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第八話 見られているもの

観測されているのは、行動じゃない。


“選択”だ。

 空気が、重かった。


 誰も、すぐには動けなかった。


 トシノリは、その場に立ち尽くしていた。


 自分の手を見る。


 何も変わらない。


 なのに。


 「……俺の力じゃなかったってことかよ」


 声が、かすれる。


 ルルは、すぐには答えなかった。


 少しだけ、間を置いてから言う。


 「完全には、違う」


 「え?」


 トシノリが顔を上げる。


 「どういう意味だよ」


 ルルは、ゆっくりと円盤を見る。


 静かなまま。


 だが、確実に“何か”をしている。


 「これは、観測している」


 一拍。


 「でも、操作してるわけじゃない」


 トシノリの眉が、わずかに動く。


 「……じゃあ」


 言葉を探す。


 「なんで、未来が見えたんだよ」


 ルルは、静かに答えた。


 「見てるからよ」


 「は?」


 「あなたが、選ぶ未来を」


 沈黙。


 意味が、すぐには理解できない。


 だが。


 ルルは続ける。


 「これはね」


 ゆっくりと、言葉を選びながら。


 「選択を観測してるの」


 トシノリの思考が、少しずつ動き始める。


 「選択……」


 思い出す。


 あの瞬間。




 避けるか、踏み込むか。


 その“分岐”。


 「……ああ」


 声が、低くなる。


 「分かれ道、みたいなやつか」


 ルルは、静かに頷く。


 「ええ」


 そして。


 核心に触れる。


 「人は、常に選んでいる」


 「右か、左か」




 「進むか、止まるか」




 「信じるか、疑うか」


 その一つ一つ。


 「それを、この装置は見ている」


 トシノリの背筋に、冷たいものが走る。


 「……全部?」


 ルルは、首を振る。


 「全部じゃない」


 一拍。


 「意味のある選択だけ」


 沈黙。


 その言葉は、妙にリアルだった。


 「意味ってなんだよ」


 トシノリが聞く。


 ルルは、少しだけ考えてから答えた。


 「変化を生む選択」


 一拍。


 「未来を変える可能性があるもの」


 その瞬間。


 トシノリの中で、何かが繋がる。


 あの日。


 助けるか、見捨てるか。


 選んだ。


 そして――


 未来が変わった。


 「……じゃあさ」


 声が、少しだけ強くなる。


 「それを見て、どうするんだよ」


 ルルは、円盤を見つめたまま言った。


 「判断するのよ」


 「何を?」


 一拍。


 「“価値”を」


 空気が、凍る。


 「……価値?」


 トシノリが繰り返す。


 ルルは、ゆっくりと頷いた。


 「ええ」


 その目が、わずかに鋭くなる。


 「どの選択が、どの未来に繋がるか」


 「どの存在が、どんな結果を生むか」


 「それを、測ってる」


 トシノリは、息を呑む。


 「……俺たちを?」


 ルルは、否定しない。


 その沈黙が、すべてだった。


 「ふざけるなよ……」


 トシノリの拳が、強く握られる。


 「人を、そんな風に見るなよ」


 感情が、滲む。


 ルルは、そんなトシノリを見て――


 ほんの少しだけ、柔らかくなった。


 「そうね」


 一歩、近づく。


 「でも」


 その目が、まっすぐになる。


 「あなたは違う」


 沈黙。


 「……何がだよ」


 ルルは、静かに言った。


 「あなたは、“観測されきってない”」


 トシノリの心臓が、大きく鳴る。


 「だから」


 円盤を見る。


 「ここまで来たの」


 その言葉の意味が、ゆっくりと染み込む。


 選ばれたんじゃない。


 “外れていた”。


 「……じゃあさ」


 トシノリが、ゆっくりと顔を上げる。


 「これ、俺を調べてるってことだよな」


 ルルは、頷く。


 「ええ」


 その瞬間。


 トシノリは、円盤を見た。


 まっすぐに。


 逃げずに。


 「……いいぜ」


 小さく、呟く。


 ルルが目を見開く。


 「トシノリ?」


 「見たいなら見ろよ」


 一歩、前に出る。


 円盤の前へ。


 「でもな」


 手を、ゆっくりと伸ばす。


 「全部は見せねえ」


 その瞬間。


 触れる。


 ――反応。


 だが。


 今までとは違う。


 光が、一瞬“乱れる”。


 線が、ズレる。


 揺らぐ。


 まるで――


 “読めない”ように。


 研究員たちがざわめく。


 「データが不安定だ!」


 「予測が崩れている!」


 トシノリは、その光を見ながら呟いた。


 「……そういうことか」


 ゆっくりと、理解する。


 「俺は、選べるんだな」


 ルルは、静かに頷いた。


 その目に、確かな光を宿して。


 「ええ」


 そして。


 はっきりと、言う。


 「観測の外で」

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