7 学会についていきました その1
「そもそも君は魔法が使えるようになったら何がしたいのかな?」
今日の日課が終わり、昼ごはんを食べている時にハラ師匠がそんな問いをしてきた。
「え、う~ん。お金持ちになりたい?」
正直急にそう言われても何も思いつかなかったので適当なことを口にしてしまう。
何がしたい?この世界で生きるために必要だから、ということしか正直考えていなかったなぁ。
「学会とか行けば簡単になれるけど…ああ、楽して稼ぎたいからお金を偽造…とかはお勧めしないよ?逆にそれを突破するのに一生かかるんじゃないかな?まぁ統一機関と知恵比べをしたいのなら止めはしないけど…」
「いやいやいやそんな犯罪じみたことは…。そうかぁ、魔法が使えれば仕事はいくらでもあるのかぁ」
「そうだねぇ。お金も何のために持ちたいかってところだよね」
「そしたら異性にもてたいとか?」
うん、世の中の男性の願いの一つだろう。正直今はそれ以前の問題だけれど。
それとうっかり口に出してしまったが女性に話すことじゃないような気がする。でもなんかハラ師匠にはついつい口が滑っちゃうなぁ。
「それも学会に出ればいいんじゃないかな?決まった人がいるなら別だろうけど、大体は生活力や名誉を見せればほいほいついてくるんじゃない?多分だけど。って決まった人も何も…って感じだよね」
「確かに、師匠としかまともにしゃべってませんしね」
二人してなんとなく笑いあう。
っていうか学会ってそんな感じなの!?
この世界ではインテリ力が大事だと考えていいのかな?ただ、魔法と科学が融合した世界の科学者っていうのはちょっとイメージつかないけれど。
あれちょっと待てよ?目標があったとしてそもそも魔法で目的を達成できちゃう可能性が?例えば身長を伸ばしたいとか、別人になりたいとか空を飛びたいとか。
「師匠、魔法自体できることしかできないとは言いますけど、その条件を突破すればなんでもできちゃいますよね?」
「そうだねぇ。莫大なコストと突破できる条件さえ整えればそうかもしれないね」
う~ん、お金でもない、異性と付き合いたいでもないとなると…
今まで金持ちや名誉を持った人が求めているような…?
「あっ、不老不死とか?」
「・・・。あ~、一応これまで四人いるねぇ」
「いるんだ!?ってことはその人たちはずっと今でも生きているってことですよね?」
「いや、四番目はいなくなったから現在は三人だね多分」
「えっ、不死者って死ぬの!?」
「条件を得て不死になったんだから、条件が満たされればそりゃあ消滅もするよ」
「そ、そうなんだ」
「不老不死を目指したいの?」
「いや、何をどうできるのかと思いついたことを口にしただけで特には…」
「それならいいけれど、多分あんまり面白いもんじゃないよ?」
面白いとか面白くないとかそういう問題なのかな?
「それはともかく、聞いた感じだと学会の権威がすごそうなんですが、どういう感じなんですか?ハラ師匠も行ったことが?」
「うん。ちょっとこっそりね。私、隠居生活じゃない?」
「…言われてみると確かに働きに出ている様子は無いですね。家庭菜園程度はやっていたり、やたら高額な金貨を持っていたりはしますけど。でも魔法使いってみんなそう言うものなのかと」
「違う違う。大体はみんな社会に出て、研究職やら探索者やら、警察だったりあとゲートの労働者だったり。要は雇われで働いているよ。最近は起業する人も増えてきたのかな?ゲートができてからだね」
「えーとそしたら師匠はプー太郎ってことですか?最初逢った時、魔法使いやってますとか言ってましたけど」
「痛いところを着くなぁ。まぁでもその通り過ぎて、言い返す気すら起きないけどね」
笑いながらあっけらかんと言う。
「あと、とにかくその学会っていうのが気になるんですが」
「おっじゃあ行く?私けっこう好きなんだよ」
「そんな気軽に行けるものなんですかね」
「ん~?学会自体は知ってる?」
「名前は前の世界でもありました」
「でも話してる感じだとなんか違いそうだねぇ」
そう言うと頭に指を当てられ
何とも言えない不快感がこみあげてくる。
「わざわざ記憶を覗く必要ないのに…、おえっ」
「こっちもちゃんと精神崩壊しそうになっているからね?」
「じゃあ尚更わざわざつらい方向性を選ばなくても…」
「お互い知っている言葉の中身が違っている場合って、説明しづらいじゃない?」
「確かにそうですけど…」
師匠は目を瞑り、こちらの記憶の検索をしている。(多分だけど)
「あっ、そういうことね!分かった分かった。その学会も正しいし、同じ意味でも使うんだよ!」
「ほうほう」
「でもね、ちょーっと違う歴史をたどっちゃったのかな。せっかくだから今日は学会見学しよう」
「わかりました、よろしくお願いします」
「先日の件もあるしちょっとあまり目立ちたくないんだけど、何かいい変装あるかな」
「自分の世界ではサングラスとマスク、あと帽子なんかが定番でしたけど…こちらにもあります?」
「あるよー。偏光レンズのことだよね?魔法で光を発して目つぶしとかも定番だから身を守る道具は結構あると思っていいかも」
サングラスなら材料と加工さえできれば魔道具?っていうのが無くても使えるから便利だよなぁ。
「お金持ちなら魔力を流す量で具合を変えたりできる便利なものもあるよ。魔道具だから高いけどね…?あ~でもどうしよう逆にそれ目立っちゃうよね?」
「この世界の人が普段使用しないならそうかもしれないですね。眼鏡ならどうですか?」
「そうしようかな。度が一見強めに見えるけど実際強くないやつにすれば、目も分かりづらくてよさそうだ」
え、作るの?魔術?魔法?
