8 ちょっとだけ魔法が使えました
「がんばれー」
空の上から師匠が声を投げかける。
昨日学会を見てから自分もなんかできるような気がしている。
目の前には見たことのある顔に傷のある巨大猪。
心なしか余裕すら感じられる。
ブモォと雄たけびを上げ、すごい勢いでこちらめがけて走ってくる。
慌てるな、集中集中…しゅう
ドゴォッ
鈍い音を響かせ、自分は吹っ飛んだ。
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「お目覚め?いやぁ惜しかったねぇ」
「あ、ああ駄目だったのかぁ…」
「いんや?魔力が発現して身体を回り始めようとしてたよ?」
「・・・学会を見た後じゃ、なんだかそれじゃ物足りないというか」
「だって、まだ魔力を認識したばかりだよ?胃を取っちゃった人に元気になるから大量に食べろって言っても無理な話じゃん?」
じゃあなんでまた猪と戦わせたのかを聞きたいけども…。
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「カレー!」
その日の夕飯に出てきたのはカレーだった。異世界ものと言えば主人公がカレーの概念を持ち込むのがテンプレではなかっただろうか?あと醤油と味噌。
「おっ、七太郎のいたところでもカレーあったの?カレー良いよねカレー」
「元は別の国の食べ物でしたよ」
「こっちもそうだねぇ。暖かい…いや熱い国の料理」
「やっぱり香辛料で腐りにくくとかしているんですかね」
「あとは結局とれるからだと思うよ?」
知っている料理を見るとテンションが上がる。いや知らない料理でもハラ師匠の料理は何でもおいしいんだけれども。
「いただきまーす」
木の匙でカレーを掬う。コメはタイ米的な長細いやつ。本格的だ!
口に運ぶ。
「・・・辛いいぃぃぃ!!!」
「ああ、どうしよう。あ、これリンゴ食べて食べて!」
渡されたリンゴ(ウサギの形に切ってある)を口に放り込む。
「ぅ、す、すっぱい…!」
「ええ?」
いつものリンゴをイメージしていたので、辛いものを食べた後なのもあってか、やたら酸っぱく感じる。でも水分で辛さが流され落ち着いた。
「ごめんねぇ、いつもの自分用で作っちゃったよ。まさかそんなに辛いだなんて」
「か、辛いの好きなんですか?」
「刺激がね…ちょっとくせになっちゃってて。ちょっと薄める?」
「い、いえ大丈夫…普段中辛くらいしか食べないものでビックリしました。すみません」
「中辛?」
カレールーの説明をする。
「へぇ~それは便利だねぇ。私はじっくり料理するのも好きだけど、都市部の忙しい人なんかにはいいかもねぇ」
「あとりんごもびっくりしました。これがここの世界の標準的なりんごですか?」
「うん。どうちがうの?」
「えっとおじいちゃんおばあちゃんの住んでる田舎でリンゴを作っているんですが甘いんですよ」
「へぇ」
興味があると言わんばかりに目が開いている。この人料理とかその関係の材料とか好きだよなぁ。
「品種的なのもあるんだと思うんですが、一つの実を太らせるためだったり甘さを引き出すためだったり、尚且つ最大量を取るために最適な摘果量とか、色付きのために葉を取ったりしたりだとかそんなことをするんですよ」
「へぇ~、なんか異常にこだわっていて変態的だねぇ」
そう見えるんだ?
