第13話 白いお花と、おうちの自慢
次にオティリエが来た日は、朝からよく晴れていた。私たちは窓辺で乾かしておいた二つの小さな旗を運び、庭師に手伝ってもらって、豆の区画の端に立てた。
それから数週間が経つうちに、季節は少しずつ暖かさを増していった。
添え木に絡みついた豆のツルは、私の胸の高さくらいまで伸び、やがて葉の付け根に、蝶々の羽のような形をした白い小さな花を咲かせた。
オティリエと毎回同じ日に会えるわけではない。公爵家での用事や、王宮の行事がある週は、私が一人で庭を見に行く日もあったし、逆に私が母と別の控えの間で過ごしている間に、オティリエが付き添いと庭へ立ち寄る日もあった。
しずくを向けた木札だけでは、誰が水をやったのかまでは分からない。庭師が「今日はお嬢様がお水を」と教えてくれたり、オティリエから「あの日は、葉っぱがふえていました」と聞いたりすると、私は次の散歩で同じ場所を覗いてみた。
白い花がしぼんだあとには、その真ん中から、薄緑色の小さな平たいサヤが顔を出し始めた。
最初に見つけたとき、私は嬉しくなって、すぐにでも摘み取りそうになった。
「にわしさん、これ、もう、おまめ? とって、いい?」
手を伸ばしかけた私を、庭師が穏やかに止めた。
「殿下、よく見つけられましたね。ですが、今はまだサヤがぺたんこで、中のお豆は赤ちゃんくらい小さいのですよ。お日様の光を浴びて、このサヤがぷっくりと丸く膨らむまで、もう少しだけお待ちくださいね」
私はサヤに顔を近づけて、じっと観察した。確かに、向こう側が透けそうなほど薄くて平たい。
「まだ、あかちゃんか……。じゃあ、おおきくなるまで、まってる」
私は伸ばした手を引っ込めた。その日は庭師に土を確かめてもらってから、少し水をやった。じょうろを置いて木札をしずくの面へ返す。次にオティリエが来たら、この平たいサヤも見せよう。
数日後、オティリエが王宮へやってきたとき、私たちはさっそく庭の区画の前に並んでしゃがみ込んだ。
私が「ここ、あかちゃんの、おまめ」と教えると、オティリエは指先で触れないように気をつけながら、目を輝かせてサヤを数えた。
「いち、に、さん……ほんとうです、ちいさいのが、ぶらさがっています!」
その隣の葉に、赤いてんとう虫が止まっていた。
「こっちにも、いるよ」
顔を近づけると、虫は葉の端まで歩き、私の袖口へ移ってきた。私は袖を広げようとして、途中で手を止めた。
オティリエが足元から、小さな落ち葉を拾い上げる。
「うごかないで、くださいね。……こちらへ、どうぞ」
「……うん」
私は腕をぴんと伸ばした。彼女は落ち葉の端を、私の袖へそっと重ねる。
虫が一歩進むたび、私たちも少しずつ顔を傾けた。
ようやく落ち葉へ移ると、オティリエが私を見た。私はうなずき、今度はその葉の下へ手を添える。
二人でそろそろと豆の葉へ近づき、落ち葉を傾けて待った。
「……うつった」
「はい。ふう……」
彼女が息を吐いたので、私もようやく腕を下ろした。
戻っていく小さな背中を見送り、私は自分の袖口を確かめる。オティリエも、何も乗っていない落ち葉をもう一度覗き込んでいた。
乳母に手を洗ってもらってから、中庭のベンチに並んで座り、前の低い卓に用意してもらった冷たい果汁を飲んでいるときだった。オティリエが、自分のスカートのポケットから、綺麗に乾かした黄色い小さな花びらを一枚取り出して見せてくれた。
「あの、でんか。こないだ、おやすみの日に、おうちの、おにわで、あたらしい、おはなが、さいたんです」
「きいろいの?」
「はい。おうちの、にわしさんが、あたらしく、うえたって。それから、おにんぎょうの、ぼうしも、つくったんです。おはりこさんに、てつだってもらって」
「どんな、ぼうし?」
「ちいさい、おりぼんが、ついています。きいろいのは、わたしが、えらびました」
「おはなと、おんなじ?」
「はい。でも、じぶんでむすんだら、すこし、ななめに、なりました」
オティリエは持ってきた花びらを、器から離れた乾いた場所にそっと置いた。私はその黄色と、彼女の髪を留めた水色のリボンを見比べた。
彼女が王宮へ来ない日にも、自分で選んで楽しみにしていることがある。人形の帽子は、私がまだ見たことのない彼女の宝物だ。
あの一冊で、私は彼女の家での暮らしをどれくらい知っただろう。冷たい顔の挿絵は思い出せても、こんな帽子の話は覚えていない。
「その、ぼうし、こんど、みせてくれる?」
「はい! たからものの、はこに、いれて、もってきます」
私は果汁の器を少し端へ寄せ、花びらが濡れないようにした。次に持ってくる宝物の箱には、あの押し花と人形の服のほかに、黄色いリボンの帽子が入るらしい。
ベンチの向こうでは、豆のサヤが風に乗ってかすかに揺れていた。あの中の実が丸く膨らむまで、まだもう少し、楽しいおしゃべりの時間が続きそうだった。




