10 修行が終わったらしいですね
もう完全に日課になったマラソンをして、
魔道具のコンロで火を調節して昼食の準備もして、
あとそれぞれの属性の魔法の練習も少しして、
頬を両手でぺちんと叩く。
さあ猪だ!
今回はイメトレしてる分、ちょっと違うぞ?
巨大猪がこちらの姿を見つけると興奮気味になり、突撃してくる。
それは何でこいつ死んでないのか?なのか、獲物を見つけた!なのか?こっちの顔見ただけで突撃習慣がついたパブロフの犬状態なのか。いや余計なことは考えるなとにかく防御を意識!
しかし最初の位置が悪かった。集中する間が足りない!
大丈夫、少々、いやかなり早いがよけられないことは、ない!
相手が体当たりする数瞬前に斜め横に、かわす!角にも当たらないように!
よけれた!
そして先は崖だよ、さようなら!
と思ったら直角に曲がった。
「は?何その能力?」
日本の車にもその性能ほしいわ!
そしてもう一回直角。つまり180度転換してこちらに襲ってくる。
じっくり魔法を構築している暇がない!
シンプルに必要なことを最小限!
魔力の循環も最小限!
相手が踏む足元の土を、削る!
ボゴッ、スコップを一回入れたくらい削れた。イノシシはそこに足を取られ、グルグルと体を回転させながら…
・・・こちらの体を下敷きにした。
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「おーい、大丈夫ー?」
「あっ、また死んでました?」
「死んでない死んでない。ぺちゃって潰れて肋骨三本くらいは折れてたけど。
「ああ…またか」
「いやでもすごかったよ?ちゃんと自分で判断したし、次は転がってくる方角も気を付けようねってところだけど、現状の結果としては大成功だと思うなぁ」
「そうですか?でもありがとうございます!」
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その日の夕食はなんだか豪勢だった。
「こっちの世界にもハンバーグってあるんですね!」
「ああそれ?なんか騎馬民族が作り始めたのがきっかけみたいだよ」
「へぇ~」
「しかも付け合わせが芋に人参、コーンにブロッコリー。完璧すぎる!」
「違う色合いだからこそ栄養も色々取れたりするからねぇ、見た目もいいしさ。そっちも同じ感じだった?」
「大体そうですね。ファミレスなんかでは最近物価高でコーンとブロッコリーだけになったりとかありましたけど」
「ファミレス?」
「ファミリーレストランという、えーと大衆的な飲食店ですね。家族で来れるようにメニューの種類が多くて」
それを聞いた師匠はなんだか気になるようで興味深そうに眼を見開いている。
「その話おもしろいねぇ。こっちの世界だと屋台とか、飲食店も大体決まったメニューかなぁ。あとはかしこまったようなお店だとほとんどコースのメニューだねぇ」
「ハラ師匠、かしこまったお店苦手そうですね」
「いやぁ以前行ったところでね、いつもの服で行ったらフォーマルな服でこいって言われちゃった」
「え、それどうしたんですか?」
「じゃあ帰るって言ったら当時の一緒に行った人たちに止められてね、結局いいよとなったけどでもなんかジロジロ見られて嫌だった」
「ドレスとか似合いそうですけどねぇ」
「こんな子供が着ててもちゃんちゃらおかしくない?だからさ、そういうお店良いなって思って」
「まー師匠の料理には全然敵わないですけどね。ああ師匠がやったらいいんじゃないですか?」
「ん~、気が向いたらねぇ」
「それずっと向かないやつじゃないですか」
「七太郎、よくわかってるじゃない」
その後なんとデザートまで出してくれた。パウンドケーキだ。
「今日はどうしたんですか?何かのお祝い?」
「だって最後だから」
「最後?」
「修行最終日ってこと」
「・・・え?聞いてないんですけど」
「あれ?言ってなかったっけ?この世界で生きれるようにするって」
「あ、ああ・・・。それは確かにそうですけどなんだって急に」
「いやもう私の役目ないもん。自分で死なない力もついたと思うし」
「そんな…まだいろいろ聞きたかったのに」
「ううん、君はこんな山奥にいるより色んな経験をして成長していくべきだ」
短い期間だがなんだかさみしい気持ちになる。
それをごまかすようにパウンドケーキに手を伸ばす。
「うまっ!」
「舌に合った?」
「合う合う、これおいしいですね、膨らますのはベーキングパウダーかなんかですか?そもそもベーキングパウダーってあります?」
「最近流行ってるみたいだね。でもそれは使ってないねぇ」
「えっじゃあ膨らますのはイーストとかです?」
「えっとね、うまーくやると熱で膨らんで上がばっくり割れるんだよ。卵とか砂糖とか材料の効果でね」
「へ~、あっだからパウンドケーキって割れてるんだ!」
「そうそう。最初の頃は今回は大丈夫かなとかドキドキしたよ」
「ほんとにおいしい」
どんどん食べ進め、気が付いたらほとんど食べていた。師匠は一つ二つくらいしか食べていなかった。
謝ったら、いいんだよ七太郎のために作ったんだし、味わうのが目的だから少しでいいしと言っていた。
聖人かなんかじゃないか?
