15 決闘です
「七太郎さん、ご覚悟はよろしいですか?」
「とりあえずできることはしてきたよ」
「よろしいでしょう」
マリはフフッと笑う。決して馬鹿にしたものではなく、むしろ満足げな笑み。
いつものフリルのレースが付いた青い制服の上に、そのまま同じ色のセットのスカート。ではなく赤色で少し広がりのある、縁に刺繍が入ったおしゃれなスカートを履いている。制服というよりは民族の踊りなどを披露する時のモノといった印象だ。
「いつもとそのスカート違うね」
「これはわたくしの大切な勝負服ですの。今日は決してなめたりなんかしませんわ、技術が未熟であろうとちゃんとあなたの努力を見ていますもの」
「あ、やっぱりあれ見ていたんだ?学食の件もありがとう」
「あ、いえ違いますのよ!!しょ、勝負ごとにはあくまでフェアでないと!」
悪役令嬢というのは撤回してよさそうだなぁ。
「それにもし今回も卑劣な手を使おうとしても準備万端ですのよオホホ!」
「へぇ、どう準備万端?」
「今日のわたくしは完璧!下着まで油断しておりませんことよ!」
「えっ、どういうこと…?」
「あっ違う間違えっ!・・・とにかくそうやって取り入ろうったって無駄ですわ!」
えっ、自分何か変なこと言った?
学院内の競技場には人が集まっていた。以前見た学会の競技場よりは少し狭いが、学校の体育館くらいの広さはあるので1:1なら十分すぎるほどだ。
そして公式な決闘は見物が許可されているようだ。
相手は一学年の主席合格者、かたや一か月遅れの編入者。同じクラスの人はもとより、他学年からも来ているらしい。
そして立ち合いの学院長とバブ先生。
「先生!?」
「なんだ?」
「いえ、来るとは思っていなかったもので…」
理詰めで説明するこの先生のイメージだと、得るものもなさそうだし時間がもったいないとか言いそう!
「必要であるからな」
生徒のことを知るには必要ってこと?
そう思ったところで先生の全身が光りだす。
競技場の座席より内側全面に透明な壁が現れる。
「…すごい技術ですわ」
マリが真剣なまなざしでそれを見つめる。
結界とか防壁とかそういうやつだろうか。
そしてさっきから目に入っても見ないふりをしているが、マリの周りにはちょっとした池かと思うくらいの水が浮いている。
この間も思ったが持ち込み水はありなの?こっちなんもないんだけど。いやあったところで何もできないけどね!
「では二人とも準備はよろしいかな?」
「はい!」
「いつでも、始められますわよ」
マリはスカートの端を持ち頭を下げ「よろしくお願いいたしますね、七太郎さん」。
そして両足を広げ手を胸の高さまで上げて構え、目を閉じて集中する。
こっちはそういうのはよくわからないからとりあえず、ボクシング風のファイティングポーズをとってみた。
「でははじめ!」
学長の声が響く!
同時にマリが仕掛ける。腕から発光し
「まずは前回の復習からですわ」
一瞬復讐か?と思ってしまった。
「『水球』!!」
10個ほどのソフトボール大の水の球が形成され、こちらへ飛んでくる。
「よっ、はっ」
前回とは違って無理に魔法で応戦したりはしない。
慌てて集中するよりも避けられるなら避けた方が確実だ。
しかし少し時間差、躱しづらい配置で繰り出され、
次第に逃げ道が無くなり
「うっ…!?」
太ももを一発直撃。痛いぞこれは…!!
足止めを食ったところに顔に水球が二発!
「こなくそっ!!」
左手を前に出し、魔力を放出!
水球はすり抜けたかのように手の先から後ろの結界に。パァンッ、とぶち当たって水飛沫を上げる。
そしてもう一発はマリめがけて飛んでいく!
「行っけー!!」
しかしマリはスッと手をかざし、
「残念ですわね、元はわたくしの魔力ですもの」
ポチャンとマリの周りの水に回収される。
フゥー
息を吐く。いきなり危ないところだった。
作戦が上手く行きはしたが、なるほど本人の魔力じゃ仕方ないな。
当のマリはニヤリとしながら
「どうやったかはわかりませんが、やはりしっかり予習はしてきたようですわね」
「まぁね」
精一杯の虚勢を張る。
「ではこちらはどうかしら?」
指が一瞬で光る
来た!
微量の水が高速で打ち出される。
避ける!?
避けられた!
四つん這いになって正直みじめな姿ではあるが…。
「へぇ、気付いたのですわね…」
「流石にね、考える時間もあったし」
「でもこれはあまり魔力消費ありませんの」
マリは色っぽく口角を上げる。
指先が光る、光る、光る
避ける、避ければ、避けろ!