そう言って裏に行き、見た目を変えてきた師匠は牛乳瓶底のような眼鏡にベレー帽みたいな帽子をかぶって出てきた。手塚治虫!って思った。
それでもってジャージなもんで、なんだかオタク女子を彷彿とさせた。ああ、三つ編みにしたい…。
「ジャージ気に入ってますね」
「この服は文明の利器と言ってもいいと思っている。基本的にこの時代の服は着飾るか、なんか労働者っていう身なりを気にしない服が多くってね…」
時代?そういうもんなんだ?
「じゃあ行くよ。今日はねゲートの先の都市だよ」
「ゲートに入るの初めてですね。魔力流せなくても大丈夫ですかね」
「それは大丈夫。蚊も蜂も鳥も入ったら移動するし」
ホッとした。どこかのSFの転移装置の設定では物体を分解して移動、転移先で再構築、死ぬみたいな文章を読んだことがあるから…。こないだの話だと魔力で身を守れるようだし。
あれ、そしたら師匠のゲートの魔法は移動したら壁の中だった、が素で行われる可能性があるのだろうか…。ひえっ
「でもね、それで外来種の流入問題が出たこともあるんだよね…」
「ひえっ」
「ゲートの機能だけで精いっぱいだったから流石に人間以外を弾く認識機能は入れられなかったね~」
「無いものを取り入れるといろいろと問題が出てきますね」
「だね、物理的な距離が近くなれば魔法の進化が進むと思ったんだけどな」
そう小さな声でこぼすようにつぶやいた。
-----
「わっすごい!」
件のゲートを正規のルートでくぐった先には大都市が広がっていた。
ちなみにおんぶにだっこで申し訳ないが、ゲートの電車賃的なお金は師匠が支払った。
「いやー金貨の両替思ったより時間かかっちゃったごめんね。おっきなお金だったから盗難防止で魔力認証あったみたいで」
「むしろ全部頼りきりで謝るのはこちらの方ですよ…」
「まぁそんなことでお金はたっぷりあるから何か欲しいものあれば買ってもいいよ?」
「いえ、おかげさまで正直生活も困ってないし、足るを知るという感じですね。それより確かにここは大都市という感じがします。ビルとかは無いけど、建物も高いし」
「そうだねぇ、人が集中するから土地に場所を作ろうと思ったら上に行くしかないよねぇ。ビル?」
「ええと、人が住んだり、会社とかが入っている建物で何十階建てまであったりするんですよ」
「へぇ~、七太郎がいた国はきっと狭いんだねぇ」
「なんていうか地方と都心の差が大きいんですよね」
「じゃあ極端に差がある感じで実質的にはこちらと変わらないのかな?」
「だと思いますよ」
「おっ、魔法学院だ。七太郎、少し魔法が使えるようになったらここに通ってもらうよ」
「えっ!?初耳なんですが」
「私は教育者じゃないからさ、ちゃんと教えられる人に教えてもらった方が合理的だし、それに」
「それに?」
「互いに切磋琢磨しあえる友人も必要でしょ?」
「…友人」
確かに師匠と弟子はどこまで行っても師匠と弟子だし、目標と言うには大きすぎるしなぁ。
「ま、それは無事に修行を終えられたらの話だから、今日は学会に行こうねぇ」
「は、はい」
師匠…その無事に、が怖いです…




