3 魔法があるらしいです
「・・・君、魔法が使えないね?」
魔法?目の前の少女が当たり前のように言うもので面食らってしまった。
「魔法、あるんですか?」
「ふうん?」
こちらを見定めるかのようにぐるっと一周する。
そして考え込む。
「確かに見たこと無い服装だなぁ…それはなにかな?」
指さされたのは胸ポケットに入っていた音楽機器だった。イヤホンのコードが少し見えていたのを見つけたようである。
「あ、ええと、これは音楽プレーヤーでボタンを押すと曲が聞けて」
そう言ってイヤホンを耳に入れて曲を流してあげる。お気に入りのアニメの曲だ。
女の子の耳にイヤホンを差し込むのはなんか禁断の行為な感じがしたがそのことはもちろん口には出さない。
「おお!」
それだけ言葉を発すると、驚きの表情を浮かべ、真剣な顔をしたと思えば楽しそうな顔にも変わる。
そうしておそらく一曲聞き終わったタイミングで停止ボタンを押し、間違えたようで音量をあげてしまう!イヤホンを耳から急いで抜く。
「さいごのビックリしたー。いや~長生きもしてみるもんだね、こんな小さなレコードがあるなんてびっくりしたよ。ちなみにそれどうなってるの?」
「この中に入っている音楽を選んで、再生できるっていう感じで」
「違う違う、中の構造とかの話」
「構造?えーと曲をデジタルでデータ化して、コンピュータの脳みそみたいなところに記憶させて…?」
正直使っているだけで、構造なんて知る由もなく…
「ああ、もうじれったい!」
彼女はこちらのおでこに指を当て、肉食獣のような鋭い目で睨みつけてくる。
すると頭痛と吐き気と、猛烈な気持ち悪さがこみあげてきた。
「ごめんねぇ、それ拒否反応だけど体に害はない、はず」
指を離す。
「なるほどなるほど、構造は分からないけど使っているわけだね?微弱な電気信号っていうので動いているのか。
それと、君は異世界というところから来たということだね?」
その言葉に面食らう。
「先ほど魔法と言ってましたが、…まさか、鑑定かなにかの魔法ですか?」
相手の情報が読み取れる。よくゲームとかである魔法やスキルだ。
相手を知ることで対策することで出来ることは多いし、情報も得られる。一部の漫画などでは最強のスキルとも言う話だしぜひ覚えれるなら覚えたいが。
「そんないいもんじゃないよ。それにこれは私にしか使えない魔法」
そう断言した。
「簡単に説明すると、相手と自分が同じ存在に同期して、相手の記憶や情報を奪うと言ったらいいか。
これを他の人がやるとどうなるかって言うとね、自分を無理やり相手と同じにするわけだから、一つの器に二つの記憶やらなんやらが入るわけだからまぁ脳がパンクして植物人間とかになるよね」
笑いながらそう言う。鑑定怖ろしすぎる…。そんなことをして彼女は大丈夫なのだろうか。
「私?私は大丈夫。ふむ、魔法を使えないという割には魔法の知識があるようだけれど?」
「あ~それは…」
ゲームや漫画などの知識を話す。
「なるほど異世界人というのは面白いことを考えるね、でもそんな話が出るなんて、案外こちらの人間がそちらの世界に行った事例でもあるのかな?こっちに来た話は聞いたこと無いけどねぇ」
「多分無いんじゃないかと思うけど…魔法があったら何でもできちゃうし」
「そうでもないよ?できることしかできないし、できないことはできないよ?」
すごく当たり前のことを言ってる気もするけれど…。
「ねぇ、それよりその音楽プレーヤーっていうの貸してくれない?もっと聞きたい」
「一食一飯の恩はありますが、ずっと聞いてると中の電池が無くなっちゃうんですよ」
「つまりは電気が無くなるってこと?」
「そうですね」
「そしたらちょっと借りるよ」
少女は音楽プレーヤーを持つと、何やら集中する。
ボンッ
「なんか爆発した」
「え、えええっ!」
