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第五話 偽りの証拠

証拠は、真実を示すためにある。


だが――


“信じさせるため”に作られることもある。

 円盤は、沈黙していた。


 先ほどの反応が、まるで嘘のように。


 だが、空気は明らかに変わっていた。


 誰もが、“何かがおかしい”と気づいている。


 「……データを出せ」


 白衣の男が言う。


 研究員が端末を操作する。


 ホログラムのような映像が、空間に浮かび上がる。


 記録。




 解析結果。




 構造図。


 円盤の内部とされるデータ。


 トシノリは、目を細める。


 「……なんだこれ」


 そこには、“それらしいもの”が並んでいた。


 異星の文字。




 未知の回路。




 人体とは異なる構造の図。


 いかにも“宇宙人”の痕跡。


 だが。


 ルルは、動かなかった。


 ただ、じっと見ている。


 「どう思う」


 男が問う。


 ルルは、少しだけ間を置いてから答えた。


 「……よく出来てる」


 その一言に、空気が凍る。


 「何?」


 トシノリが振り向く。


 ルルは、ゆっくりと指を伸ばした。


 ホログラムの一点を指す。


 「ここ」


 「?」


 「パターンが揃いすぎてる」


 研究員の一人が反応する。


 「それは、合理的設計という可能性も――」


 ルルは首を振る。


 「違う」


 一拍。


 「“見せるための設計”よ」


 ざわめき。


 トシノリは、データを見直す。


 確かに。


 整いすぎている。


 無駄がない。




 揺らぎがない。


 “完璧すぎる”。


 「……そんなの、普通じゃねえよな」


 ルルが小さく頷く。


 「ええ」


 そして。


 「本物じゃない」


 その言葉に、誰もが息を呑む。


 「待て」


 白衣の男が一歩前に出る。


 「これは、我々が長年解析してきた――」


 「だからよ」


 ルルが遮る。


 静かに。


 だが、確実に。


 「長年、“信じてきた”もの」


 沈黙。


 その言葉は、重かった。


 「……つまり」


 トシノリが口を開く。


 「これ全部、嘘ってことか?」


 ルルは、少しだけ考えてから答えた。


 「嘘、というより――」


 一拍。


 「“用意された答え”」


 空気が、凍る。


 研究員の一人が呟く。


 「そんな……」


 否定したい。




 だが、できない。


 違和感が、積み重なっている。


 トシノリは、円盤を見る。


 静かだ。


 何も語らない。


 だが。


 “語らせている”気がする。


 「なあ、ルル」


 小さく言う。


 「もしこれがさ」


 喉が、乾く。


 「最初から用意されてたもんだとしたら」


 一拍。


 「誰のためなんだよ」


 ルルは、答えなかった。


 代わりに――


 ゆっくりと、周囲を見渡した。


 研究員。




 装置。




 円盤。


 そして。


 トシノリ。


 その視線が、止まる。


 「……もう一回、触れて」


 「またかよ……」


 だが、拒まない。


 トシノリは、再び円盤に近づく。


 手を伸ばす。


 触れる。


 ――反応。


 光が走る。


 だが。


 今度は違った。


 線の動きが、より複雑になる。


 まるで――


 “書き換えている”。


 「……なあ」


 トシノリが呟く。


 「これ、見てるだけじゃなくないか?」


 ルルは、静かに答えた。


 「ええ」


 一拍。


 「更新してる」


 その言葉に、全員が凍りつく。


 「……更新?」


 「そう」


 ルルの目が、鋭くなる。


 「あなたの情報を、“上書き”してる」


 「は?」


 理解が追いつかない。


 その時。


 ホログラムのデータが、変化する。


 先ほどまで表示されていた“宇宙人の痕跡”が――


 書き換わる。


 別の形に。




 別の構造に。


 まるで。


 “今この瞬間に作られている”ように。


 「……なんだよ、これ」


 誰かが呟く。


 ルルが、静かに言った。


 「証拠じゃない」


 一拍。


 「生成されてるのよ」


 その瞬間。


 トシノリの中で、何かが崩れる。


 宇宙人。




 UFO。




 未知の文明。


 全部。


 “そう思わされていただけ”?


 「……じゃあさ」


 声が、震える。


 「今までの全部って」


 一拍。


 「誰かに……見せられてたのか?」


 ルルは、ゆっくりと頷いた。


 「ええ」


 そして。


 静かに、言った。


 「“信じさせるために”ね」

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