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第四話 観測反応

それは、“動いた”のではなかった。


“見ていた”だけだった。

 静寂が、残っていた。


 円盤は、再び沈黙している。




 先ほどの反応が嘘のように。


 だが――




 誰も、さっきの現象を見間違いだとは思っていなかった。


 「……もう一度だ」


 白衣の男が言う。


 その声には、わずかな焦りが混じっていた。


 「対象、再接触」


 対象。


 トシノリは、眉をひそめる。


 人じゃない。




 扱いが。


 「ちょっと待てよ」


 声を上げる。


 「なんで俺なんだよ」


 男は答えない。


 だが、その代わりに――


 別の声が響いた。


 「記録では、初めてだ」


 振り向く。


 別の研究員。


 「これほど明確な反応は、これまでにない」


 “これまで”。


 トシノリの中で、何かが引っかかる。


 「……何回もやってんのか?」


 誰も否定しない。


 その沈黙が、答えだった。


 ルルが、静かに言う。


 「ねえ」


 男たちを見る。


 「これ、いつからあるの?」


 一瞬、空気が止まる。


 質問の意味が、違う。


 “いつ回収したか”じゃない。


 “いつから存在しているか”。


 男は、ゆっくりと答えた。


 「不明だ」


 短い。


 だが、その一言は重かった。


 「発見された時点で、すでにこの状態だった」


 トシノリは、円盤を見る。


 傷一つない。


 古さもない。


 新品でもない。


 “時間を持っていない”ような存在。


 「……なんだよ、それ」


 ルルが、小さく呟く。


 「やっぱりね」


 その目は、すでに次の段階に進んでいた。


 「トシノリ」


 呼ばれる。


 「もう一回、触れて」


 トシノリは、ため息をつく。


 「簡単に言うなよ……」


 だが、足は止まらない。


 一歩、前に出る。


 円盤へ。


 さっきと同じ距離。


 同じ位置。


 手を伸ばす。


 触れる。


 ――反応。


 今度は、すぐだった。


 光が走る。


 だが。


 前とは違う。


 線の動きが、変わっている。


 まるで――


 “なぞるように”。


 トシノリの手の位置に合わせて、動いている。


 「……追ってる?」


 トシノリが呟く。


 ルルが、即座に否定する。


 「違う」


 一拍。


 「見てる」


 空気が、凍る。


 光の線が、トシノリの動きに合わせて変化する。


 だがそれは、操作されている動きじゃない。


 観察。


 分析。


 記録。


 そんな気配。


 研究員の一人が叫ぶ。


 「データが流れてる!」


 「どこに!?」


 「分からない!」


 混乱が広がる。


 だが、トシノリには違う感覚があった。


 “見られている”。


 強く。


 逃げ場なく。


 「……なんだよ、これ」


 思わず手を離す。


 その瞬間。


 光が止まる。


 完全な沈黙。


 何もなかったかのように。


 「……やっぱり」


 ルルが、呟く。


 「反応じゃない」


 誰も、言葉を挟めない。


 ルルは続ける。


 「これは、“入力”よ」


 「入力?」


 トシノリが聞き返す。


 「ええ」


 円盤を見つめたまま。


 「トシノリの情報を、“どこかに送ってる”」


 ざわめき。


 研究員たちの顔が変わる。


 「そんなはずは――」


 否定の声。


 だが、その言葉は弱い。


 証拠が、目の前にあるから。


 トシノリは、ゆっくりと後ずさる。


 「……つまりさ」


 喉が、乾く。


 「これって」


 言葉が、重くなる。


 「俺を……見てるのか?」


 ルルは、迷わなかった。


 「ええ」


 一拍。


 そして。


 「ずっと前から」


 その言葉が落ちた瞬間。


 トシノリの中で、何かが繋がる。


 偶然。




 出会い。




 選択。


 すべてが――


 “見られていた”?


 「……ふざけるなよ」


 小さく、呟く。


 ルルは、そんなトシノリを見て――


 ほんの少しだけ、表情を和らげた。


 「安心して」


 「え?」


 「まだ、“完全には”見られてない」


 その言葉に、全員が反応する。


 「どういう意味だ」


 白衣の男が問い詰める。


 ルルは、ゆっくりと視線を上げた。


 そして。


 静かに、言った。


 「これは――」


 一拍。


 「観測装置じゃない」


 場が、凍りつく。


 トシノリが目を見開く。


 「え……?」


 ルルは続ける。


 「正確には――」


 その瞳が、鋭くなる。


 「“観測を始めるための装置”よ」

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