「はぁああ…」
緊張するなぁ…。また水攻めされたらかなわないし、
あれと同時に水球打たれたらとても避けられないだろうし…。
「そのお自慢の体力いつまで続くかしら」
「いつまでも?」
四時間くらいまでならなんとか。
マリは伸ばした人差し指を顎に当てながら、
「力尽きるまで試すのもいいのですけれど、せっかく決闘ですもの、客を楽しませなければいけませんものね」
肩から腕にかけて光り始め、先ほどと同じ水球が生成される。
「いや、違う!?」
光を反射しキラキラと輝いている。
「『氷球』!!」
水球より速いそれがこちらに飛び、
それ自体は躱せたが
ゴンッ
壁に当たり鈍い音がする。
「アレ当たったらまずいやつだな…」
「ふふふっ、かわしてごらんなさい」
すでに投擲待ちの氷球が多数準備されている。
数発飛んでくる!
ゆっくりの球、速い球、回りこむように飛んでくる球、
それを再び避ける避ける
速かろうが高速のマーキングに比べれば何とかなるレベル!
と思っていると、
ゴッ
球と球がぶつかって軌道が変わった!?????
「カハッっっ!?」
脇に氷弾がめり込んだ。
動きの止まった自分に残り数発が襲い掛かる。
一瞬なら…
両の手の親指と人差し指をL字に組み合わせ…腕を横に広げて拡大させるようにっ「広がれっ!!」
ガンッ、ゴンッ、ギンッ
後ろの壁に当たるっ。
ふぅ、何とか…
えっ…?額に、水…?
マリは銃を撃ち終わったヒットマンかのように伸ばした人差し指を上に向け、
「七太郎さん、言いましたわよね。今日は舐めたりしないって」
ヤバイっ!囲え、が来る!?
…いや、彼女の傍らの水のほとんどが、ない?一体どこに…。
「『落水』」
頭上から大量の水が落ちてくる。
水圧でグラっと来たものの、ダメージ自体はそれほどではない。
しかし水が周りに…
「『水球』」
周囲からボコッとビー玉サイズの水が大量に浮かび上がり、そのまま
「行けっ!」
自分めがけて集中砲火…。
・
・
・
「戻れ」
マリが手を宙で握り、ひっぱるしぐさで七太郎の周りから水が移動する。
何とか、
何とか腕で顔を守りつつ、
可能な範囲は、ゲートで後ろに逃がせたけども…。
あー…だめだな腕はもう使い物にならないかもしれない。
腹にも何発も当たってるし、痛いし気持ち悪い。
両腕を顔から下にぶらんとおろす。力が抜け落ちた。が正しいか?
でも、なんだか頭は冷静だ。ある種の極限状態で修行して来たからかな
もう勝負にはならないかもしれないけどね。
自虐気味に笑う…。
「七太郎さん、貴方細身ながら案外タフですのね」
「鍛えてるもんで」
「そういう男性好きですわよ。…さて、そんな貴方に敬意を払って私の今できる最高の魔法を見せてあげましょう」
ほんとにまいったな…。
マリが目を瞑りじっくりと魔力を練り上げる。
腕や上半身だけでなく、足からも魔力を吸い上げ、それを腕から手の平へ集め
「いかんな、追加」
バブ先生の声が聞こえた。
「『ウォーターカッター』」
手の平からごく細い線状の水流が発生!
そのまま七太郎の脇の横を通り抜け
結界を貫いて
その次の結界に到達した。
「ふぅ」
マリは手の甲で額の汗をぬぐう。
会場はどよっとしたざわめきが起こっている。
あれ、ちょっとどうしようもないな…。
「次は今のを横に薙ぎ払いますわ」
何かするか、降参するか選べという宣言だろう。
「では」
先ほどより多くの魔力を練り上げてるのか、
足先から頭の先まで光り、それを胸に集め、そこから右腕へ、
少しだけ気になっていたことを言ってみよう。
右腕から手の平にそして、
「『ウォーターッ』」
「それって水魔法じゃなくて圧力の魔法じゃない?」
「カッタぁー??」
手の平から水が細くというより、そのまま水道から垂れ流したようにブシャーっと流れる。
「…えっ、…え?」
マリは慌てて止め、自分の手を見つめる。
「ほ、ほほほほ、相変わらずの卑劣な手ですことね!でもまだ勝負は終わってないですわよ!」
マリは態勢を整え構え直し、
「『水球』」
周りの水から水球が一つ、二つ生成された。と思ったらすぐにポチャンと周りの水に落ちる。
「え…」
それをマリが視認すると、今まで浮いていた周りの水もバシャっと地面に落ち、染みとなって広がった。
「な…なんで…何でですの…!?『水球』!『水球』!『水球ぅぅう』!!」
最後の方には今にも泣きそうに魔法名を叫ぶ。
とても見ていられないな…。