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・・・師匠が洗い物をしている。
やりますとは言ったけどゆっくりしていてと言われ、
ブラックホール座布団に座りながら虫の声を聴いていた。
なんだか実家を思い出す…
ちょっと眠気が…
・・・
・・・
『七太郎…。君が』
『君が魔法使いとして成長したら…』
『本気で殺しに行くから、全力で殺しに来てね』
ふぁっ!?
ああ、うん?夢か。
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「七太郎ー朝だよ~」
疲れが出ていたのか、長めに寝ちゃっていたような気がするがまだ眠い…。
一緒に食事をとりながら、
ふと
あれ、昨日の…。
でも目の前で静かに笑いながら、植物の種を植えた事なんかを話している。
やっぱり気のせいだったのか?
どうにも引っ掛かる。あんなこと冗談で言う人じゃないし、だとすれば今普通に話しているのもなんか違和感があるしで。
「あ、そうそう。コレ」
手紙を渡される。
「中央魔法学院の学院長に渡して。そしたら多分入学させてもらえると思うから。寮生活になると思うけどその方がいいよね?」
その手紙には丁寧に蝋で封がしてあり、
学院長へ ハラ
と書かれている。
「そう、ですね。下手に通いとかよりも…。あっでも学費とか」
「そこは安心して。ああ私が払うって意味じゃないよ?公的な魔法使い養成機関っていうのかな?そういうところだからむしろ学費も無料で給料も少しあったりするからさ」
「ええっすごいですね!」
「かといって卒業後の進路は自由なんだけどね。でもみんな魔法や魔道具関連や警察的な機関だったり、学会とか、あと大企業でもいいみたいだから縛られたりしないし、あまり堅苦しく考えなくていいと思う!」
「それは助かります」
深々とお辞儀をし
「この世界に来て、何もわからない自分に色々と世話をしていただきありがとうございました!」
師匠は微笑み。
「こちらこそ、人と生活するのも悪くないって思えたよ」
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ゲート駅の近くに着いた。
最後くらいは背負われて飛んでいくのは嫌だと言ったのに、師匠がどうしてもと言うものだから…。
なんなんだ?人が嫌がることが楽しいのだろうか?構い過ぎて嫌われるタイプの親か!
「そうそうこれ」
袋?・・・お金じゃん!
「いやもらえませんて」
「いいから、最初は入用になるし」
「それでもそこまでしてもらうわけには…」
「七太郎は弟子。師匠の言うことを聞くもの」
「…はい」
「よろしい。あとこれを」
音楽プレイヤーを渡される。
「音楽プレーヤー!」
「完全に同じものは無理だったけど、頑張った」
確かにパッと見では同じように見えるが、よくよく見ると大きさや形、ボタンなどが増えたり減っていたり。
「うわーありがとうございます!」
「でもこれ電気じゃないからね。魔道具でできていて魔力で音を鳴らす仕組みだよ」
「へぇ~機能はどうなってます?」
「魔力量で音量が調整できるよ。あとはね早回しも魔力を流すスピードで変えられる。まぁこれで魔力操作を練習できると思うから」
めちゃくちゃ魔法の師匠っぽい!
「スキップとかは?」
「うん?」
「ですからスキップ」
「ごめんちょっと言ってることわかんない」
「えっと、次の曲に変更するみたいな」
「それは私聞いてないからないよ?」
「・・・」
「ごめんね?全部のボタン試してから壊せばよかったね」
「壊さないのが一番ですが…仕方ないですよ、知らなかったんですもん」
ハラ師匠にはそれ以上のものをもらったから、
旅立ちには十分だ!
師匠の顔や姿を目に焼き付ける。
「では」
「じゃあ、またね」
「はい!」
師匠に背を向けゲートをくぐる。
そうだ、せっかくだから曲を聴くか。
音楽プレーヤーに魔力を流す。
♪・・・めがけ走るだけ~
魔力を止める。
・・・師匠の声じゃん。
一章 空の広さ 完