「これでいいの?」
「良い訳が無いですよ!」
「そうだよねぇなんか割れてるし焦げ臭いし。どうしたら良かったの?」
「知らないですよ…、普段は充電器を指すだけなんで、ええと100Vとかで」
「わからないなぁ、なんかごめんね?」
唯一の元の世界との繋がりが壊れてしまった。
「もう使えないなら借りていってもいい?」
思い出と言えば思い出だけど、持っていても仕方が無いものなので渡すことにする。
これで自分の持ち物は、自身と服だけになってしまった。まさに身一つで異世界に来たということに。今更だけど心細くて仕方がない。
でもとりあえずの飢えはしのげたけど、これからのことも解決したわけでもないし…。
うん、
「あの、食事までもらってこんなこと言うのもどうかとも思うんですが、どうか自分を魔法の弟子にしてください!雑用でも何でもしますので!」
深く頭を下げる。
「う~ん困ったなぁ、弟子は取ってないんだけどなぁ。でもさすがに生活の術もなくこちらの世界に来た子をそのまま放り出すのはハードモード過ぎるからなぁ。せめて少しでも面倒をみるべきか…」
何やらぶつぶつ言っている。
「よし、決めた。私はちゃんとは教えられないから君にこの世界で生きていく術を伝授することにする。そこまで行ったら、その先はちょっと当てがあるからその時に紹介することにするよ」
「あ、ありがとうございます!あ、自分は七太郎です」
「ううん、乗り掛かった舟というやつだよ。私はハラ。魔法使いやってます」
「…その服装は魔法使い特有の?」
「ううん、特有ってわけじゃないよ。みんな生まれつき魔力というものを保持しているよ。だからちゃんとという意味でなければ全員魔法使い」
「ちゃんと?」
「なんて言ったらいいかなぁ、魔法を使うには知識と経験と技術がしっかり必要なんだけど、魔力自体は誰しも流すことはできる。だから魔道具をみんな使える。だけど魔力が無いと使えない」
ハラ師匠はこちらをチラッと見た。
また知ってるけど分からない言葉が出てきた。
「魔道具というのは?」
「うん、なんて言ったらいいかな例えば熱を出すとか、冷やすとか、風を起こすとか。実際に人力でやろうとすると大変じゃない?」
確かに。こちらの世界では電気があるからできるけど。そうそう、電線が無かったから電気がそもそも通ってないということなんだった。
「だから魔道具がそれを実行できる装置で、そのエネルギーを魔力でまかなう感じかな」
なるほど!電化製品を外で作った電気を使って動かす。それがこちらの世界では魔道具を魔力(ある種人力?)を使って動かすというわけだ!
「そう考えると、電気と魔力が似たような存在なのかもしれないですね」
「ああ…そうするとやっぱりさっきの道具ももっと繊細なものだったのかな。しっかし驚いたな、電気なんてこっちの世界ではせいぜいパチパチやってるくらいかな?知ってる人も少ないしさ」
「パチパチ…」
お菓子の口の中ではじけるやつを思い出した。
「ああ、話がそれたけれどつまりあれだ!みんな職業魔法使いではないといったところ」
「確かに普通の道具を使う人も農業する人も必要ですもんね」
「そうそう。まぁとりあえず今日は休めるところ行こうか。…んーどうしたもんか」
「どうしました?」
「いやね、どうやって運ぼうかなって。おんぶで良いかな」
少女に背負われる自分を想像するとなんか変だ。もう変だとか見た目だとか気にする必要は無いのに。
「ほら、ほら」
はよ来いとばかりにジェスチャーをする。しかしこんな華奢な人の背中に乗って本当に大丈夫なのか?
そうおそるおそる、乗っかると、発泡スチロールを持つかの如くひょいっと持ち上げられた。
「見た目より。力持ちだったんですね?」
「ん?喋ると危ないよ」
そう言うと新幹線のような速さで二人は空へ吹っ飛んで行った。