「あ、でも葉を取ったら甘さは落ちるんじゃない?」
「細かいことはわからないですけど、多分そうだと思いますね。でも人に上げたりするものだと綺麗に赤付くのが重要みたいで」
「光を当てるために葉を取るってことね?私はおいしい方がいいかなって思っちゃう」
「あとは…糖度計っていうので甘さを測ったりしますね」
「興味深くはあるけど、そこまでしなくていいと思う…食べてみたくはあるけど」
「なので、いかに甘くできるかって糖度競争が…」
「あ~数値として出るから、なんとなくおいしいとか甘いじゃなくて、基準が分かっちゃうわけね~。
そっか、その数値で売れるものと売れないもの。あと値段とかが決まってきちゃうんだねきっと。甘みと酸味のバランスが大事だと思うのだけれど」
「元の世界のコメンテータと同じこと言ってますよ?」
カレーは最初は辛くてびっくりしたけどあとからうまみが感じられておいしかった。ちょびちょびながらも食べ切った。
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三回戦目
猪が鼻息を荒くしてこちらに突進してくる。
血管を巡って身体からわずかに光が漏れる。
腹や胸、肩、腕、手、指先、
ボッ
火
が足元に落ちる
「うあっっちっぅ」
影が地面に映った。
見上げると、
巨大猪の凶悪な傷のある顔。
角で上空に投げ上げられた。
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「おーい七太郎」
「わっ」
起き上がる。
・・・毎回毎回、傷も何もなくて夢でも見ていたんじゃないかと思ってしまう。
「もしかして骨丈夫になってる?今日肋骨5本しか折れてなかったよ?」
知らんがな!
「そうそう、死んだらほんとに死ぬから気を付けてね?さすがに死んだ人は生き返らせられないよ?」
そんな当たり前なことをと考えたけど、師匠なら生き返らせかねないなとも思う。
「いやいや、よくわからないけどさ、きっと魂っていうものがあるんだね。身体だけ直しても治らないし」
やったことあるんだ!?
「あ、そういえば人が死んだとき21g減るとか言われていて、それが魂の重さだとかいう話がありましたが」
「何それ気になる」
「いや、多分文学的な話だと思いますけどね」
「ふ~ん」
なんか自分が死んだら実験しそうな気配がする…。
「でも着々とできるようになってるね。きちんと魔法使えてたよ」
「思ったのと全然違ったんですが」
そう言うと師匠は、ううんと首を横に振る。
「赤ちゃんがいきなり箸を使えたらびっくりするでしょ?だからこれでもすごい上達」
そうなのか…。
「おっ不満そうだねぇ、それならハラのスパルタ式特訓に挑戦する?」
「こ、これ以上のスパルタが!?」
「どうする?」
「な、なんだか怖いのでやめときます…」
「そう」
残念そうにしているけど、死なない拷問を受け続けるみたいなのは流石に勘弁願いたいし…。
「しっかし毎度思うんですがあの猪でかいですね。元の世界では大きくても人より一回りでかい程度で。そんなんでもパワーは全然ありますけれど」
「あれは魔素の影響だね」
「魔素?」
「あ、まだ言ってなかったっけ?魔力の元になるものだよ。植物が大気の魔素を取り入れ、それを動物が食べることで体内に蓄積し、その動物を他の動物が食べればそれを取り入れられる」
「最終的に減ったりするんですかね」
「いや、魔法を使うことで空気中に拡散して元の量に戻る。だから総量は変わらないよ」
「へぇ~。人が空気から直接取り入れることは?」
「できないねぇ。そしたら無限に使えることになっちゃうでしょ?循環の形態はちょっと違うけどイメージとしては窒素が近いかな?大気中に無数にはあるけれどそのままでは活用できないってところが」
「窒素?人間にも必要なんですか?」
「もちろん。あ~七太郎の世界で人間の身体の成り立ちがもし違ってたらごめんだけど、たんぱく質とか遺伝物質とかにも窒素使ってるんだよ。でも食べることでしか取り入れられない」
「なるほど」
「それで最初の答えだけど、魔素を人は魔力に変換して様々なエネルギー状態にして使うことができる。
でも動物はそういう複雑なことができないので、本能的になんだろうけど、体を強く、固くとか筋肉を増やすとか、巨大化させるとかそういう風に使う」
「そういうことだったのか…。じゃあ人間も使おうと思えば?」
「もちろん肉体増強の魔法はできるよ。でも一つ気を付けて。通常の魔法なら魔力を必要な時に必要なだけ使うけれど、
身体能力系はある種常に使い続ける状態になるからエネルギー消費はかなり激しくなるかな」
「なるほど。なかなか使うタイミングが難しいですね」
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小話
師匠「味噌?あるよ。醤油?あるよ」
七太郎:異世界とは何だったのか…。




