの大人が声をかけ、オティリエは立ち上がった。
そのとき、絨毯の上を片付けようと、王宮の若い侍女が部屋へ入ってきた。最近この区画へ配属されたばかりの、まだ少し緊張した面持ちの侍女だ。彼女は一礼すると、絨毯の上の積み木を端へ寄せ、オティリエの「宝物の箱」も邪魔にならないよう、窓辺の低い棚の上へそっと移動させた。
私たちは大人たちに手を引かれて、明るい回廊の席へと向かった。




