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第七話 観測装置

それは、乗るためのものではなかった。


来るためのものでもなかった。


“見るため”のものだった。

 静寂が、支配していた。


 誰も、すぐには動けなかった。


 「試されている」


 その言葉が、まだ空間に残っている。


 トシノリは、ゆっくりと息を吐いた。


 「……なあ、ルル」


 声が、わずかに低くなる。


 「もういいだろ」


 ルルを見る。


 「これ、何なんだよ」


 円盤を指す。


 「はっきり言ってくれ」


 沈黙。


 ルルは、少しだけ目を閉じた。


 そして。


 ゆっくりと開く。


 その瞳は――


 もう、迷っていなかった。


 「いいわ」


 一歩、前に出る。


 円盤の前へ。


 トシノリと同じ距離。


 だが、触れない。


 ただ、見ている。


 「これは――」


 一拍。


 「宇宙船じゃない」


 誰も、驚かなかった。


 もう、その段階は過ぎている。


 だが。


 次の言葉は違った。


 「観測装置よ」


 沈黙。


 その一言は、すべてを変えた。


 トシノリは、ゆっくりとその言葉を飲み込む。


 「……観測って」


 喉が、乾く。


 「何をだよ」


 ルルは、すぐには答えない。


 代わりに、円盤を見つめたまま言った。


 「さっき、分かったでしょ」


 「……ああ」


 トシノリは、思い出す。


 触れた瞬間。




 光。




 反応。


 “見られていた”感覚。


 「俺、だろ」


 ルルは、静かに頷く。


 「ええ」


 その瞬間。


 空気が、さらに重くなる。


 「でも、それだけじゃない」


 ルルの声が、少しだけ低くなる。


 「これは、“点”じゃない」


 「?」


 「“線”なの」


 トシノリが眉をひそめる。


 「線?」


 ルルは、ゆっくりと手を動かした。


 円盤の表面に、触れないまま。


 なぞるように。


 「あなたの選択」


 一拍。


 「行動」


 「思考」


 「すべて」


 その言葉が、重なる。


 「それを、“連続して観測している”」


 トシノリの背筋が、冷える。


 「……記録してるってことか?」


 ルルは、首を振る。


 「違う」


 一拍。


 「記録だけじゃない」


 その目が、鋭くなる。


 「“予測してる”」


 沈黙。


 その意味を、理解するまでに時間がかかる。


 「……は?」


 トシノリが固まる。


 「予測?」


 ルルは、静かに頷いた。


 「ええ」


 そして。


 はっきりと、言う。


 「未来を」


 その瞬間。


 トシノリの中で、何かが弾ける。


 未来。




 選択。




 見える感覚。


 すべてが繋がる。


 「……まさか」


 声が、震える。


 「俺が見てたのって……」


 ルルは、静かに答えた。


 「あなたの力じゃない」


 一拍。


 「“観測されている結果”よ」


 完全な沈黙。


 世界が、止まったような感覚。


 トシノリは、言葉を失う。


 自分の力だと思っていたもの。


 選んでいると思っていた未来。


 それが――


 「……全部、見られてたのかよ」


 ルルは、否定しない。


 その代わりに。


 静かに、付け加えた。


 「でも」


 トシノリが顔を上げる。


 「完全じゃない」


 その一言。


 「え?」


 「この装置は、“すべて”を観測できてない」


 トシノリの心臓が、大きく鳴る。


 「どういうことだよ」


 ルルは、ゆっくりとトシノリを見る。


 その目に、わずかな光が宿る。


 「あなたよ」


 沈黙。


 「……は?」


 「あなたは、“ズレてる”」


 一拍。


 「観測から」


 トシノリの思考が、止まる。


 「だから」


 ルルは、静かに続ける。


 「反応するの」


 円盤を見る。


 静かに。


 「観測できないものを、観測するために」


 その言葉が落ちた瞬間。


 トシノリは、ようやく理解する。


 「……じゃあこれ」


 喉が、乾く。


 「俺を、見ようとしてるのか?」


 ルルは、ゆっくりと頷いた。


 「ええ」


 そして。


 静かに、言った。


 「ずっと」


 沈黙。


 重い。


 逃げ場がない。


 だが。


 トシノリは、ふと気づく。


 「……なあ」


 ルルを見る。


 「じゃあさ」


 一拍。


 「なんで今なんだよ」


 その問いに。


 ルルは、少しだけ間を置いた。


 そして。


 答えた。


 「簡単よ」


 その声は、静かだった。


 だが。


 確信していた。


 「あなたが、“気づいたから”」


 その瞬間。


 円盤の表面に、わずかな光が走る。


 今までとは違う。


 まるで――


 “理解した”かのように。

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