2 助かりました
「お~い」
「お~い」
ハッとなり慌てて起き上がる、が立ち眩む。
「草むらに倒れていたけど大丈夫かい」
誰かに声を掛けられるが、まだ視界は戻らない。
そうだずっと何日か歩き通しで、お腹がすいたら人に見つからないように川に降りて水を飲んで…。
そうだそうだ、川をたどれば山に辿り着いて何か食べ物もあるかもしれないと…。
ぼやーッと視界が戻ってくる。
「おや、目が開いたねぇ、でも生気がなさそうだねぇ」
目の前にいたのは少女と言ってもよさそうな自分より年下の女の子だった。13、4くらいか?
でも、初日に見かけた町の女性たちとはまるで違う、全てを隠すかのように黒いマントのような羽織りで全身を包んでいる。
飾り気のない外見とは裏腹に、緑色の宝石が付いた指輪を一つだけしているのが目に入った。
じろじろ見ているのを相手に見られていることに気付き、
「ごめん、こんなところで転がっていて、すぐどこか行くから」
疲労と寝不足と空腹で、懸命に脚に力を入れて立ち上がろうとする、
が、膝に手を当てて立ち上がった瞬間に膝がガクンとなり力が抜ける。
「あれ…」
もう一回。立ち上がれない。
その動作すらも辛い。
「ふ~む」
そう言うと少女は左から右から顔を覗き込み、顔をぺちぺち叩いたりしてきた。
それが刺激となったのか、
ぐぎゅるるるるるるる
「ぷっ、あっはっはっはっはっは、な~んだただの行き倒れだったか~!」
何がおかしいのか腹を抱えながら膝を叩いている。
普段なら腹も立つだろうが、あいにく腹の虫が鳴いているので二重の意味で立つことができない。
「そんなにおかしいですかね」
「ううん」
というと笑い泣きした自分の涙を人差し指で拭いながら言う。
「行き倒れは初めて見たから中々貴重な経験したな~って」
そんな面白いことだろうか?
「じゃあ笑ってしまったお詫びにごはんをご馳走しようじゃないか」
ごはん!
「ついておいで」
そう言うとその女の子はスタスタと先を歩いていく。
このチャンスは逃せない。そう全身に言い聞かせ、必死に力を振り絞って立ち上がり、フラフラと蛇行しながらもなんとかついていく。
-----
しばらく歩いたが、進めば進むほど人気のないような気がしてくる。
てっきり屋台やお店などに入るのかと思っていたがそうではないのだろうか。
そうして少女が立ち止まった場所は、風で木や草の音が流れる何もない原っぱだった。
??
言われるがままについてきてしまったが、もしやよからぬことを考えているのだとしたら…。
例えば臓器密売だとか…首の後ろがぞわっとする。確かに一度そう思うと、さも怪しげな服装や雰囲気も辻褄が合うかもしれない。
「さてと」
そう彼女が言うと、手ぶらだと思っていた手にナイフを握っているのに気が付いた。
腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。このままここで殺されてしまうのだろうか。
「ちょおっと待っててね~、チャチャッとやっちゃうから」
そんな気軽な宣言をする。
そして一歩、二歩近づく。
「ひっ」
後ずさりしようにも足に力が入らない!
疲労なのか恐怖なのかはわからない。
すぐ目の前に立ち止まった時、瞬間的に腕で顔の前を守る。
ああ…と思った。
…はは、なんだかんだで死ぬのは怖いんだな。
例え頭を守れたとしても、2秒先に死ぬところを20秒先になるくらいなのに。
覚悟を決め目を瞑り腕をだらんと下げる。
が、なかなかその先がこない。どうしたんだろ「あ、そうだ」
「ぼふぅ」
顔に柔らかいけど勢いのある衝撃がぶつかる
な、なんなんなん?
「・・・座布団?」
「それは特別製のとっても座り心地のいいクッションだよ、特別に貸してあげよう」
なんだかよくわからないが、それに座る。あ、やわらかい、いやめちゃめちゃ柔らかいっ!
クッション部分はそんな分厚いわけじゃないのに、永遠に吸い込まれるんじゃないかと思った。こっそりブラックホール座布団と名付けることにした。
そんなことを考えているとトントンと音が聞こえてくる。
どうやら彼女は手に持ったナイフで野菜を切っているようだ。
外なんだけど調理器具?さっきも思ったけどどこから出したんだろう?
あのマントの内側は様々なナイフや調理器具が入っているのかな?
そうなると流浪の料理人か何かなのかな?
あ、鍋も出てきた。水?知らない間に鍋に溜まっているけどどこから来た?あれ?なんかお湯沸いてる。
疑問に思うことだらけで目をこすりながらじーっと作業を見つめていると、
その視線に相手は気付く。
「おっ?あ~、ここまで何で連れてきたかって?
私も経験あるんだけどさ、ぶっ倒れるまでお腹が減って体力が消耗した状態じゃさ
やっぱり体も弱ってんのよ。でもその辺のお店のご飯じゃ味付けは濃いし、いわゆるジャンクなものも多いからさ、
そういう時は胃に負担が少ないものを入れたいんだけど、街中でこうして自炊するわけにもいかないじゃん?
今時自警団も目を光らせているし、あんまり目立ちたくもないし。
だからこうして目立たないようにここまで連れて来たってわけ。はいできたよ~、召し上がれ」
そう流れるように喋りと動作が連動して、目の前の女の子が自分に椀を差し出した。
ちゃんとスプーンもついている。
中身はおかゆかオートミールみたいな、なんか柔らかめのものであった。
よくは分からないけど仮に今毒だと言われても、もうあらがえる気はしない。口に運ぶ。
「!・・・おいしい」
「それはね、君の体がその栄養を欲しているからなのだよ」
夢中に食べ…「熱っ!」
「そりゃそうだよ~、慌てて食べるのも良くないから、逃げないしゆっくり食べなね~。まだお替りもあるよ」
言われた通り少しづつ流し込む。
今気づいたが、下がっていた体温が少しづつ戻っていく感じがした。
もしかしたら今世界一幸せかもしれないなあ。
-----
胃も満たされてきて、ようやく思考もちゃんと戻ってきた気がする。
こんな年下(だと思う)の子が怪しいだなんて自分はどうかしてたかもしれない?
いや、でも服装は何か普通じゃないし、どうも雰囲気からはおばあちゃんのような年上が年下を見るようなものを感じる。
こちらが食べるのをうんうんと頷きながら笑みをかべている…がその表情が、なんだか不思議なものを見るような顔に変わって…?
「んん~?」
顔がガっと掴まれ、そのまま数秒。
そのまま視線をゆっくり下に下ろして、胸のあたりで数秒。
「・・・君、魔法が使えないね?」




